第七話 探索者講習会 特殊職講義その1
鳳以外の奴らはこのままでは不味いと思ったのか俺に教えを乞うてきた。中には生意気な態度をとってすみませんでした、と直接的に謝ってきた奴もいたが、別に怒っていなかったから笑って許して普通に指導に入る。
現在の居場所はセーフエリアと呼ばれるダンジョン内でも魔物が湧かない特殊な地点だ。ただし魔物から逃げてくるなどして引き連れてきた場合は普通に入ってくるので、その点は注意が必要である。
「今回のビッグラットはG級で頭が悪いのでこの程度の作戦でも通用します。だけど強くなれば強くなるほど魔物もINTが上がり賢くなる。つまり下手な作戦は通用しないどころか逆手に取られることもあると思っていてください」
またビッグラットのような雑魚相手でもその動きや習性が分からなければ、先ほどのような作戦を立てることはできない。敵の情報を知る、あるいは調べることは非常に大切なことなのだ。
「それとあなた達が探索者として一人前になりたいのなら……言い換えれば強くなって稼げるようになりたいのなら魔物のことだけでなく様々な情報を集めることもお勧めします」
言い換えたのは約一名のやる気を上げるためだが効果抜群のようだ。爛々とその目を輝かせている。
「これは先行組がダンジョンに潜った初期の頃の話です。その当時ではダンジョンで取れるヒメリ草という薬草は全く見向きもされていませんでした。食べてもHPが1しか回復しないし素材としての活用方法も不明でしたからね」
薬草としてなら他にもっとHPを回復させる物があったのもその原因の一つだろう。回復アイテムとしてわざわざ効果の低いヒメリ草を選ぶ奴はいなかった。
「ヒメリ草って確か傷薬の原料になる薬草でしたよね?」
「その通りです五十里さん。よく勉強してますね」
傷薬は体力回復薬とはまた違った回復アイテムだ。
傷に塗れば十分ほど掛けて徐々に傷が塞がると同時に品質によって10から30ほどHPが回復していく。即効性がないのと戦闘などで激しく動くと薬が落ちて効果が発揮されなくなるので戦闘中に使うのは難しいが、それ以外の時には非常に役に立つアイテムだ。
体力回復薬がドロップする前まではこちらが現代の霊薬と称されていたほど発見当時は騒がれたものだ。
「このヒメリ草ですが昔は数百円でしか買取されていませんでした。ですが傷薬の原料となると分かった途端に一時期は百グラム数十万円から百万近くで取引されるほどになってましたね。まあ今は研究が進んだことで流石にそこまでではなくなりましたが、それでも探索者が稼げる手段として有名です」
傷薬を含めたアイテムなどの効力もダンジョンの外では半分になるがそれでも十分過ぎた。しかも傷に効くというのが外傷だけでなくシミや皺などにも有効だったので金持ちやセレブ界隈では現在でも美容品としても今でも非常に重宝されているらしい。
「そしてこのヒメリ草が傷薬の原料となると分かった過程で特殊職の存在も明らかになりました」
「特殊職ですか?」
「その名は薬師。傷薬を作成するにはこのジョブで手に入る製薬のスキルが必要になります。そして前に話した裏技がこのジョブのことです」
通常のジョブは上位になればなるほど特定の条件をクリアするのと一定のランクが必要とされる。
第二次職ではランク10、第三次職は20、第四次職は35で第五次職は50とのこと。
だが一部の特殊職は条件クリアが必要になるもののランクの制限は存在しない。ただしその分クリアしなければならない条件が難しいものだったりするのだが、今回の薬師については簡単に習得できる方法がある。掛かる費用に目を瞑るということが必要にはなるが。
「薬師は第二次特殊職で補正はMP2 INT2 DEX2 LUC2で補正値合計は8です。基本的な第一次職と比較するとその補正は雲泥の差なのが分かると思います」
前もって配った資料にも書かれているが基本的な第一次職は以下の通り。
平民 HP、MP以外からランダムで2補正
町民 HP、MP以外からランダムで1補正
村人 全ステータスからランダムに1補正
農民 全ステータスからランダムに2補正
農奴 全ステータスからランダムに1~2補正
奴隷 HP、MP以外からランダムで0~3補正
貧民 全ステータスからランダムで-4~4補正
これを見れば分かるが一次職ではどんなに高い補正値でも4が限界。それもマイナスもあり得るというギャンブル要素ありの上で。それに比べたら安定している補正値合計8は優秀過ぎるというもの。
「ランクが低い内に薬師になって高い補正値でステータスを上げる。探索者界隈だとこれを薬師ブーストと呼んでいます。そしてこれは後発組にしかない特権です」
