第十四話 アイスドレイク戦 その2
いくら火炎蜥蜴の鱗などがあるとはいえ氷や冷気を完全に無効化できる訳ではない。
ましてやアイスドレイクが直接吐き出すブレスともなればその威力は相当なものだ。
余波ならともかく、このまま直撃を受けて無事で済むとは思えない。
だが迎撃される形で放たれる広範囲のブレスを今から完全に躱すのは不可能だった。
(今から爆裂剣を投じても着弾前に雹で撃ち落とされるだけだな。仕方がない)
躱すのも阻止するのも無理。
防ぐのは今のままでは難しいが、その方法がない訳ではない。
「耐冷外套、過剰駆動」
俺は新たに取り出した外套を羽織ると、その特性を過剰駆動で強化して発動する。
火炎蜥蜴の鱗を錬金した外套にはその特性がそのまま搭載されている。
火炎蜥蜴の鱗を始めとした火に強い魔物の素材には、吹雪や氷の攻撃などに含まれる一定の冷気を防ぐ耐冷。
または炎や熱の攻撃を防ぐ耐熱という特性を持つものが存在する。
そしてそれらを錬金外套に組み込むことで錬金アイテムとなれば、錬金剣士のジョブ効果によってその性能が上昇することも確認してあった。
ただし鱗のままの場合は常にその特性を発揮して制限時間がないのに対して、錬金外套に組み込んだ際はその特性を発揮する際に発動する必要がある。
またそれに加えて回数制限が出来るというデメリットもあった。
といっても回数補充アイテムがあるので、そこまで問題になるデメリットでもないのが救いだろう。
なんなら複製錬金があるので元があれば複製は可能だし。
過剰駆動とジョブ効果によってこれまでとは比べ物にならないほど強化された耐冷の特性は目に見えて分かる。
なにせ俺の周囲の赤い半透明の膜のようなものが覆っているからだ。
その赤い耐冷の膜に向かってアイスドレイクが放った吹雪のブレスが殺到する。
防げるのは冷気だけなので凄まじい風圧に襲われるが、それは取り出した錬金剣を地面に突き立てて踏ん張ることでどうにか耐えた。
(いけるか?)
赤い膜は今のところ冷気を通さずに俺にダメージは入っていない。
だが段々と赤い膜が収縮してきていた。やはり幾ら強化しても元の素材がD級の魔物では限界があるようだ。
「長えぞ、クソが」
既に五秒ほど経過しているが、未だに奴はブレスを吐き続けているのが錬金真眼で捉えている。
どうやら奴もこちらが耐えていることを察知して、限界までブレスを吐き続けるつもりらしい。
そうした結果、十五秒ほどだろうか。奴がブレスを吐き続けた秒数は。
俺の周囲を覆っていた耐冷の膜はかなり小さくなっている上に、所々が罅割れており中に若干のブレスが入ってきていた。それもあって俺の手足などの身体の所々も凍りついてしまっている。
ただそれでもアイスドレイクのブレスを近距離で受けて、この程度で済むのなら十分過ぎだが。
(回復薬があれば凍結した手足も砕かれない限り治せるからな)
用意してある火炎蜥蜴の鱗は五枚と火炎剣と耐冷外套は三つずつのみ。
耐冷外套は一つ使ってしまったので残り二つだから、それらを使い切る前に勝負を決めてしまいたい。
この感じだと複製で効果が落ちた代物だと奴の限界ブレスを防ぎきれるか分からないし。
限界までブレスを吐いたアイスドレイクも大きく息を吐いており、その疲労を隠し切れていない。
ならばここは無理をしてでも攻めるべきタイミングだ。
体力回復薬と異常回復薬を飲みながら、凍り付いた部分にもかけて修復を急ぐ。
すぐに効果が発動して動くようになった手足で俺は敵へと向かっていく。
勿論、念のために新たな耐冷外套を纏うことも忘れずに。
今度はブレスを吐くことが出来ないらしく、アイスドレイクは尻尾で迎撃してきた。
白い鱗で猛吹雪と同化しながら迫るそれは普通なら不可視の一撃になるはずだが、生憎と俺には丸見えである。
横薙ぎで振るわれた尻尾は俺の身の丈以上もあるため、躱すにはそれよりも上に跳ぶしかない。
