第十一話 北海道への出張
飛行機に乗って北海道へと到達した俺は、すぐに件のダンジョンへと向かった。
そして確認のために中に入ると、そこで待っていたのは季節外れの猛吹雪だった。
「こりゃ、酷いな」
左目では先が全くといっていいほど見えない視界の悪さに極寒の環境。
魔物と戦う前にそれらをどうにかしなければならない。
でなければまともに戦うのも難しいだろう。
(錬金真眼で先は見えるから残るは寒さだけか)
その対策となるアイテムも用意してきているが、それが通用するかを確認する必要がある。
ダンジョンの中には特定のアイテムを無効化するなんて特性を持っているものも中にはあるからだ。
「……問題なさそうだな」
用意した火炎蜥蜴の鱗はその効果を無事に発揮して俺の周囲を暖めてくれている。
念のためにこれを錬金剣に込めた代物や、これを現実世界の物と掛け合わせて作ったカイロなども持ってきているがそれらに頼る必要はなさそうだ。
「いけそうなので早速仕事に取り掛かりますね」
「ええ、大丈夫なのですか? こっちに来て休みも取らずにダンジョンに潜るなんて」
ダンジョン前で合流した北海道の支部長が心配そうに聞いてくるが、大丈夫だと言い切ってみせる。
実際に大丈夫だし、なんならこのアイテムがなくても頑張ればどうにかできるだろうし。
半信半疑な支部長に対して帰ってきたら北海道の美味しい海の幸などが買える場所を教えてほしいと頼んで、俺は一人でダンジョンの中へと進んでいく。
(土産は北海道の海の幸とかでいいかな?)
そんなことを考えながら歩いている最中にそいつらは背後から忍び寄ってきていた。
吹雪で視界も悪い上に周囲の音も掻き消されてしまうので、普通のE級ではその接近に気付くのはそれなりに難しいのだろう。
「ブモオオ!」
「肉ならジンギスカンもありかな。こいつは牛だけど」
だが俺には丸見えなので周囲に溶け込むように白い身体だとしても何も意味がない。
だから背後から突進してこようとした個体に容赦なく刃を滑らせてその首を一刀両断する。
通常のバーサーカーブルは黒い身体をした牛の魔物なのだが、どうやらこのダンジョンでは寒さなどの周囲の環境に適した肉体に改造されているようだった。
もっとも解体したら別種とかでもなかったので、俺からしたらどうでもいいことである。
(解析率が上がればなんでもいいしな)
ちなみにバーサーカーブルは肉が固くて美味しくないので土産の候補からは除外している。
「ブモ!?」
「ブモオオ!」
仲間をやられたことで怒ったのか、あるいは危機感を持ったのか。
バーサーカーブルの白かった肉体が真っ赤に染まっていく。
こうなった時のこいつらは全ステータスが倍増するので厄介だ。
しかもこの狂乱と呼ばれる状態の時は、物理特殊に限らずダメージを半減した上でHPMPが持続回復するおまけ付き。
だからこの状態が解除されるまで逃げるなりして反動で弱体化した際に仕留めるのが鉄板の戦術だ。
間違ってもこの状態のこいつと正面から戦っていけないのである。
(俺はやるけどな)
突っ込んでくる個体に拳を握って逃げずに迎撃する。
奴の頭と俺の拳が真正面からぶつかり合って、一瞬も均衡することなくこちらの拳が勝利した。
その結果、頭部が陥没して死亡した個体を無駄にすることなく回収して解体する。
ちなみに他の個体は近くにいた仲間同士で争っていた。
そう、狂乱状態はステータスバフなど優秀なのだが、それと引き換えにするかのようにINTが幾ら高かろうが関係なく理性を失って暴れ回ることになるのだ。
そして手あたり次第に暴れるから大体はこのように近くにいる仲間同士で争うことになる。
(マジでバカだな)
本来の敵である俺を放置して同士討ちをしていくバーサーカーブル。
それなのにこいつらは群れで行動するので、遠距離から一撃入れて一体でも狂乱させればあとは見ているだけで群れ全体が自滅していくという、やり方さえ知っていれば割と楽に倒せる魔物なのだ。
ただその反面、接近されると強化されたステータスもあって厄介なことになる。
通常時はそこまで素早い魔物ではない上に身を隠すのも下手なので脅威になることはまずないのだが、このダンジョンでは身を隠す術を身に着けているようなので少々厄介かもしれない。
本来なら最後の一、二体が残るまで待って狂乱が解けた際に弱体化している時に止めを刺すのが鉄板。
だけどそれだと時間が掛かるので俺はその鉄板戦術を捨てて自ら暴れ回る群れの中へと足を進める。
そうなればターゲットは俺にも向く訳で、何頭ものバーサーカーブルがこちらに向かって突撃してきた。
「十秒だな」
その個体の全てを一撃で叩きのめして即座にアルケミーボックスに収納するのに約三秒。
こちらに向かってこなかった奴らの下まで行って叩きのめすのに約七秒で合計十秒。
きっかり宣言通り終わらせた。
「お、ランクが上がったな」
そこでクイーンスパイダーを狩りまくって貯めていた経験値と合わさってランクが上がっていた。
(幸先の良いスタートだな)
やはり上のダンジョンの魔物の経験値は美味しい。
この分ならもう一つくらいランクを上げられるかもしれない。
なにせ俺の右目の視界には雪に紛れるようにして存在している多数のバーサーカーブルの姿が映っているのだから。
(それにちょっとくらいボス周回してからダンジョンを消滅させてもバレないだろうしな)
そう思いながら俺は近くの群れの方へと足を進めていく。
そして少しすると白銀の雪景色の中で鮮やかな赤い色が咲き誇ることになるのだった。
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