第二十八話 火炎地獄ダンジョンへ
D級の通称、火炎地獄ダンジョン。
恐ろしそうな名称をしているダンジョンだが、ある意味では楽なダンジョンでもある。
何故ならこのタイプのダンジョンは探索をする必要は全くないからだ。
「それでどの辺りまで潜る予定なんだ?」
火炎地獄ダンジョンは全部で百二十階層となっており、一から四十までが浅層。
四十一から八十が中層、八十一から百二十が深層という区分に分かれている。
深層になればなるほど出てくる魔物の強さや数が変わっていき、難易度は高くなっていく。
そして最終階層の百二十階層ではなんと、これまで出てきた魔物全てが大量に湧いてきて、それを倒した後にC級クラスのボス魔物との連戦という過酷な戦いを強いられるのだった。
その反面、どの階層も一定の広さのフロアがあるだけ。
そしてそこに魔物が出現して、それを倒せば次に進めるようになる単純な設計となっていた。
だからこそ今回の繚乱の牙のメンバーも全員が来ていないのだろう。ここでは索敵系の探索者はあまり役に立たないし。
「特に決まってないから行けるところまでって感じだな。まあ最低でも中層を踏破するくらいはしたいところだが」
この言葉からして陽明的には無理はしない方向で考えているようだ。
そしてチラッと新人の方に視線を向けていることから察するに、たぶん彼に無理をさせたくないのだろう。
(後進の育成も考えなきゃいけないって感じかな? まあいいや)
陽明なら単独でもボス手前までなら余裕で踏破できるはずだった。
同じC級でもベテラン勢の陽明達とC級になりたての新人では、その力の差というものが明確に存在している。
それこそ下手に陽明達が加減をしなければ、なりたての新人などまともに付いて来られなくなるくらいには。
「了解。それじゃあ試験もあるし浅層は俺一人でやるよ」
「いいのか?」
「その代わり倒した魔物の素材は全部くれ。そんでもって中層までサクサク進もう」
素材的にも経験値的にも深層になればなるほど美味しいので。
もっともそれが指し示すのはその分だけ魔物が強くなって危険度も上がるということだが、今の俺ならそれは問題にならない。
「へっ、どんだけ強かろうが一人でそんな連戦して大丈夫なのかねえ。途中でバテて、助けてくれー、とか言い出さないといいけどな」
「はは、面白い冗談を言うな。けど仮にそうなっても陽明にならともかく、お前如きにそんなこと言っても無駄だろ。俺が敵わない奴を相手に、雑魚剣士が万全の状態でも勝てるとは思えないからな」
「んだと!?」
「文句があるならかかってこい。格の違いを教えてやるからよ」
この挑発にヒートアップしかけた輝久だったが、その頭に陽明の拳骨が振り下ろされて強制的に黙らされた。
そのあまりの痛みに輝久は地面に膝をついて、その場から動けないで呻いている。
軽い拳骨だったのに相変わらずの威力だった。
同じC級の輝久がこうも痛がるとは。
「輝久、次は手加減しないから、やるならそのつもりでいろ」
「……ウッス」
「それと夜一も頼むからこいつを挑発しないでくれ。仮にやるとしてもそれは最後だろ」
「……分かったよ、悪かったって」
残念。ちょっとばかり挑発してC級の輝久と手合わせできれば儲けもの……とかちょっと思っていたのだが、それを陽明に察知されたらしい。
でも完全に拒否はされていないから、まだ諦めなくてもいいかもしれない。
まだダンジョン探索も開始していないのだし、そのチャンスは幾らでもあるだろうからここは無理しないで機会を伺おう。
「あの、支援はどうしますか?」
「ん? ああ、君はバッファーなのか」
先輩たちの奇行に困惑した様子の新人君は薫と同じ支援系のスキルやジョブ持ちのようだ。
「はい。支援の方が得意ですけど、回復系のスキルも幾つか持っています。だから怪我をした際は俺が回復する形になるかと」
「まあ、そうだな。輝久とかがミスして怪我でもしたら回復してやってくれ。ただ俺は不要だから」
「え?」
「だから支援も回復も要らないってこと」
当惑した様子の新人君。
さっきから無言でこちらをじっと観察している教授。
さりげなく足手まとい扱いした言葉にカチンときた様子の輝久。
そして何を考えているのか分からないが、苦笑を浮かべている陽明。
それらの視線を受けながら俺は一人で先に進む。
「まあ、とりあえず見てくれれば分かるよ」
アルケミーボックスから必要な装備を取り出して身に着ける。
浅層ならこれもいらない気もするが、こいつらに圧倒的な実力を示すという意味でも万全な状態で挑むとしよう。
そうして火炎地獄ダンジョンの第一階層へ続く転移陣へと進んでいった。
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