第三十話 中層探索開始と輝久の剣
竜魔人が鋭い爪で攻撃を仕掛けてきたのを見切って、反撃の拳を相手の胸に加減して叩きこんだ。
手加減した理由は全力でやると素材回収に差し障るからだ。
解析するにしても、素材は損傷がない方が効率的に良いみたいなので。
けれど、それでも十分で戦いは終わる。
ドラゴンとしての特性であり強靭な肉体やそれを覆う頑丈な鱗、それに加えて信じ難いほどのしぶとい生命力などがあっても今の俺の攻撃はステータス250なのだ。
D級上位のステータスではどうしようもなかったらしい。
あえなく解析率を上げる素材として竜魔人はアルケミーボックスに回収される。
そんなこんなで浅層は俺が無双して、短時間で踏破できてしまった。
試験の合格も無事にもらえたので、これで目的の一つは達成完了である。
(ぶっちゃけると中層以降もこのまま俺だけで進んだ方が圧倒的に早いんだが、あっちにはあっちの都合があるから仕方ないな)
どうやら新しく一軍に入った新人を鍛えるという目的が陽明達にはあるようなので、その機会を根こそぎ奪うのは可哀そうだろう。
それに俺自身も新人君の実力を見ておきたいという思いもあった。
(最近C級になったって話だし、今のC級の腕前を見せてもらいますかね)
陽明も輝久もC級になってから割と長いベテランだ。
その実力はC級上位だし、陽明に至ってはB級の魔物とも渡り合えるような実力者である。
それと比べて新人はどのくらい力の差があるのか。
それをこの目でしっかりと確かめられる機会がもらえるのは助かるというものだった。
(俺がC級試験を受ける際に助かるかもしれないし、最近は上級探索者を確保したいって思惑で試験が前より簡単になった、なんて噂も聞くからな)
それが本当なのか調べる上でも目の前の新人君の実力を知ることは悪くないはず。
そんな思惑を秘めて中層を進み始めた俺達だったが、最初の戦いは輝久と新人の二人でやり始めた。
出現した魔物は灼熱ゴーレムが一体だけ。
こいつは三メートルほどの大きさの、ゴーレム特有の岩の身体が常に炎を纏って燃え盛っているD級の魔物だ。
攻略法としては、まず水系のスキルや魔法でその炎を鎮火するのが正攻法だろう。
そうでないと普通は接近戦を挑むのが難しい相手だし。
ただ鎮火しても頑強な肉体は健在でVITも非常に高いこともあり、生半可な物理攻撃は弾かれてしまう。
その反面、MIDの数値は低めだから魔法などの特殊攻撃の方が攻撃は通り易い。
そんな相手に対して輝久がとった戦法は、
「刀剣選択、水の剣」
あくまで自分の得意技を押し付けるという、ある種の脳筋戦法だった。
もっとも全く弱点を考慮していない訳ではなかったが。
刀剣選択。
輝久のジョブである魔剣技師でのみ得られる、ジョブ専用スキルとも呼ぶべき特殊なスキルである。
その効果は抜いた剣に用意していた魔物の素材を融合させることで、限定的に属性剣とも称すべき装備を一時的に作り出すことができるというものだ。
今回、素材に使ったのは水系の魔物だから水の剣。
つまり灼熱ゴーレムの弱点を突ける武器である。
輝久の剣に青みがかった光が纏わりついて、その効果が発揮されたことが分かる。
その状態で輝久は灼熱ゴーレムに突っ込んでいく。それを見ながら新人はバフを掛けるための準備を進めているようだ。
かつての俺と輝久は装備だけでいえば剣を使うので、大まかに分類すれば同じ剣士という区分で分けられて、何度も競い合ってきた。だけど根本的にその戦い方などは大きく異なっている。
剣豪のジョブで一般的な剣士として剣技や身のこなしに磨きをかけていた俺に対して、輝久は見ての通り魔物の素材を利用して剣を強化する形で戦うのだ。
灼熱ゴーレムまで接近した輝久が青い光を纏った剣を振るうと、そこから水が生じたと思ったら人型の蜥蜴を模る。
(あの素材はリザードマン、いやハイリザードマンの鱗ってところか)
水のリザードマンが灼熱ゴーレムへと突貫して衝突。
ぶつかった瞬間にリザードマンは蒸発して消滅してしまうが、灼熱ゴーレムの方も全身の炎が鎮火されており、赤黒い岩肌が露出している。
今がチャンスだった。
そしてそこでタイミングを見計らっていたかのように新人の方も準備が調う。
「エンチャントアクア!」
水属性を付加及び強化する支援が輝久に届けられ、
「シッ!」
輝久が宙を走る。
どうも支援と同時に新人が足場となる土塊を周囲に作り出していたようだ。
そのまま足場を利用して敵の頭部まで辿り着いた輝久は、容赦なく手に持った水の剣を振り下ろす。
その一撃で頭部深くまで剣が食い込んだ灼熱ゴーレムは、そこでようやく反撃に移ろうとする。
こいつはVITが高いがINTやAGIが低いから、こうして敵の動きを察知できずに後手に回ることが多いのだった。
もっとも普通なら、その十分過ぎるVITで敵の攻撃を受け止めて反撃すればいいのだろうが、今回は相手が悪過ぎる。
既に致命的なダメージを受けていた灼熱ゴーレムはどうにか輝久に反撃の拳を繰り出すが、ダメージを受け過ぎて速度が出せていない。
そんな瀕死の相手の攻撃を受けるほど間抜けではない輝久は、あっさりとそれを躱すと追撃を再度頭部に放って止めを刺した。
(相変わらず面白いジョブとスキルだな)
素材さえ用意できれば相手の弱点を突けるので、輝久の対応力はC級の中でも突出していると言っていいだろう。
少なくとも属性的な弱点がある相手なら、こいつはほとんどそれを狙うことが出来るのだから。
また輝久のジョブはステータス補正が第三次職にしては低いのだが、その代わり作成した剣の質によってステータスが強化されるという特性を持っていた。
そして剣の質は使った魔物の素材によって左右される。
だからこいつは強力な魔物の素材を使えば使うほど、一時的とはいえ強くなれるということだ。
(そういう意味では今の俺と相性がかなり良いんだよな、こいつ)
なにせ俺は解析に成功した魔物の素材をMP消費だけで生み出せる。
つまりその気になればこいつに好きなだけ素材提供が可能な訳だ。
輝久はどうしても戦うためにも、強くなるためにも魔物の素材を必要とする。
だから魔物を倒す時も素材を確保できるように気を付けているし、場合によっては金を使って素材を集めているはずだから。
自前のマジックバックを取り出して、倒した灼熱ゴーレムを大事そうに回収する輝久。それを見てその状況が変わっていないことを半ば確信する。
(これも交渉の手札の一つとして使えるな)
そんなことを考えながら次の階層で出てきた火達磨。
その名の通り炎を纏った達磨という魔物ではなく玩具ではないのか、と思わずツッコミたくなるような魔物の突撃を受け止めて、一撃で破壊するのだった。
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