第十二話 ボス部屋へ向かう
すみません、予約日時を間違えてました。
あれから負傷した偵察班を助けることを挟みながら、バーサーカーブルを狩ることしばらく。
(そろそろいいかな)
解析率も100%になったし、もうそろそろボス部屋に向かってもいい頃だろう。
勿論ただ単にボスを倒すだけで終わらせず、そこで周回する気は満々だが。
(バーサーカーブルのボスだからベルセルクブルとかか?)
同じ系統のD級の魔物がボスなのではないかと予想しながら歩を進める。
狩りの間にボス部屋と思われる場所も確認してあるので迷うことはない。
そうして辿り着いた場所は周囲を氷の壁で覆われている。
おそらく一ヶ所だけ扉のようになっているところを除けば入れないのだろう。
もしかしたらこの氷をぶっ壊すことも可能かもしれないがそれはやる気はない。
(下手なことしてダンジョン崩壊したらヤバいからな)
バーサーカーブルの群れだろうが一発で吹き飛ばす爆裂玉入り剣、通称爆裂剣の威力は相当なものだ。
それこそD級くらいの魔物までなら相性が悪くない限りはほとんど倒せるだろう。
だから仮にここのボスが俺の予想通りベルセルクブルの場合はご愁傷様である。
そんなことを考えながら氷で作られた扉を押して中へと入っていく。
「ミノタウロスか。予想が外れたな」
中はそれほど広くない空間で、そこに立っていた魔物は俺の予想とは大きく違っていた魔物だった。
二足歩行で人間の身体を持ちながら牛の頭部の魔物。筋骨隆々の身体から繰り出される攻撃は一撃一撃が相応な威力を持っており、武器を持てばその脅威は更に増す。
しかもINTの値もそれなりにあって知恵も回る。
そういうこともあってミノタウロスはD級の中でかなり強い部類に入る魔物だ。持っている武器によってはC級並の強さを誇ることもあるくらいに。
「ん?」
これはおいしい周回になりそうだ。そう思った俺だったがすぐにそれが間違いであることに気付いた。
何故ならそのミノタウロスの背後にもまた氷の扉が存在していたからだ。
どうやらこいつはボスではなく中ボスらしい。
既に背後の扉が閉まっていることから察するにこのダンジョンでは中ボスとボスの連戦となるようだ。
こういうこともダンジョンでは時たまあることなのでそこまで驚くことではない。
「ブオオオオオオオ!」
そんなことを考えていたらミノタウロスが焦れたのか咆哮を上げて突進してくる。
その手に巨大な斧を持って。三メートルを軽く超える肉体とそれに合う武器から繰り出される一撃はVITの弱い探索者なら一撃で致命傷となるだろう。
(面白い)
だけどその一撃を真っ向から受けて立った。
振り下ろされる斧の刃に対して掌を盾として構えをとる。
普通なら自殺行為のそれの結果はドンっという鈍い音と衝撃の後に判明した。
「くう、流石に無傷とはいかなかったか」
掌に刃が食い込んで血を流している、だが一刀両断されることはなくあくまで食い込むまでだ。
「ブモ!?」
その結果に驚いた様子のミノタウロス。
どうやら自慢の一撃がクリーンヒットしてこの程度の効果しかないとは予想できなかったらしい。
俺が身体に食い込む斧を空いている方の手で強引に引き離そうとするとミノタウロスは武器を手放して、そこから素早く背後に跳ぶようにして後退する。
武器を手放して大丈夫なのかという心配はご無用。
ミノタウロスの周囲に魔法陣が一瞬だけ輝いた次の瞬間には別の武器である大剣がその手には握られているからだ。
「てか、この武器は出血の状態異常まで付与してくんのかよ」
手から流れる血が止まらないと思ったらこれだ。
これだけの攻撃力を持っている癖に状態異常を付加までしてくるう厭らしさ。
これだから上の級になればなるほど魔物は侮れなくなっていく。
「ブモオオオオ!」
しかもこちらのことを脅威だと認識したのか咆哮を上げるとその肉体が赤色に染まっていく。
その色はバーサーカーブルでよく見た光景だ。
「一体だけなら同士討ちの危険もないか。よく考えられてるよ」
