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第三章 終わら(せられ)ない借金生活とダンジョン氾濫編

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幕間 会社への侵入者疑惑

第三章も終盤です!


 先輩が五階の窓の外へと飛び出した瞬間、周囲から悲鳴が上がった。


 おそらく飛び降りて地面に叩きつけられることを想像したのだろう。だがその心配は杞憂でしかなく、近くの建物の屋上に着地していた。


 しかもそのまま次々と建物を足場にするようにして、あっという間にその姿は見えなくなった。


 その姿はまるで映画の中にしかいないはずのヒーローのようだ。もっともあんな敵に対する容赦のなさと空恐ろしいほどの悪辣さを兼ね備えたヒーローは中々いないだろうが。


「え、ええ!?」

「ひ、人が空を飛んでいる……?」


 残念。あれは飛んでいるではなく跳んでいる、の方が近い。


 もっとも一般人からしたらどちらにしても意味不明で理解不能な光景だろうが。


(今の私じゃあれは無理か。やっぱり先輩のステータスは異常なんだな)


 今でも隣の建物に飛び乗るくらいは出来るかもしれないが、あんな風に忍者みたいに移動するのは不可能だと分かる。


 そして今ではそれほどランクが変わらなくなった先輩がどれほど異常なのかを再認識させられる。


 それと同時に頼もしくもあるのだが。あの人がそう簡単に負けるとは思えないと。


 あっという間に見えなくなってしまった先輩を心配していても仕方がない。

 私も最大限の警戒を欠かさずにやれることをしよう、


 と、そう思っていたところに意外な人が私の下を訪ねてきた。


「五十里さん、八代特別顧問はいませんか?」


 回復薬研究を任されている外崎さんだ。


 回復薬作成の時に私もそれなりに関わりのある人だが、こうして研究室から出てくるなんて珍しいこともあるものだ。


 一生研究室に籠って研究していたいと当の本人が言っているくらいの研究好きなのに。


「残念ですけど先輩は出掛けてるので会社には居ませんよ。それとたぶんすぐには戻ってこられないと思いますよ」

「そうですか。いや、どうしたのものか」

「何かあったんですか?」


 その言葉に嫌な予感を覚えた。


「あまり大きな声では言えないのですが、研究室に誰かが忍び込んだかもしれません」

「ええ!?」


 小声で話されたその内容に思わず大きな声を出しかけた。


 先ほど先輩が警戒を緩めるなと言っていた直後にこれだ。

 これが偶然だとは思えない。


「それ、社長には報告してあるんですか?」

「いえ、まだです。あくまでそうかもしれないという程度で確認してから報告しようかと」


 外崎さんの話では最近、研究所の置いてある物の位置が変わっていると感じる時があったらしい。


 初めの内は気のせいかと思っていたのだが、意識してみると気のせいではないかもしれないと最近気付いたとのこと。


「申し訳ないのですが五十里さんにも確認してもらえませんか? 研究所に頻繁に出入りしているあなたなら何か気付けることがあるかもしれませんし、私の勘違いで事を大きくしたくないので他の人にも確認してもらいたいのです」

「分かりました」


 私が見て分かるかどうかは分からないが、何か分かれば儲けものと思うことにしよう。


 それにしても仮に侵入者がいたとしたらどうやって入り込んだのだろうか。


 研究所には限られた人しか入室を許可されていない上に、それぞれに配られた専用のパスがなければ入れないようになっている。


 仮にそのパスを盗めても常に警備員が配置されている上に指紋や顔認証などの本人確認も機械で厳重になされるようになっているので、そう簡単には入り込めないはずなのだが。


 たとえ先輩でもそれらの確認がなければ入れない徹底ぶりだったし。


(鳳が何かした? いや、あいつには入室許可が下りてないから手引きするのは不可能なはず)


 そんなことを考えながら外崎さんと二人で研究室へと歩いていく。


 そして相変わらず厳重な警備の中を通過してしようとして、


「あれ? おかしいな、パスがない」

「また研究室に置きっぱなしですか? しっかりしてくださいよ」

「あはは、そうみたいです。すみません」


 警備員に外崎さんが注意されていた。

 どうやら外に出なさ過ぎてパスを持ち出すことをついつい忘れてしまうらしい。


「前の時はどうしたんですか?」

「あの時は特別顧問の手が空いていたので中に入ってもらってパスを持ってきてもらいました」

「……もしかして本当は今日もそうしてもらうつもりだったんですか? 私を呼び出したのも実はそれが本命の理由だったりして」


 図星を突かれたのか言葉に詰まる外崎さんに呆れてしまう。

 この人は本当に研究者としては一流なのだが、それ以外では色々と残念過ぎる。


 幸いなことに外崎さんと警備員はこれまで何度も顔を合わせていることもあってパス無しでも通過を許してくれた。


 そうして私が機械による認証をしようとして、


「動くな」


 急に背後から朱里さんの声が聞こえたと思ったら首に刃物が突き付けられていた。

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