第十五話 試験 ポイズンスパイダーとの戦い
すみません、予約日時間違えて17時に投稿できませんでした汗
全員がコボルト退治のノルマをクリアしたので、次の本命であるポイズンスパイダーとの戦いに移ることとなった。
ただし実美、ひまり、加藤の三人はまだ実力が足りないので試験官からはお勧めできないと言われていたが。
もっともそれでも三人はここで脱落を選ぶことはせずに戦ってみることを選んだ。
確かに試験官が居れば死ぬ前に助けてもらえるし、格上の魔物と戦うのは次回のために良い経験になるだろう。
勿論奇跡が起きて今回で受かる可能性も零ではないだろうし。
それで話は済めばよかったのだが、そこで桐谷が何故か俺達に噛みついてきた。
二手に分かれた愛華達の方が先にノルマクリアしていたことで元々機嫌が悪かったのだが、俺達と同じ扱いをされたことで我慢の限界に達したらしい。
「なんで俺がこんな片目野郎とランク4の雑魚と一緒の扱いなんだよ! おかしいだろ!」
そう試験官に食って掛かっていたが、これ以上試験と直接関係ないことで騒いだり揉め事を起こしたりしたら本当に失格にすると言われて黙らされていた。
そのおかげもあってポイズンスパイダーと戦う前の休憩中でも直接何か言ってくることはない。
ただし不満げにこちらを睨んできてはいたが。
これまでのコボルト狩りの道中で自慢していたから知っているが、桐谷のランクは12とG級にしてはかなり高め。
更に愛華と違ってスキルも幾つか所有しているらしい。
だから自分は合格確実だと自信満々に嘯いていたのだが、そのプライドがランク4と同列に扱われたことで傷ついてしまったようだ。
おまけに愛華の方がずっと戦いやすくて強かったとひまりが煽るようなことを言っていたのも影響しているに違いない。
別に俺は桐谷のことはそれほど嫌いではなかった。
何故なら一般的なソロの探索者としてならこいつは割と優秀な方だからだ。
ソロとしてなら基礎だって割としっかりしている。
安全マージンをしっかりと確保して自分が倒せる相手をしっかりと見極めて戦う。
それには敵との実力差を測れないといけない。
そして単独だからこそ先に敵に見つかるような不利な状況に陥ることは絶対に避けなければならない。
こいつはこの試験でもそれを実行できていた。
惜しむべきはこれが昇級試験でソロの能力だけでは全てに対応しきれないところだろう。
前情報のなかったコボルト相手の戦い方もしっかり理解しているようだし、魔物についての情報収集を普段からやっているのが窺える。
問題があるとすれば努力しているからこそ負けたくないという気持ちが強過ぎることだろうか。
だから格下だと見下した相手の実力が思った以上のものだったということが素直に受け入れられない。
別に恐れ戦けとか言うつもりはない。
でも愛華が実際にこいつよりも早くノルマをクリアしたのだから自分も見習うべきところがあるかも、と少しでも考えられないのはダメだ。
(反省さえできればそれなりに良い探索者になれそうだけどな)
そう思うと同時に言わなくても反省して次に活かすことができる愛華の素質の高さに改めて気付かされるものだ。
もしかしたら社コーポレーションの人事は非常に優秀なのかもしれないと思うくらいに。
(いや、よく考えれば鳳を採用してしまっていたな。前言撤回で)
未だに捨て駒としてだけの価値しか見出されず、だからこそ生き長らえている奴だが遠からずそれも終わるだろう。
今は攪乱のために泳がしているが、いずれあれが単なる囮だと周囲に気付かれるのも時間の問題だろうし。
そんなこんなで休憩も終わってポイズンスパイダーと戦うために俺達は森の奥へと進んでいく。
ポイズンスパイダーは名前から分かる通り毒があるので、それを受けた際に解毒するための専用の薬を渡された上で。
森の奥へと進んだ後は試験官に言われた順番で加藤、ひまり、実美が試験官によって釣り出されたポイズンスパイダーと戦った。
だが残念ながらその結果はどれも惨敗に終わる。
身体から放出する糸で木々の間を移動するポイズンスパイダーは単純な速さではコボルトと同等以下だ。
だが糸によって立体的で変則的な動きをするので非常に捉えにくい。
それもあって三人はまともな一撃も与えられずに毒によってジワジワと追い詰められて敗北となってしまった。
ただ感知スキルがある実美だけは惜しかったシーンもあったが、結局はその動きに対応し切れずに終わった。
やはり彼らにはまだF級は早かったようだ。
(ランク的にはギリギリいけなくもなかっただろうが如何せん戦闘経験が浅すぎたな)
もっとも逆に言えばそこさえどうにかすれば合格できるだろう。
試験官の意見も大体同じだったのか、不合格となった彼らにそういったアドバイスをしているのが耳に入る。
「はん、どいつもこいつも情けないな」
そのアドバイス聞きながらも俺達の方をジッと睨んでくる桐谷。
次は自分の番だろうにこっちに注意を割いていていいのだろうか。
「見てろよ。俺はお前達とは違うんだ」
だがその心配を余所にやはり桐谷はソロとしては優秀だった。
流石にコボルトほど楽にとはいかないが、それでも堅実に盾で敵の攻撃を受け流して反撃の機会を待つ。
下手に捉えきれないなら反撃に徹する構えのようだ。
その作戦は正しく、中々有効打が与えられないことに焦れたポイズンスパイダーが攻撃の際に隙を見せたのを見逃さずに剣で斬りつける。
八本ある足の内の一つを斬り飛ばされたポイズンスパイダーは怒ったのか毒液を口から吐いてきた。
だがそれもしっかりと目視していた桐谷は当たらないように避けている。
そんなジリジリした戦いが続いて、何度か躱し切れない攻撃で毒になっても冷静に配られた解毒薬を使用して立ち回る桐谷。