そして中ボス部屋の規模から逃げ切るのは無理とこれまた厄介な戦法だった。
もっともこちらが敵の強化をただ待つ必要はない。
「お返しだ」
俺は敵から奪い取った身の丈を超える斧を担ぎ上げると敵に向かって突撃する。
「受け取れ」
そして狂乱したばかりのミノタウロスに向かって真正面からその斧を叩きつけた。
さっきやられたことをそのままやり返す形で。
狂乱したばかりで正気を失ったミノタウロスは周囲の状況を掴めていないせいか、その攻撃に対する反応がほんの僅かだけ遅れた。
その一瞬はこのクラスでは致命的であり、そのまま斧が振り下ろされて片腕を切り飛ばすことに成功する。
「ブモオオオオ!」
だがそれで怯むことなくもう片方の手に握っていた大剣を振るってきた。
その攻撃を受けてみたい気持ちもなくはなかったが、流石にそれは不味いことも理解していたので俺は地面に突き刺さった斧を手放して回避を選択する。
「うわ、その剣も状態異常持ちかよ」
俺の代わりに斬られた斧の断面がドロドロと腐食されたかのように崩れている。
あれを肉体で受けたらどうなるかなど考えたくはない。
いくら回復薬で治療できるとしても。
そんなこちらの様子を見ていたミノタウロスは素早く千切れ跳んだ腕の元まで移動しており、その切り離されていた腕の断面同士を乱暴にくっつける。
するとあっという間にその腕が元通りになるのだから呆れるものだ。
その生命力というか回復力もさることながら、狂乱しておいてこの行動である。
あるいは理性がなくても本能的にそういう行動ができるのが強い魔物なのだろうか。
「まあいいさ。十分に楽しんだし」
お楽しみはここまででいいだろう。
だって本命のボスはこの後に控えているのだし。
俺は手早く錬金外套と爆裂剣をアルケミーボックスから取り出して装備すると、その剣を投擲することなく敵へと接近する。
それを迎え撃つ構えのミノタウロス。
そうなれば当然、俺の繰り出す剣と奴の大剣がぶつかり合うことになり、お互いのすぐ傍で剣が爆発することになった。
「ブモオオオオオオ!?」
これだけの至近距離で爆発に巻き込まれればいかな生命力を誇るミノタウロスだろうと決して無事では済まない。
爆発の炎によって目が焼かれたミノタウロスは顔を抑えて狼狽している。
それに対して身代わりの外套を装備していた俺はダメージを受けていないので、そのまま次の行動に移った。
即ちその隙だらけの敵に向かって止めの一撃を繰り出すのである。
「終わりだ」
過剰駆動のスキルによって残り回数の四回を一度で使い切る、先程よりもずっと強力な爆発を奴の顔面に突き立てた剣が発したのだ。
零距離でそれを受けてはいくら強靭な肉体と生命力を誇るミノタウロスと言えど生き残ることは出来なかった。
爆発四散した肉体と取り出された武器は消えていき、残ったのはその魔石だけとなる。
ダンジョンコアも現れないし、やはりこいつは中ボスだったみたいだ。
「お、ランクアップしたか」
これだけの相手だと経験値も段違いなのかまた一つランクが上がった。
八代 夜一
ランク15
ステータス
HP 208
MP 200
STR 196
VIT 191
INT 193
MID 209
AGI 194
DEX 195
LUC 186
スキル 錬金レベルⅦ 錬金素材作成レベルⅥ 錬金真眼レベルⅣ 霊薬作成レベルⅡ アルケミーボックス 錬金術の秘奥 剣技覚醒 水銃レベルⅠ 昆虫殺しレベルⅤ 過剰駆動
ジョブ 錬金剣士レベルⅦ
身代わりの外套のおかげで無傷の俺はステータスカードを確認して満足げに頷く。
だがこれで終わりではない。
「さてと、本命のボスはどんな魔物ですかね」
中ボスでこれなのだから本命は更に期待できるはず。
その期待に突き動かされるように俺は休むことなく次の扉を開いてその中に進んでいくのだった。
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価をよろしくお願いします!




