第二十九話 浅層踏破
第一階層のフロアに足を踏み入れると、レッドゴブリンという炎を吐く能力を獲得したF級の魔物が五体出現した。
「「「「「ギイイ!」」」」」
「次」
武器を使う必要もなかったので、無造作に近寄って拳だけで敵を排除する。
なお必要とした時間は一秒もなかった。
そこで魔物を全滅させたので、次のフロアに続く転移陣とダンジョン外へと戻れる陣が現れるが、選ぶ方は述べるまでもないだろう。
素材は全て回収して解析に回した上で第二階層へと進む
次に現れたのはヒートウルフという、触れただけで普通の人間なら火傷する高温の身体を持っている狼型のE級の魔物だった。
だが生憎とVIT250の俺の前ではその程度の熱など何の意味もなさずに、三体とも蹴り殺して終わる。
「次」
第三階層ではレッドスライム、第四階層ではマグマタートル、第五階層ではフレアイーグルなどが現れるが、どれも倒すのに要するのは数秒だけだった。
これまでの傾向から分かる通り、このダンジョンで出現する魔物のほとんどは炎系のスキルや能力などを有している。
だから対策を立てるのは簡単と言えば簡単だった。
実際に今の俺の装備も耐熱の錬金外套などだし。
(ただ今のところは装備の意味がないけどな)
このダンジョンの浅層で出現する魔物はF級からE級が多いこともあって、今の俺では物足りない相手ばかりである。
もっとも仮に中層以降に進んでD級の魔物が出てきても、それは大して変わらないような気もするが。
そんなこんなでサクサクと二十階層まで踏破した。
五や十のキリが良い数字の階層だと、出現する魔物は強くなる傾向にあるのだが、それも問題にならず。
しかもダンジョンに潜ってから、まだ三十分も経っていないというのに。
「そう言えば、俺達より先にD級のパーティが入ってるって話だったよな」
「ああ、受付の俺達の一、二時間くらい前に入ったらしいな」
陽明がそう頷く。
「このペースだと追いつくのは時間の問題か?」
「そうなったら少し面倒だな。何もなければいいんだが」
D級パーティだと浅層は突破できても、中層はそれなりに厳しい戦いになるだろう。
余程腕が良くなければ、深層まで辿り着くのも難しいはず。
仮に予想外な腕利きパーティだったとしても、普通はどこかで休憩を挟むことになる。
その分だけ休む必要などない俺達が差を詰める形になるし、どう考えてもいつかは遭遇することになるだろう。
そのパーティがヘマをして撤退でもしていない限りは。
このダンジョンでは普通の方法だと素材集めはあまり効率的にはならない。
なにせ各階層に出現する魔物は炎系に偏っていることを除けば基本的にランダムであり、その数もそれほどではないからだ。
そして一度、魔物を倒したフロアでは魔物が再度出現することはない。魔物を倒した探索者がそこから移動しない限りは。
更に途中で脱出は可能でも、再開するのは第一階層からと決まっている。
だからより良い素材が採れる深層まで辿り着くためには毎回、始めからやり直さないといけないことになるのだ。
その反面、上の階層になればなるほど魔物が手強くなっていく傾向にあり、どこまで進めたかによって自分達の力量を測る目安にもなっている。
だからここに潜るパーティの多くはそれ目当てだ。
だから恐らく俺達の先に入るパーティも、それが目的なのではないかという推察ができる訳だ。
(まあ追いついたら追いついたで仕方がないか)
前のパーティに追いつかないためにペースを調整するなんてバカバカしい真似をする気は全くない。
浅層だと一度に出現する魔物は最大でも五体ほどなので、どの魔物も一度の解析では100%にならないのだ。
(時間が余ったらこっそり周回して解析率を満たしておきたいからな)
陽明辺りなら頼めば試験を続けているということにして、再入場することを許してくれるだろう。
こうしてD級ダンジョンでも問題ない圧倒的な実力を示せば危険などないと嫌でも分かるだろうし。
そんなことを考えながら、二十一階層の油蝦蟇という魔物も瞬殺する。
こいつは全身が油塗れで、しかも敵が近付くとその油に自ら火をつけて燃え上がるという自爆技みたいなものをやってくる。
更にその発火状態だと徐々にHPを回復する上に、炎を纏った状態で執拗に突進してくるという、ある種の害悪戦法の使い手だった。
(VITも高い上に特殊な油塗れのせいで、火を纏ってない状態でも攻撃が通り難いから初撃で仕留めるのは中々難しいんだけどな)
今の俺のDEXならなまくらの剣でも何も問題ない。
敵が何かする前に剣を一閃するだけで三体同時に斬り殺して、次に進む転移門を出現させる。
ちょっとだけ発火状態の時に爆裂剣を叩きこんだらどうなるかを試してみたい気もしたが、連れがいる状態だと危な過ぎなので自嘲しておいた。
あるいは陽明だけだったのならやってもよかったかもしれないが。
そんなことを挟みながらも順調に階層更新は進んでいって、四十階層で浅層のボスとも言える魔物と対峙する。
「竜魔人か」
D級でも上位に位置する魔物であり、浅層ではボス部屋に当たる四十階層であろうとも滅多に出現しない魔物だった。
普通ならそんな強敵が出現するのは嬉しくないだろう。だが生憎と俺からしたらこいつも他の獲物と大差ない相手である。
「グオオオン!」
同じドラゴン系統の魔物だろうか、アイスドレイクとどこか似たような咆哮を上げる相手を前にしても俺に焦りはない。
だってその必要がまるでないから。
「手伝いは?」
「不要」
陽明の質問にも端的に返事して、俺はこれまでと変わらぬように余裕の態度でその足を前へと進める。
そこから浅層踏破まで必要だったのは僅か十秒ほどだった。
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