幕間 椎平の慣れないCM撮影とそれを見た者の評価
なんと第4回HJ小説大賞の二次選考を通過しました!
このまま最後までいけることを願いながら頑張っていくので応援よろしくお願いします!
休憩が終わりそうなので名残惜しいが夜一との通話を切って撮影に戻る。
(まったく、思っていた以上に面倒ね)
仕事として引き受けた以上はしっかりこなすつもりではあるが、急な話だったこともあって準備が十分に出来ていない状態での撮影となっていた。
本来なら企画から撮影までもっと時間を掛けるべきところを、私の気が変わってはいけないとでも思ったのか急ピッチで進めたようなのだ。
(こっちも本業の探索者としての活動があるからなるべく早めに、なおかつ長時間の拘束は望ましくないとは言ったけどね)
少し先に一日くらい撮影のために予定を開けるくらいは問題ないのだが、どうやらさっさと撮影しないと前言撤回するという風に捉えられてしまったらしい。
そこまで横暴なふるまいをした覚えはないのだが。
それとも探索者なんて野蛮人を怒らせたら何をするか分からない、なんて時代遅れで差別的な思考を持っている人が撮影関係者の中にいるのだろうか。
そこまで短絡的で暴力的な探索者などそうそういない上に上級になればなるほどそんな頭の悪い輩は少なくなるというのに。
(まあ早めに終わるにこしたことはないし、こんな事も今回限りだろうから別に芸能関係者にどう思われようと構いやしないわね)
そんなことを考えながら担当となってくれたスタイリストさんに衣装やメイクを整えてもらいながら待つことしばらく。
「それじゃあ撮影を再開します。畔川さん、お願いします」
「分かりました」
私はメイクのことなどで話をしていたスタイリストさん達にお礼を言ってから撮影へと戻る。
とは言っても別に私がやることなどそう難しいことではない。
ただ監督や脚本を書いたと思われる人達の指示された通りに動くだけでいいのだから。
(素人なんだからこういう時の動きが分からなくても仕方がないし、そういうのはCGでどうにかできるでしょ)
むしろそうでもして修正してもらわないと酷い出来になりそうだ。
なにせ私はこういう撮影とかなんて欠片も経験がない上に興味もなかったから本当に何が何だか分からないのだし。
だから出来ることはお手本を見せてくれた人などの動きを覚えて、それを参考にして真似することだけ。
何度か同じシーンを撮って、大丈夫だったのか次のシーンへと移っていった。
(それにしても本当に私なんかで良いのかしら? 日本で五人のB級探索者っていう話題性を重視したにしてもニッチな感じは否めないし、もっと別に良い人材がいると思うんだけど)
それこそ今が旬の女優とかアイドルとか使えば良いのではないか。
きっとその方、マーケティング的に正解な気がしてならない。
そんなことを考えながらも引き受けた仕事なので手を抜くなんてことはせずに、私はしっかりと指示に従いながら慣れない撮影をこなしていったのだった。
◆
綺麗な人、彼女を見て最初に思ったことがそれだった。
それは単純に外見の話だけではない。
立っている時や歩く時の姿勢、耳に髪を掛ける時などの何気ない所作。そしてなによりどんな時でも強い意志を感じさせる眩しい瞳。
どれをとっても綺麗だと私は感じさせられた。
(今まで撮影で色んな綺麗な人は見てきたけど、この人は別格だ)
文字通り美しさの格が違う、そう感じた。
スタイリストとしてそれなりの数をトップモデルや女優などを見てきた私がそう思わされた美しい女性の名前は畔川椎平という。
ダンジョンで活動をする探索者で凄腕だとか。
なんでも日本で五人目のB級とかで、今回のCMではそれを大々的にアピールするらしい。
それを聞いた時の私は正直いまいちその意味を理解していなかった。
いや、今でも正確に理解しているとは言い難い。
荒事が苦手でダンジョンなんて危なそうな場所に近づく気すら起きない私からしてみたら、魔物なんて怪物を嬉々として相手とする探索者なんて違う世界に生きる人としか思えないからだ。
その考えそのものは今でも変わりはない。もっと言えば、そんな探索者がCM撮影なんてできるのか、なんてことを思っていたくらいだ。
なお、これは私だけの意見ではない。
カメラマンを始めとした今回の撮影の関係者の幾人かも裏では同じ意見だった。十分な準備が出来ていない状態で素人を使って本当に大丈夫なのかと。
今回の撮影は幾つかの企業がかなりの力を入れているということだったし。
だが今ならその考えが如何に物を知らない戯言だったのかと理解できる。
なにせ彼女は瞬く間に適応してみせたからだ。
外見は綺麗であってもこういう撮影に関しては欠片も経験がないという言葉通り、最初の方は動き自体もぎこちなかった。
また撮影に関してのやり方や動きなどもあまり理解していないようだったのだ。
だというのに撮影を開始して十五分経過する頃には、もう慣れたかのように動きが洗練されていたのだから驚くしかない。
しかもそこから更に一度でも監督の指示や見本の提示があれば、その通りに修正してみせる始末。
撮影開始から三十分が経過する頃には、それこそCM撮影をバリバリこなす売れっ子の芸能人かと見まがうほどになっていた。
あまりの変わり様のおかげもあって順調に撮影は進む。
むしろ進み過ぎた結果、監督達が諦めていた内容も可能なのではないかと修正を検討したいがために急な休憩を挟んだのだが、そんなことは特に気にする様子もなく彼女は悠然としていた。
「ねえ、この撮影って順調に進んでいる方なのか分かる?」
「えっと、たぶん順調ではあると思いますよ」
ただ順調過ぎて別の方面で問題が起きるかもとは思ったがそれは言わないでおいた。
「そう、ならよかった。正直、素人の私にはその辺りの判断がさっぱりなのよね」
そんなことを知らず無邪気にホッと息を吐いた後に教えてくれてありがとう、とお礼を述べる彼女。
それを見て彼女をどれだけ綺麗でも素人だから周りのフォローが必要だろうと、心のどこかで心配と同時に侮っていた自分が存在していたことに気付いて急に恥ずかしくなる。
(この人に心配なんて要らないし、こうなってくると私も負けてられない)
目の前にいる彼女はもう素人ではないと思うべきだ。
それこそそんな慢心を持った状態で仕事をすれば痛い目を見るのはこっちだろう。
そんな風に考えを改めながらドンドンと良くなっていく彼女をより一層輝かせるべく、私は自分の仕事に取り組むのだった。
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