第十一話 異変
日刊ローファンタジーランキングの17位まで行ったようです。
また週刊ローファンタジーランキングでも65位にランクインしました。
好調過ぎて少し怖くなってきました。けどここが勝負所だと思うので頑張ります。
ボスは通常ならリポップするまで最低でも一日は必要とされている。
だがそれを短縮する方法も存在していて、それはボスを倒した後に現れるダンジョンコアにボスの魔石を返還するというものだ。
ボスを生み出すエネルギーを返還している形になるのか、これを行うとすぐにボスがリポップして再戦することが可能になるのだ。
まあ唯一の戦利品であるボスの魔石を消費してしまうから魔石を取り放題なんてことはなく、あくまで再戦できるだけ。
なので時間が経って自然にリポップしない限りは同時に二つのボスの魔石をその場で入手することはできないのであしからず。
そう思ってダンジョンコアに持っていた魔石を返却しようとしてようやくその異変に気付いた。ボスを倒してこれだけ時間が経つのにまだダンジョンコアが現れていない。
何故だ? こんなことはどのダンジョンでもこれまで一度たりもなかった。そしてこのダンジョンも何度かボスを倒したことがあるがこんなことは初めてだ。
嫌な予感がする。そう感じた次の瞬間だった。
視力を失ってからこれまでどんなことをしても何も感じなかった右目が疼いたのは。
「っつ!?」
こんなことをしている場合ではない。俺はすぐさま背後に飛んでお荷物を邪魔にならないところに放り投げると警戒心をマックスに周囲を見渡す。
「おいおい嘘だろ。さっきまで何も感じなかったぞ」
視界の端で常に黒い靄のようなものを全身に纏って輪郭しか捉えられない何者かの姿を見つける。辛うじて人型をしているのが分かるそいつのことを俺はよく知っていた。
「試練の魔物……!」
いったいいつからそこにいたのか。それともたった今、この場に現れたのか。
いやそんなことは重要なことではない。大切なのは目の前にそいつが存在しているということ。疼く右目がその事実が間違いではないと教えてくれる。
「我、試練を課す者」
「相変わらず同じことの繰り返しか? 言葉を交わすつもりはないってことでいいか?」
「汝に試練を与える」
やはり会話は無理のようだ。まあもともとそれは期待していないのでいいが。
(とりあえずやるべきことをやるか)
「外崎さん、これを使ってダンジョンの外に転移してください」
「これは、まさか転移石ですか? なんて貴重な物を」
投げ渡したのは転移石と呼ばれるダンジョン内から一瞬で脱出できる使い捨てのアイテムだ。皆で使えればよかったのだが残念ながら一人用である。
「外に出たら社長とこのスマホに入っている俺の元パーティメンバーにすぐ連絡してください。内容は試練の魔物と不意の遭遇。戦闘は避けられないと」
ロックを解除したスマホも投げて渡す。視線は決して奴から逸らさずに。
「で、ですが私だけなんて」
「いいから行け! 時間がないんだよ!」
「……っく、すみません!」
その言葉で切羽詰まった状況なのを嫌でも理解したのか外崎さんは転移石を使用してこの場から姿を消す。残すは彼らだけだ。
「愛華、お前が指示役になってすぐにこのダンジョンから脱出しろ。渡した傷薬があればビッグラットの相手をしながらでも来た道を戻るのは可能なはずだ」
「え、先輩は?」
「俺はこいつの相手をする必要があるみたいだからな」
このままこいつが逃がしてくれるとも思えない。何を考えているのか今は待ってくれているがそれがいつまでも続く保証はないのだ。そしてこいつが動き出したら最後、俺も周囲を気にしている余裕はない。
「早く行け。今回ばかりは守るとは言えないし巻き込まれたら死ぬぞ」
アイテムボックスから取り出した剣に魔力を込めて臨戦態勢に移る。先ほどまでと違った本気の圧力が伝わったのか背後から息を呑むのが聞こえた。
「……皆、行こう! ほら、立って!」
腰を抜かした鳳もどうにか連れてボス部屋を彼らは出ていった。これで残るは俺と奴だけ。
「前の時は急に襲い掛かってきたのに今回はこっちの準備が整うのを悠長に待ってくれるんだな。なあ、お前はいったい何が目的なんだ? 俺の片目を奪って何がしたい?」
「我、試練を課す者」
「答える気がないのか? それとも答えられないのか?」
「汝に試練を与える」
「まあいいさ。こんな質問は駄目で元々。その答えが得られるとは本気では思ってなかったしな」
こんな不意の遭遇戦になるとは予想していなかった。だが幸いなことにこの半年で準備は整っている。後は全力を尽くすのみ。
「探索者は不測の事態にも対応できなければならない。はは、まさか自分にその言葉が返ってくるとはな。最高だよ」
笑ってしまう。そう、笑ってしまうのだ。
この時を待っていた。俺はこの瞬間をこの半年、ずっと待っていたのだ。
「あの日から幾度なく敗北の悪夢を見てきた。ああ、ようやくだ。ようやく望み続けたリベンジを果たせる」
負ける気などない。俺は勝つためにここにいる。
勝つのは俺だ。
「さてと、無駄話は終わりにしてそろそろやろうか」
「我、試練を課す者。汝に試練を与える」
もはや答えは待たない。全力で踏み込んで敵に迫る。
(さあ、始まりだ!)
「……汝、試練を乗り越えてみせよ」
その言葉を合図にしたかのように戦いの火ぶたは切られた。
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