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第四章 5人目のB級誕生と事業拡大編

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第十九話 人間の肉体の限界と御使いの思惑

「念のために言っておきますが、今のところ肉体には何も異常は見当たらないですよ。血液採取やレントゲンなどの各種検査結果も確認しましたが、全て問題なく正常です。むしろあまりに健康体過ぎて不自然なくらいです」

「異常がないのは良いことなんじゃないのか?」

「普通はそうですが、ここまでだと作り物のように思えると言うか。自然に生きていれば発生する歪みなどがほとんど見当たらなくて、少し不気味に思えますね。まあこれは日常的に回復薬を服用しているせいもあるかもしれませんが」


 常に回復しているせいで、体の内部の異常もほとんど治療している可能性があるということか。


「あるいはあまりに高まったステータスが、人が生きていればどうしようもなく発生する要素すらも、ある程度まで無効化してしまっているのかもしれません。ほら、今の君なら生半可な行動では疲労しないでしょう?」

「まあ日常生活なら疲れることはないな。なんなら最近はほとんど眠くならない上に寝る時間も短いな」


 有り余るHPやVITのおかげで疲れ知らずだし、仮に多少疲れたとしても即座に回復してしまうのだろう。


「人間の脳は本来なら休息のために睡眠を絶対に必要とします。ですが今の君のステータスなら、それすらも必要ないのかもしれませんね」


 探索者となってランクを上げるなどでステータス上昇した人間は、その数値に応じて能力が向上することになる。


 そしてそれは人間という生物の本来のスペックを完全に無視することがあると勘九郎は語る。


「たとえば人間の反射速度の限界は約0.1秒であり、人体という肉体の仕組みの上でこれは越えられない壁とされています」


 反射ではなく反応になればもっと遅くなるし、そもそも脳は電気信号によって情報を伝えるという変えようのない仕組みがあるので、その限界を突破するのは理論的に不可能なのだとか。


 少なくともその仕組みに頼っている内は。


「ですがC級より上の上級探索者ともなれば、時にはその限界すら超えることがあると確認されています」

「まあな。今の俺ならその壁とやらも割と簡単に越えられそうだし」


 筋肉の量からはあり得ないほどの膂力。


 どんなに鍛え上げても不可能なはずの鋼鉄以上の硬さと、しなやかで強靭な肉という柔軟さを誇る肉体。


 分かり易い例だけでも、こんな風に幾つも思い浮かぶ。


 そしてそれは机上の空論ではなく、実際に現実で探索者が起こしている事態なのだ。


 物理的にはあり得ないはずの現象ですら、鍛え上げた探索者の類稀なるステータスは可能としてしまう。


 そしてその限界が250という数字なのではないか。


 それが今の俺の状態を診た勘九郎の推測だった。


「勿論これは唯の私の推論です。もしかしたらステータスなどを授けた御使い達が、こちらに反逆されないように制限を掛けている可能性だって十分に考えられますからね」


 力を与え過ぎて歯向かわれないようにする。その考えも決してあり得なくはないだろう。


「ですが私にはこの250という数値が、超えてしまうと人間という枠ではいられなくなる限界点であるように思えるのです。今のあなたを見れば見るほど、特にそう思わされます」


 どんどんと睡眠などの人間として必要不可欠な活動をせずに済むようになっている。


 更にはアイスドレイク相手に僅かなスキルだけで勝利をもぎ取ってきたことからも、その傾向は強まっているのではないか。そう勘九郎は考えているようだ。


「要するにここが人間としての限界だって言いたいのか」

「確証はありませんけどね」


 ダンジョンで出現する魔物と比べて人間は本当にひ弱で脆弱な生命体だ。それは誰にも否定できない。


 そしてそんな脆弱な生命体である人間では、強化できる数値にも限りがあるのではないか。


 あるいは越えてしまってはいけないラインがあるのではないか。


 それが勘九郎の出した結論だった。


「そして前にアマデウスが言っていたことを覚えていますか? ダンジョンでは理由は不明ですが、あちらの力の一部が我々に与えられるようになっているという点。そして生き残った神族や御使いが何を目的として活動しているのかの予想についてのところです」

「ちゃんと覚えてるよ。原住民の排除をして新たな支配者となるか、そんな力も残っていないから共存の道を探るか……」


 そこで勘九郎が真に言いたいことを理解する。


「新たな同胞を生み出そうとするか……そんなことを言ってたな」

「その通りです。では同胞を生み出すために、彼らはどのような手段を用いるのか? おそらく人間と同じように妊娠出産を経て増えるのではないでしょう。もしそれが可能なら別に人間にスキルなどの力を与えず、こちらが何もできない内にその数を増やしてしまえばいい」


 そして十分な数が揃ったところで戦いを仕掛けて人間を滅ぼすなり支配するなりすれば原住民の排除は簡単に可能となる。


 だが奴らはそうせずにダンジョンを作って、わざわざ人類に力を与えた。


 それには何か大きな理由があるはずだ。


「そしてまた、アマデウスという御使いは自らを打ち破った八代夜一という人物を評価していた。いえ、正確に言えば八代夜一以外には興味を欠片も示さなかったそうですね」

「我々御使いは試練を乗り越えた対象には最大限の敬意を持って対応する、とも言っていたな」

「これが偽りでなければ、彼らにとって力ある者の存在は何か大きな意味を持つのではないでしょうか? あるいはそうでなければ対等な存在として認められないのかもしれません。つまり……」


 これらのことが示す結論。


 それを勘九郎は口にした。


「御使い達は、八代夜一という人間を新たな同胞として作り変えようとしているのではないか。私は現状の情報ではその可能性を一番に懸念しています」

「……なるほど、それは思いつかなかったな」


 これが正しいという確証はない。


 だけどこれまで知り得た情報を整理すると、その可能性が浮かび上がってきているように思えた。


「そう考えると、今回のA級襲撃事件も別の意味を帯びてくるかもしれません。アマデウスはドロップアイテムなどを隠すように勧めていたことから、こちらの情報を意図的に他の御使いなどに流していないのではないかと考えられます。となると、敵は全く何も知らない状態で回復薬作成という大きな動きがあったと知った形になる」

「つまり回復薬作成で俺の存在の影に気付いた奴らが力量を測ろうとしたと?」


 脅威となるか、あるいは同胞として相応しいか見極めようとしたというのか。


「残念ながらこれらはあくまで可能性に過ぎません。確証を得るためには真実を知る存在に語ってもらうしかないでしょう」


 それは未だに沈黙を貫くアマデウスか、それともアーサー達の背後に居ると思われる別の御使いになるのか分からない。


 だけど事の根幹を知る存在に聞かなければ、どう頭を悩ませても答えは出なさそうだ。


「念を押しておきますが、このことを頭の片隅において今後は更なる警戒をするようにしてください。君は力を得られるとなればそれも止む無し、とか考えそうな人ですから。いいですね?」

「……了解」


 信用がないと言うべきか。それともこの場合は信用があり過ぎると言うべきかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公は同胞にならずに限界突破しそうw
[一言] 限界突破させてやるから同胞になれと強制されたら絶対に拒否しそうな主人公 どこぞのA級さんは喜んでなってそうですが
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