第十七話 疼く右目と御使いの助言
「なんだ、この感覚は?」
いざという時のために錬金釜を補充していたら急に右目が疼き出した。
そう、まるで試練の魔物の存在を感知した時のように。
そればかりか嫌な感覚が背筋を這うような、無視できない感覚を覚える。
(勘違いなんかじゃない!)
慌てて窓の外を見てその嫌な感覚を覚える方向を視界に捉える。
するとそこには想像もしていない光景が広がっていた。
「なんだ、これは!?」
左目が捉える視界では特に異常はないように見える。
だが錬金真眼が映す右目の光景は明らかに異常だった。
遠くの方で黄金色に輝く光の柱が空高く立ち昇っているのだ。
雲をも貫く形で遥か天高くまで。
だがそのことに周囲の誰もが気付く様子を見せない。
「先輩、急にどうしたんですか?」
この様子では愛華にも見えていないようだ。
つまりこの光が見えているのは探索者だからではない。
(俺だけ、しかも右目だけに見えてるってことは錬金真眼の効果か)
どうやらこの良く見える眼は単に物理的な側面だけではないみたいだ。
こんな訳の分からないものまで捉えられるとは。
それにしてもこの光は一体なんなのだろうか。
ひしひしと感じるこの嫌な予感といい何かヤバいことが起きそうだ。
「警告する」
と、そこで急に頭の中に声が響いた。
「この声は、アマデウスか?」
「肯定する」
「お前はこの現象が何か分かるのか?」
他にも聞きたいことは山ほどあったが、今はそれよりも目の前の謎の現象を知ることの方が重要だと判断した。
「何者かがダンジョンに干渉しているのを確認した。このままでは氾濫や崩壊と呼ばれている現象が間もなく引き起こされることになる」
「氾濫だって。くそ、都心でそんなことが起こったら大変なことになるぞ」
光の柱が立ち昇る場所はここからそう遠くない。
少なくとも東京都内であるのは間違いなさそうだ。そんなところで魔物が溢れたら死傷者がどれほど出るか分かったものではない。
「止める方法は?」
「ダンジョンに干渉している何者かを止めるしかない」
「それが分かれば十分だ」
すぐに社長に氾濫が起こりそうだと伝える。
根拠などない俺の言葉を特に疑うことなく信じてくれて、協会などに連絡することを請け負ってくれた。
「それでお前はどうするつもりだ?」
「俺は見えている光の柱の下まで行く。可能ならダンジョンに干渉している何者かとやらの顔を拝んでやるさ」
これまで全く反応を寄こさなかったアマデウスが急にこんな助言をしてきたところから察するに、この相手は御使い関連だと思われる。
つまりダンジョンを作った異世界の神族とやらが関わっている可能性が高い。
(負けるつもりはないが最大限の警戒をして撤退も視野に入れないとな)
この何者かとやらが神族だとしたらどれだけの強さなのか、そしてどんな能力を有してどんな戦い方をするのか全く情報がない。
そんな中で必ず勝てると思うほど俺は自惚れていなかった。
「愛華はここに残れ。そして俺から事態の収束の連絡が来るまでは絶対に警戒を緩めるな」
「わ、分かりました」
氾濫を止められなかったら東京は大混乱に陥るだろう。
その混乱に乗じて回復薬の情報を狙って諜報活動をしている奴らが何か仕掛けてこないとも限らない。
敵となる勢力は一つではないのだから。
(いや、あるいはそれが狙いなのか? 考えてみればあまりにもタイミングが良過ぎる)
地震によってC級の一部が伊豆諸島周辺の警戒をしなければならないこの状況で偶然氾濫を起こそうとする奴が現れる。
果たしてその二つが同時に起こる確率はいかほどだろうか。
何が起こるか分からないから本当は朱里や英悟などのノーネームのメンバーの何人かに付いてきてもらおうかと思っていたがそれは止めた方がよさそうだ。
「朱里、お前達は残って警戒を続けてくれ。光の下には俺だけで行く」
「……分かった。気を付けろよ」
誰にも聞こえない声量で呟いた声に、姿など全く見えない朱里から返答がある。
これでここの守りは大丈夫なはずだ。
とはいえこれから何が起こるか分からない以上は迅速に事態を収束させるのに越したことはない。
俺は会社の窓を開け放つとその窓枠に足を掛けた。
「先輩、まさか!?」
「悠長に車まで行く時間が惜しいからな」
なによりこの方が速く目的地まで到着できる。
「行ってくる」
驚く愛華の返答を待たずに俺は五階の窓から外へと飛び出した。
そしてそのまま近くのビルの屋上などに着地して、同じことを繰り返すことでどんどん先へと進んでいく。
まるで忍者か何かのように。
こんなことをしたら後で協会から罰金か何かをくらうだろうけど仕方がない。
もっとも今ならどれだけ借金が増えても問題ないので特に気にする必要もないだろう。
それよりも一早く光の下へ向かわなければ。
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