第二十一話 性転換ポーション完成
アイスドレイクを解体した際に手に入れた素材だが、その数や品質は今までの魔物とは比べ物にならなかった。
また手に入った素材も、錬金肉や錬金炎など現状の俺では作成できない物ばかりである。
(残る素材も早めに作れるようになりたいけど、こればっかりは地道に努力するしかないからな)
ランクⅦ以降で行で作れるようになると思われる残りの素材は錬金肉、錬金魂、錬金闇、錬金炎の四種類。
この内、魂系の素材だけは霊園ダンジョンで手に入るが、それ以外はまともに手に入れる手段がないのが現状だ。
人間の死体を解体すれば錬成肉を手に入ることは分かっているが、大量に揃えるとなるとどれだけの死体を集めなければならなくなるのかという話だし。
直近でどうしても必要なものでもないのに大量殺人を行なうのはどう考えても割に合わないだろう。
勿論、これまでに全くやったことがないとは言わないが。
周辺を嗅ぎ回っていた邪魔者の始末も兼ねて解体は便利ではあるので。
なにせ死体の欠片も残さずに処分できるのだ。
英悟に至っては時たま正体不明のブツを持ち込んで俺に処分させることもあるくらいだし。
ちなみに解体しても全てが錬成、錬金素材になるとは限らない。
中には何も残さずにただ消滅するだけで終わってしまう物も存在していた。
その多くはダンジョン外で手に入れたものである。
だが今、重要なのはそこではない。大切なのは俺が錬金肉を手に入れた、という点だ。
そしてユニコーンとバイコーン素材は薫がオークションで競り落として、既に俺に渡してきている。
そう、つまり今の俺は性転換ポーションを作成することが可能になった訳だ。
だからそのことをどこからともなく聞きつけた薫がこうして目の前に意気揚々と現れたのも自然の流れだろう。
「それでブツは!?」
「落ち着け。既に複数本は作成してアルケミーボックスに収納してある」
珍しく興奮した様子でまるで麻薬の取引を行なうかのような発言をする薫。
だが俺はすぐに薬を渡す気はなかった。
「そんな!? ここまできて勿体ぶるなんて酷いよ、夜一!」
「別に勿体ぶってる訳じゃねえよ。性別を変えるなんて体を根本から改造するような薬だぞ。今は勘九郎が色々と実験してるから、最低限の安全性を確認できるまで待て」
まずはマウスなどの動物で実験して、その後に適当な人間で試してみるとのこと。
なにせ少し前の大掃除の際に、こういう時のための実験台は十分な数が確保できているので。なんなら足りないのなら補充すればいいだけだし。
少なくなったとはいえ、まだまだそういう間諜の類が無くなったりしないようだし。
「どのくらいで安全性は確認できそうなんだい? 実験台の数が必要なら僕がすぐにでも捕まえてくるよ!」
「実験台の数は十分に揃ってるから大人しく待ってろ。むしろ余計なことをしたら没収するからな?」
「分かった! 勘九郎のところに行って聞いてみる!」
余計なことをするのは止めたようだが、それでも大人しく待っているのは無理なのかそれだけ言い残して薫はあっという間に部屋から出ていった。
そしてどういう訳かすぐに勘九郎を連れて戻ってくる。
「夜一! 勘九郎が使っても良いって!」
「……本当か?」
喜色満面で報告してくる薫を無視して勘九郎に視線を向ける。
すると意外なことに勘九郎は頷いた。
「一通りの確認作業は済んでいます。その上で使用しても命の危険になることはないと判断しました。ただし分かったのは短期的な影響だけなので、長期的な面に関してはまだまだ分からないことが多いです。本音を言えば、それも確認した上で使用するのが望ましいのですが……」
「この状態の薫がそんな長く待てるわけがない、か。まあ仕方ないな」
薫本人もそれら全てを承知の上で使用するというのだから、これで何があっても本人の責任だろう。
「ふふふ、では早速いただこう!」
渡した性転換ポーションを見つめながら不気味な笑いを零した薫は、その勢いのまま躊躇いもなくそれを呷る。あっという間に飲み干したと思ったら、
「ぐう!?」
空になった容器を床に落として苦しそうに胸のあたりを押さえている。
「これは大丈夫なんだよな?」
「体の構造を根本から作り変えるようなものですからね。効果を発揮する際に多少の苦痛を伴うのは他の例でも確認されています。でもそれも長く続く訳ではないので大丈夫なはずです」
その言葉通り苦しそうにしていたのは少しの間だけだった。
「ふむふむ……なるほど、こんな感じなのか」
それどころか苦しみから解放された薫は徐に自分の股間や胸の辺りを触って何かを確認している。
その様子から察するに、どうやら待ち望んでいた変化は終わったらしい。
ただ元々中性的な見た目のせいか、外見だけではその変化が分からなかった。
変化の際にその兆候となるものもほとんど見られなかったし。
「念のため聞いておくが、体に異常はないんだな?」
「問題ないよ。今まで存在しなかったものが付いてるとかの変化による感じ方の違いはあるけど、痛みとか苦しみとかは特にないからね。ああでも、なんだか身体が重いかな」
「それはステータスが半減しているからでしょう。どうやら性転換ポーションで性別を変えている間は、常時そういうデメリットが存在するようなので」
「ああ、本当だね。ステータスカードにも書いてあるよ」
カードを見せてもらったが、状態異常のような形で全ステータスに半減が掛かっているようだ。
そのせいで身体が重くなったように感じるらしい。
「他の使用者では骨格の変化などが起こって、それにより身長や体重も変わることもあったのですが、今回はそれがほとんど見られませんね」
「そうだね。喉仏とか細かいところに違いはあるのかもしれないけど、感覚的にこれまで通りで動かせる感じなのはありがたいよ」
勘九郎の話では、実験台のほとんどの場合では体の作りが根本から変わったせいもあって慣れるまで歩くのにも苦労する奴もいたそうだが、薫にはそういう傾向はないようだ。
これもDEXの数値のおかげなのだろうか。半減していてもC級の薫ならそれなりの数値はあるし。
現に今も部屋の中で自分の身体を弄りながら歩いたり、跳んでみたりして楽しんでいる。
「うわ、ジャンプすると股間のものがブラブラ揺れるね! 面白い!」
「遊ぶのはそこまでにしてください。そして予定していた通り、この後は色々と検査を受けてもらいますよ」
薫の最終目標は性転換して女性の恋人との間に子供を作ることだ。
だがポーションで変化した肉体でそれが可能なのか。
可能だったとしても母体となる相手の方に何らかの負荷などがないかなど、その前に確認するべきことは山ほどある。
薫としても恋人を危険に晒したくはないので、それらの検査には積極的に協力する意向だった。
「あなたの恋人は非探索者なのですから、念には念を入れる必要があります。ただでさえ探索者と非探索者では何が起こるか分からないとされていますからね。どれだけ注意してもし過ぎということはないでしょう」
「さすが先生。自分の経験もあるせいか言葉に重みがあるね。もしかして新婚旅行でそっちも色々と大変だったとか?」
「……ほう、上機嫌なせいで随分と余計なことを言いますね」
しまった、という顔をした薫がこっちを見て視線で助けを求めてくるが無視した。
念願が叶ったせいでテンションが上がり過ぎた故の失言だろうが、そんなことで勘九郎がその話題のからかいに関しては許してくれる訳がない。
(自業自得だ、バカが)
その言葉通り薫はやってきた時とは対照的に勘九郎に連行される形で部屋を出ていった。
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