第二十五話 人材不足とCM作成
現在の社コーポレーションでは回復薬作成という事業に多くの労力を割いている。作れば作るだけ儲かるのだからその方針は間違ってはいないだろう。
だが会社としてそればかりに人員を回すという訳にもいかない。他にも様々な事業を手掛けている以上は、それらを放置するなどできないからだ。
またそれと同時に機密保持のために重要な内容について関われる人材は限られており、そうなると当然ながら回復薬を作成できる人材も限られてしまうこととなっていた。
(どうにかして人手不足を解消する手はないものかね)
色々と考えてはいるものの、信頼できる相手をすぐに増やすなんて簡単にできる訳がない。
既に会社周辺はスパイ天国となっている現状で警戒を緩めれば情報を持っていかれるのは目に見えているからだ。
回復薬事業で大黒字なので金の面ではこのままでも問題はない。
ただ今後もこれだと虫除けのお香を始めとした面白いアイテムが出てきても、それを研究開発する暇がないという事態が続くことになってしまう。
(そうじゃなくても中級回復薬とかを販売するようになったら更に忙しくなるだろうし、このままじゃ不味いんだよなあ)
それこそあの永遠に素材を生み出す剣を作り出したように、どうにかして回復薬だけを作り続ける剣とかを作れないものだろうか。
そうなれば生産はそちらに任せて他で量産体制を整えるのもかなり楽になるというのに。
「錬金スキルを錬金剣に付与できれば……いや、結局それを扱う人材が必要になるなら釜と何も変わらないな」
そもそも現状ではスキルオーブの数は限られているので、その程度では量産をどうにかできるものではない。
(とりあえず今後のことを考えて、ジョブオーブで愛華のように錬金術師となってくれる人を見つけておくか)
勘九郎や外崎さんのように探索者を主な活動としていないのなら、スキルなどに制限が掛かっても構わないという人もいるだろう。
その程度では焼け石に水な気もするが、現状ではそのくらいしかやれることはない以上は仕方がない。
「よし。悩んでてもどうしようもないんだし、気分転換でもするか」
とりあえず勘九郎たちには次に会った時にでも提案するとして、ここはダンジョンにでも行ってみるとしよう。
もしかしたら気分を変えれば会社で頭を悩ませていても思いつかない案が出てくるかもしれないし。
本音はこのところ考えることが多くてストレスが溜まっており、その発散がしたいだけだが、それは言いっこなしだ。
(会社で思い付かない妙案が体を動かしたら浮かぶかもしれないし)
あるいはランクが上がって新しいレシピが手に入れば何か突破口を得る手掛かりになるかもしれない。
そう考えて手早く準備をまとめている時だった。
椎平から電話が掛かってきたのは。
「どうした? 今日は例のCM撮影の日だったはずだろ」
確か予定では今の時間はその最中だったはずだ。
どう考えてもこんなに早く終わるとは思えないのだが一体何かあったのだろうか。
「今は休憩中なの。勿論、撮影自体は順調よ。色々と面倒臭い注文に応えなければならないことを除けばね」
「それは申し訳ないが、仕方ないことだと思って諦めてくれ」
「分かってるわよ。仕事として請け負った以上はきっちりやるわ」
椎平をCMに起用できたことでアルケミーを開発している二つの会社としても張り切っていると聞いていたし、たぶん撮影には相当に力を入れているのだろう。
その分だけ椎平に対する注文が多くなったり、ハードルが上がったりすることに繋がっていそうではあるが、椎平ならそれに応えることは十分に可能なはず。
もっとも可能でも、やりたい事かどうかは別だろうが。
だからこそこうして気を紛らわせたくて連絡してきているのだろうし。
「その代わり、そっちも約束を忘れないでよ。行くダンジョンも決めたんだから」
「お、どこにしたんだ?」
「群馬県にあるD級ダンジョンよ。そこで昔やったみたいに甲殻亜竜狩りをしましょう」
そこは前にも行ったことがあるダンジョンであり、よく覚えている場所だった。
なにせそこは椎平達の故郷の近くのダンジョンであり、俺達がパーティを結成することを決めた場所でもあるからだ。
「懐かしいな。いいぜ、分かった……と言いたいところだけど、今の俺はまだE級だから昇級するまで無理だぞ?」
「分かってるわよ。でもどうせあんたのことだからすぐに昇級するに決まってるもの。例のアイスドレイクの件も功績として換算されるはずだし」
まあ普通のE級がアイスドレイクを単独討伐なんて絶対に不可能なので、その辺りを考慮されたら意外と早く昇級もあるかもしれない。
どうも隆さん達は俺のことを早く昇級させたがっている節が見受けられるし。
俺としても今はその方が好都合なのでそれを止めるつもりはない、別に忖度なんて求めないが、実力を認められて早めに昇級できるに越したことはないので。
そうして俺が昇級したら予定を合わせる約束をして通話を終える。
(甲殻亜竜狩りか。素材確保としても有難い話だな)
料理店で出している肉は今現在でも好評で、更なる別店舗の出店も考えているという話も会社内で出ているくらいだった。
「もっともそれには人が足りないんだけど」
そこでも問題になるのは人が足りないことである。まあそちらの場合は飲食店を経営できる人材をスカウトできればとりあえずは良いので、どうにかなるかもしれないが。
(中途採用枠に申し込みは山ほど来ているって話だけど、優秀な奴ほどどこかの紐付きの可能性も増えるからな。採用する側も大変だ)
そういう意味で人事部などもフル回転しているはずである。
「困った話だよ、まったく」
そうして人手不足に頭を悩ませること数日後、椎平の予想通りに俺のD級昇格試験の許可が出たという連絡が協会から入るのだった。
活動報告で「哲太と優里亜の新婚生活 その1 家について」を投稿しました。
良ければそちらも読んでください。




