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第九話 探索者講習会 実地訓練その3

な、なんと日刊ローファンタジーランキングで22位に入りました!

皆様の応援のおかげです、本当にありがとうございます!

 この場で説明するべきことはほとんど終わった。だから後はやることをやるだけ。


 慣れるまでは一対一になるように数を調整しながら戦闘を交代しながら繰り返す。ダンジョンは奥に行けば行くほど敵が強くなったり出現する魔物の数が増えたりする傾向にあるのでガンガン戦闘をこなしながらドンドン奥へと進んでいく。


 そんなに最初から飛ばして大丈夫なのかって? 問題ない。傷薬は体力(HP)を回復させる。それはつまり蓄積した疲労も傷薬さえあれば回復できるのだ。


 まああまりにそうやって薬で回復し過ぎると段々とその効果が薄くなっていき、しまいには中毒症状なのか体に異常をきたすことになるがそれは何日も続ければという話だ。でなければ三時間以上、傷薬を塗り続けられた俺がとっくの昔におかしくなっている。


 慣れてきたら段々と間引く数を減らして複数のビッグラットと戦わせる。そうなってくると捌ききれずに敵の攻撃を受ける機会も増えてくるが、それは今後のことも考えたら絶対に必要なことだ。


 探索者をしていれば必ず傷を負うし時には大きな怪我もする。そうなっても傷薬や回復薬があればたいていの場合はどうにかなるが、それらの道具を扱うのは探索者本人だ。想像以上の痛みやダメージ、あるいは想定外の状況に焦って判断を誤らせることになれば死は意外なほど呆気なく訪れる。


 だからこそどのくらいの痛みでどのくらいHPが減るのか、どうやったらダメージを受けるのを減らせるのか。そういう生き残るために必要なことを常に考えてイメージして実行に移せるようにならなければならない。


 そういった意味では同じような戦い方を学んだ以上、ランクが低い三人がそういう苦労を多くしている。ステータスが低い分、やはりどうしてもてこずる場面が増えるからだ。


 現に今も三体のビッグラットを相手にしていた五十里が一体目を倒すことに成功したものの、そのことに意識を割き過ぎて他の二体の体当たりを喰らってしまう。流石に二体にぶつかられたら堪え切れずに押し倒されて、そこを狙ってビッグラットが顔を齧ろうと頭の方へと飛び掛かる。


「あ、危ない!」

「そこ、邪魔をするな」


 周りが思わずといった様子で助けようとするがそんなことはさせない。この程度の危険を乗り越えられないのなら探索者をやっていくなど夢のまた夢。彼女が本気で稼ぎたいのなら自分でこの危機を乗り越えようとしなければならない。


 起き上がる前に敵の攻撃が来る。そのことを察知したのか咄嗟の判断で近寄らせないようにメイスを振るった。幸か不幸かその牽制の一振りは二体の内の一体を捉えてその顔面を殴り飛ばす。


 だが残された一体はそのまま齧りつこうとその顔に接近して、


「ぐう!?」


 メイスを振るった逆の腕をどうにか顔の前に差し込んで顔だけは守った。その代わり腕を容赦なくビッグラットに噛まれている。VITも高くないのであれは相当痛いだろう。


 だがそれでも彼女は泣き言も言わずに次の行動に移った。その噛まれた腕をそのままに勢いよく近くの壁に叩きつけたのだ。当然その腕を齧っていたビッグラットも容赦なくその壁に打ち付けられる。


 その衝撃に耐えられなかったのかビッグラットは腕を解放した。その隙を逃さず五十里はメイスを振り下ろす。その一撃でしっかりと仕留めた後は残る一体。これなら隙を付かれることもなくしっかりとパターン通りに倒しきる。


「お見事。よく頑張ったね」

「あはは、最初で失敗しちゃいました。さっきは倒しきれずに手間取ったから今回は早く止めを刺さなきゃって思って前のめりになり過ぎましたね。あーあ、さっきから怪我するの私ばっかりな気がします」


