第十八話 ステータスの限界?
ステータスの横に括弧つきで別の数字が存在しているが、これは見たことはある。
現に愛華がランク10に満たず装備の真価を発揮できていない時や、装備品によってステータスを強化した際なども、これらの表記があったからだ。
「この表記ってことは今の夜一は250までのステータスしか発揮できてないってことかしら?」
「恐らくは」
HPやMIDの本来のステータスは括弧内の数字のはず。
だけど実際の数字はどちらも250となっているようだ。
愛華の時は括弧の中の本来のステータスの数字の方が小さかったから逆になってはいるが、発揮できる性能は括弧が付いていないもののはず。
だからこれまでの表記を信じるならば、俺は折角のステータスの全てを十全に使えていないことになる訳だ。
「ステータスの強化の限界が250ってことですかね?」
「もしそれなら人間の限界だろうな。A級の魔物はステータス250超えが当たり前だし」
それに中位回復薬などの回復量が250を軽く超えていることからも、そこがステータスの限界だとは思えない。
脆弱な人間の肉体で強化できる上限の値がこれだとするならば分かるが。
猛獣と人間ですら、その身体能力や体の丈夫さは比べ物にならないのだ。
魔物ともなればその差はもっと開くこと間違いなし。
その弱い人間の身体ではこれが限界という可能性はあり得ない話ではない。
「つまり先輩はこれ以上、ステータス的には強くなれないってことですか?」
「素のステータスに限って言えば、現状ではこれが限界みたいだ。ただし括弧外でも250以上のステータスになる方法がない訳じゃない。スキルや装備品、アイテムの上昇効果はちゃんと効果があるみたいだからな」
この表記になった際にそのことは確認済みである。
「本当にこれが素のステータスの限界なのか分からないが、今のところはそう考えるしかないだろう。幸いなことに表記上は限界より上になっても身体に異常はないから、今後はスキルや装備品の充実を重点的に行なっていくつもりだ」
ランクを上げても括弧内の数字が上がるだけで実際にその力を発揮できないのだから仕方がない。
勿論どうにかその限界とやらを無くす方法も探っていくつもりではあるが、その方法については何の情報も手掛かりもないので時間が掛かると思われる。
(そもそも素のステータスで250を超えているのなんて世界で俺を含めてごく僅かだけの可能性も十分にあるしな)
少なくとも御使いと関係があると思われるソフィアですら、そこまでの身体能力はもっていなかったから違うはず。
可能性があるとすればあの時の俺を圧倒したアーサー、つまりはA級探索者か。
あるいは奴ならこの限界を超える方法も知っているのかもしれない。
アマデウスがブースト薬の使い過ぎた俺の身体を治療したように、その不思議な力を使って強化する方法がないとも限らないし。
といってもそれを聞いて素直に教えてくれるとは思えないが。
(仮にその方法を吐かせるのなら、こっちが圧倒できる実力がないと話にならないしな)
幸いにもスキルやアイテムによる強化は効果があるのだ。錬金術師的にはアイテム関連は得意分野なので、そっちで準備を調えるとしよう。
どうせアーサー達には聞きたいことがある上に仕返しすると決めている以上、もう一度いつかは戦うことになるのだし。
「ねえ、どうせなら先生もそろそろ帰ってくるはずだし、一度身体を診てもらったらどう? 元医者で探索者の先生なら、普通の医者では分からないことも分かるかもしれないわよ」
「なるほど、それもありだな」
ステータスの限界がきたこともあって体に異常はないかを調べるべく、病院での検査は予約している。
だが正直に言えば病院の検査で分かるとは思えないので、別のアプローチもありかもしれない。
頭の良い勘九郎なら仮に診て分からなくとも、別の視点や考えを与えてくれるかもしれないし。
「それにしてもこんなことになるのなら、早めにランクアップポーションを使っておけばよかったな」
上になればなるほどランクは上がり難くなるので、もっと上になった時に使うべく取っておいたのに。
それなのに今は使っても意味がないとはなんとも悲しい話である。
「こんなことになると誰も分からなかったんだから仕方がないわよ」
「そうですよ。というか、もうステータス250を超えてるとか早過ぎです。普通なら引くレベルですからね」
「そうね、地道にランクを上げてる、普通の探索者のこっちの身にもなってほしいくらいだわ」
言われてみれば試練の魔物と戦ってからまだ数ヶ月しか経っていないのだ。
それなのにかつての五年を掛けて鍛えた全盛期を大きく超えているのだから、十分過ぎる成果と言えよう。
椎平たちのような一般的な補正値の探索者からすれば、それこそ理不尽とか不公平だと糾弾されても仕方のない異常なペースだし。
(それなのに欠片も満足しないあたり、人間の欲には際限がない、とはよく言ったもんだな)
そんなこんなで食事会を終えた俺は戻ってきた勘九郎に身体を診てもらったのだが、そこで言われたのはある意味で衝撃的な言葉だった。
「夜一君。もしかしたら君は、人間という枠を逸脱する寸前なのかもしれない」
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