大きくしなりながら足元を通過していくその攻撃を感じながら俺はマジックコンテナで空中に足場を作ると、尻尾の攻撃をしたことでバランスが若干崩れているアイスドレイクの顔面へと再度到達する。
潰れた右目側から接近したことでアイスドレイクの反応は遅れていた。
決めるならここしかない。
(火炎剣、過剰駆動)
耐冷外套と同じ素材である火炎蜥蜴の鱗を錬金された錬金剣ではあるが、その発揮する特性は別物だった。
耐冷外套が防御的な特性である耐冷を発現させたのに対して、錬金武器は火炎蜥蜴が有するもう一つの攻撃的な特性を発現させているのだ。
その名も放熱。
名前の通り込められた熱を解き放って攻撃する特性だ。
普通の火炎蜥蜴の鱗では発する熱もそこまで強力ではない。
それでも吹雪の中で使用すれば発する熱が寒さを防いでくれるし、火炎剣の通常駆動時ではブレスの余波も寄せ付けないくらいになる。
それが五回全ての使用回数を使い切る過剰駆動となればどうなるか。答えは発する熱によって周囲全ての吹雪を蒸発させて消し去ってみせたことで明らかになった。
(その分、俺もクソ熱いけどな!)
耐冷外套が耐熱外套でもあるからどうにか持っていられるが、耐熱の特性がなければ使い手である俺ごと燃やし尽くすヤバい武器である。
もっともそんなことは今更だ。
爆裂剣の時点でそうだったのだし。
「くたばれ、クソ蜥蜴!」
発する熱とその声に反応して、アイスドレイクが凄まじい速度でこちらを向くと大きく口を開いた。
無理をしてでもブレスを吐こうとしたのか、それともその牙で俺を噛み殺そうとしたのかは分からない。
なにせその前に俺は狙い通りに火炎剣をその口内へと投げ込んでいたからだ。
「バーカ、奇襲を仕掛けるのにわざわざ声出す間抜けじゃねえよ、俺は」
こちらの狙いは端から奴の体内に超高温となった火炎剣を送り込むことだったのだ。
これだけ巨大な身体なら上手く投じれば口の中どころか喉の奥へと投げ込むのもそう難しいことではない。
なお奴がバカではなく、仮に声や熱に反応しない間抜けだった場合は左目を障壁ごとこの剣で抉って熱で潰し切ってやるつもりだった。
なのでどちらにしても問題はなかった訳だ。
「グオオオオオ!?」
いくら強靭なステータスと肉体を誇るドラゴンと言えど、あれだけの高熱の塊を体内に直接叩き込められてはひとたまりもない。
苦しそうに暴れ回る奴の尻尾が偶然にも空中にいる俺と激突して吹き飛ばされるが、そんなことにも気付かない様子でアイスドレイクは藻掻き苦しんでいた。
(痛えな。やっぱりステータスで勝ってても体格と重さが上だと力押しでは勝てなさそうだ)
尻尾で打たれる際にこちらも拳で反撃していたのだが、こうして打ち負けて吹き飛ばされてしまったのは単純な話だ。
こちらが百キログラムに満たないのに対して、あちらは数トンでは済まない重量を有している。
ステータスで同じ力を発揮できるとしても、より重い方の攻撃の威力が高くなるに決まっている。
そういう意味では、人間は仮に魔物と同じステータスであっても戦いにおいて若干不利になるのは否めなかった。
だからこそこうして創意工夫が必要になる訳だ。
「追撃……は必要なさそうだな」
火炎剣もなくなったので雹を伴った吹雪も再度発生していたから爆裂剣は使えない。
ただあれだけの巨体が地面をのたうち回って暴れていると中々接近しにくいものがあった。
それでもどうにか追撃をしようと考えていたが、突如としてピタっと動きが止まったアイスドレイクの様子からそれも必要なさそうだと判断した。
なにせその瞬間に俺の身体に力が満ちたから。
そう、これはランクアップしたということだ。
それもこの力の満ち方は一つでは済まなそうだった。
「俺の勝ちだな」
その宣言通り、アイスドレイクの巨体がゆっくりと倒れていき、地面へと激突してそのまま動かなくなるのだった。
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