 渡した有り余る傷薬で傷を治しながら彼女はそう述べる。


「それは最初の内だけだよ。ランクが上がれば多分驚くほど変わるからそれまで頑張ってみてほしい。絶対に損はさせないと約束するから」


 怪我をしたから評価が下がるなんてことはない。確かに彼女はミスをしたが、そのミスを自分でカバーして態勢を立て直して敵を倒している。ステータスが低くても力任せの打開でなくこれができる戦闘センスは貴重だ。ステータスが上がればもっと良い動きが出来るのは間違いない。


 それに戦闘が終わった後もどの動きが良くなかったのか自分で考えて反省できているのも高評価対象だ。


(しっかりと反省が出来ているから思っていた以上に成長が早い。想像以上にこの子は探索者に向いているのかもな)


 俺個人の意見としては探索者に最も必要な資質はこういう部分だと思っている。そもそも彼女の初期ステータスは前衛向きではないのだ。それでこれだけやれているのだから十分過ぎるというものだろう。


(それに引き換え鳳はダメだな)


 元々VITが高い前衛向きのステータスだったのだろう。それは適性や個性の問題だから別に構わない。だがその初期にしては高いVITにかまけて防御を疎かにし過ぎている。


 たぶん初期でVITは15ほど。ランクアップ分を合わせて20を超えているせいでビッグラットの攻撃がほとんど効いていない。だから考えなしに突っ込んで攻撃してもどうにかなってしまう。


 そして一見すると怪我もなく戦いを終わらせているから自分は優秀だと勘違いする。


「はっ、そんなに毎回ボロボロにならなきゃいけないなんて低ランクは苦労するな。同情するぜ」

「鳳さんは他人のことより自分のことに集中してください。あなたはステータスに頼り過ぎと何度も言ってるのに改善が見られませんよ」

「すいません。でも敵が雑魚過ぎて適当にやっても勝てちゃうんですよ」


 挙句の果てにはそんなことを言い出す始末。もうこれはアウト。


(足切り確定だな)


 俺に課せられた今の仕事は探索者として使い物になりそうなやつを指導して育成すること。だがこいつは使い物にならないのが俺の中で確定したのでその対象外となる。


「分かった。なら相応の相手を用意しよう」

「え? 相応の相手?」


 何を呆けた顔で見てやがる。仕事じゃないのなら俺が猫を被る必要がないだろうに。


 そもそも雑魚のくせに粋がりやがって。舐めた口きいた分も合わせて地獄を見せてやる。


 幸いここは最下層近く。つまりすぐ近くにこのダンジョンのボス部屋が存在しているのだ。


「あ、あの先輩……?」

「大丈夫だよ。どうやら優秀でビッグラットでは相手にならない、力が有り余っている彼に特別講習をするだけだから」

「そ、それ本当に大丈夫な奴ですか? 死んだりしませんか?」


 近くにいたせいか唯一人だけ俺が纏う空気が一変したのを敏感に察知したらしい。


 そのせいで怯えた様子を見せる五十里さんに怖がらなくていいと笑いかけたのだが、何故かより一層怖がられているようだ。


「大丈夫、死ぬ前には助けるから」


 小声でそう伝えるとその言葉の意味が指し示すことを理解したのか少しの間、遠い目をして


「えーと……私は巻き込まれたくないので何も聞いてないことにします」


 関わりたくない、自分が無関係だとアピールしてきた。うん、その処世術は今後も役に立つから是非これからも活用するといいと思う。


 あともし特別講習を望むのならいつでも言ってほしい。

 この子の場合、奴とは正反対の意味で特別講習を組んでみたい気持ちがあるからだ。


 どれだけ成長するのかという期待がこもった。


 だがその提案は即座に断られてしまったのだった。残念。

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― 新着の感想 ―
[一言] 勝手なイメージですが、 ふわふわとファンタジーに頼ってばかりでは無く、 話が地に足ついていて凄いです!
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