薬師ブーストが発見された時には既に先行組は第二次職や第三次職になっていた。それらの補正値は薬師と同等かそれ以上だったので今更そちらに変えても意味はない。
「この方法を使えば少なくともステータスという面ではあなた達後発組の方が有利になります」
「うわ、俺ランク上げなければよかった」
「最初からこれやってればもっと効果があったってことだもんな」
その言葉の通りでランク1からこれをやるのが最も効果が高い。そしてランクが10になったら自分に合った別の二次職になるのが今の理想の成長の仕方とされている。
そういう意味ではランク6の鳳がこの中では最も不運だろう。新入社員の中では自分のランクが高いことが誇りだったのかもしれないが、残念なことにこの薬師ブーストを使う上ではそれは逆効果になってしまう。
それが分かっているのか憮然とした態度を取っている。まあそれでもランク10になるまでの四回は高い補正値を得られるのだから決して無意味ではない。少なくともこの点に関してだけで言えば全く恩恵を受けられなかった先行組よりも恵まれているのだから我慢しとけと言いたいくらいだ。
「さてと、説明はこのくらいにして早速薬師のジョブを習得しましょうか。時間が掛かる作業になるので始めるのが遅いと残業確定ですよ」
「それは嫌ですね」
ちょっとしたブラックジョークに周りが笑っている。その笑いがこの後も続くといいのだが。まあ彼らは別に痛い思いをする訳ではないから大丈夫だと思いたい。
「習得条件は回復スキルでも回復アイテムでも、方法は問わずにHPを1000回復させること。対象は自分でも他人でも、もしくは魔物でも構わないのでとにかく回復させることが条件です」
「えっと、その回復するのはどうやったらいいんですか?」
「たった今説明した傷薬を使います」
「……そんなもの持ってないんですけど」
五十里が一番に手を挙げて聞いてくる。そう、探索者成りたての彼らはそもそも回復スキルなんて習得していないし回復アイテムもそんなに持っている訳がない。
だから普通の探索者はこの方法を知っても諦めるしかない……が今回は違う。
「安心してください。こちらで用意してあります」
そう言って俺は錬成術師のスキルを使う。
突如として何もない空間に黒い穴が空いてそこから大量の傷薬を取り出すと俺の傍らに山となるように積んでいく。
「え!? え!?」
「驚きましたか? これは錬成術師のスキルの一つでアイテムボックスです。ランクに応じた量の物質を異空間に保管できる便利スキルですね」
錬成術師の中で唯一使えるスキルがこれだ。ちなみに他の生産職系でも同じようなスキルが手に入る上にこちらにはない使えるスキルが他のジョブにはあるからこれだけを目当てで錬成術師になる意味はない。
アイテムボックスは少し特殊なスキルでスキルレベルは存在ない。
その代わりランク1で百キログラム。ランクが一つ上昇するごとに百キログラム重量が拡張されるから俺のアイテムボックスは三千四百キログラムまでなら収納できる。
傷薬もこれだけではなくまだまだアイテムボックス内にあるので足りなくなることはない。
「それで回復させる対象ですが、HPが低い皆に自分を傷つけてもらって回復しても効率が悪い。なので今回は特別に私が協力します」
「協力、ですか?」
既にドン引きしている様子だがまだまだこれからが本番だ。
頼むから心折れないでほしいと願うばかりである。
「まず私が体力(HP)増強の装備で全身を固めて追加で回復力増強アイテムを使用します」
「また何か出てきた!?」
五十里がまた驚いているが本番はここからだぞ。
「HPが十分に確保されたことを確認したらこれまた用意しておいた呪毒の短剣で人数分の傷をつけます」
「刺した!? 自分の身体に短剣ぶっ刺したよこの人!?」
騒がしいのは無視する。
「それでは準備が調ったので全員で傷薬をそれぞれ別の傷に掛けてください。ああ、この呪毒の短剣は攻撃が命中している間、継続ダメージが発生するものなので心配はいらないですよ。これでダメージと回復を繰り返せばいずれ条件達成になります」
「……」
全員ドン引きしている。まあその気持ちは分かるがこれが最高効率で手っ取り早いのだ。
「早くしてくれますか? 時間がもったいないので」
高いHPのおかげか普通の人よりはマシだがそれでも地味に痛みはあるのだ。
ドMではないのでそれが嬉しいこともない。
(ブーストアイテムも使ったから3、4時間あればいけるだろ)
今からなら就業時間までには終わって定時には帰れるはず。我ながら素晴らしい時間配分だろう、感謝してほしいものだと冗談めかして内心で自画自賛するのだった。
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