最終的には時間は掛かったもののその冷静さで敵の頭部に剣を突き立てることで勝利をもぎ取った。
「よっしゃ! これで合格間違いなしだろ!」
合格を確信しているようだが果たしてどうだろうか。
如何せんソロに特化し過ぎているが、それは今後の学びでどうにかなるくらいのものだったし、それを考えれば合格かもしれない。
そうして次は愛華の番だ。
だが愛華はこれまでの戦闘を見て今のステータスだと少々きついことが分かったようで、
「秘策を使います」
用意していたその薬を取り出した。
「って、なんでお前もステータスブーストポーションを持ってるんだよ?」
「これは先輩を見習っていざという時のために買っておいたんです。試験にアイテムの持ち込みは禁止されてないから問題はないですよね?」
各々が装備を持ち込んでいるのにアイテムだけダメなんてことはない。
それを集めて扱う腕も探索者の力量と考えられるからだ。だが普通ならそんなドーピングで無理矢理合格するのはあまり褒められた行為ではない。
これで自分の実力よりも上の級に合格しても、ダンジョンで活動している際に強化が切れたら悲惨なことになるからだ。
(まあ今の愛華なら問題ないか)
むしろ言われてなくても自分で切り札を用意しておく用意周到さが頼もしいと思っておこう。
俺を反面教師にしたのか強化するのも副作用がない一重までのようだし。
そして全ステータスが強化された状態で始まった愛華の試験だったが、もはやそれは試験になっていなかった。
試験官が釣り出したポイズンスパイダーは珍しいことにいきなり愛華に向かって毒液を吐こうとして、次の瞬間にはその頭をメイスで粉砕されていたからだ。
「力加減が難しいですね、これ」
一撃、しかも瞬殺した愛華はそんな呑気なことを言いながら戻ってきた。
「はい先輩、お土産です」
「お、サンキュー」
しかも倒したポイズンスパイダーの死体を俺に提供するおまけ付きだ。
それを周囲は唖然とした表情で見ている。
その中には桐谷も含まれていて信じられないといった様子だ。
だが驚きはそこで終わらなかった。
次の俺も同じようにポイズンスパイダーを瞬殺したからだ。しかもこちらは薬で強化する必要もない。
「お二人は文句なしで合格です。というか早めにE級以降の試験も受けたらどうですか? 明らかに実力と級があっていませんよ」
「そうしたいのは山々なんだけど、俺はともかく愛華は止められるだろ。流石に実績が足りな過ぎるからな」
E級以降の試験を受けるためには探索者として一定の実績が必要になる。
倒した魔物を協会に納品したり、あるいは氾濫などの緊急事態が起こった時に協力するなどもその功績に含まれる。
「実際に見なければランク4でここまでやれるなんて信じられないでしょうから仕方ないですね。一応私の方で上に報告だけはしておきます。それで多少は早く受けられるようになるでしょう」
「助かる。それで試験は合格ならこの後は好きにしても大丈夫だよな?」
「勿論です。仮のF級のライセンスを渡しておきますので、正式な物の更新が済むまではそれを使ってください」
その流れは前と同じなので知っている。
「さてと、愛華」
「どうせ、折角だからこのままダンジョン探索するぞ、ですよね?」
「その通り。よく分かってるな」
そうして俺達は実美やひまりなどに別れの挨拶をしてその場を去っていった。
その時に同じく合格を言い渡されていた桐谷と目が合ったが、スッと何も言わずに目を逸らされる。
まるでバケモノでも見るような、あるいは関わったらいけない奴を見てしまったかのように。
(ここで睨みつけられるくらいの気概がないのは少し残念だな)
俺達との実力差を理解した上で噛みついてこられるくらいならスカウトしてもよかったのだが。
もっとも理解しないで噛みついてくるアホもいるので、一概にそれが良いとも言えないのが難しいところではある。
「先輩、ポイズンスパイダーとの戦いで気を付けるべき点はどこですか?」
「一番は毒の状態異常だな。解毒薬とかの対応できる薬やスキルがない場合、戦闘は避けて逃げに徹するべきだろう。でも俺達に限って言えばその心配は必要ないから、F級の魔物にしてはステータスが高くないポイズンスパイダーは割と美味い経験値稼ぎの相手になる」
なにせ解毒薬どころかその上位互換となる異常回復薬を大量に抱えているのだ。どれだけ毒を受けても治療するのは可能である。
普通なら解毒薬など必要なアイテムを用意するとなるとそれなりの費用が掛かるからポイズンスパイダー狩りはあまり効率の良い稼ぎにはならないし、普通の探索者には毒攻撃がやり辛いとなるので好まれない。
つまり俺達からしたらポイズンスパイダーは色んな意味で割といいカモになる訳だ。
「そういう訳だからこの後は解析率100%にするまでポイズンスパイダーを狩って、その後はボス周回に行くぞ。ここで周回すれば愛華もすぐにランク10くらいまでは行くだろうし」
「頑張りますけど限界はありますからね? 私は先輩と違って丸一日とか無理ですからね?」
そう言いながらも愛華はこの前の半日よりも長くボス周回をこなしてみせて、ランクを8まで上げてみせるのだった。
五十里 愛華
ランク8
ステータス
HP 31(26)
MP 55(50)
STR 19(14)
VIT 20(15)
INT 38(33)
MID 24(19)
AGI 21(16)
DEX 37(32)
LUC 30(25)
スキル なし
ジョブ 薬師(MP2 INT2 DEX2 LUC2)
装備 竜殺し指輪(全ステータスプラス10)
*ランク不足のため装備の効果は半減
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