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現代にダンジョンができたら潜りますか?〜私は今の仕事にしています〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第7章「先に進むために」

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64話-1「東京ダンジョン」






 目の前を白い光が包む。


 水の中に浮かんでいる様な感覚。


 思考を置き去りにし、何かに身を委ねる様な感覚。


 その感覚を言い表すなら、ほとんどの人間は覚えていない、母親のお腹にいるような、始まりの感覚。







「……今の感覚。大阪ダンジョンと同じだな」


 ダンジョンに入った時の感覚は同じ。そして目の前に広がる景色も同じだ。初めてダンジョンに入った時と同じで、発光した鉱物に照らされている洞窟の中。

 今思うと51階層と似ている。


「こんにちは。冒険者様」


「っ!!」


 久しぶりに見た光景を眺めていると、横から声をかけられてビクっと体が跳ねる。


 ははっ。この感覚も久しぶりだな。


「驚かさせてしまい、申し訳ありません」


「あ、大丈夫です。前にも同じことがあったんで」


 立っていたのはエルフの女性。見た目はシルクさん達とそう変わらないエルフとすぐにわかる耳だ。

 水色に染まる髪色に垂れ目のおっとりとした雰囲気のエルフだ。


「そうですか。でしたらよかったです。早速ですが、冒険者様はこちらには冒険に来られたのでしょうか? 観光ではありませんよね?」


 この質問も久しぶりだな。


「えっと、今は観光かな?」


 その僕の答えにエルフは疑うような目で見た。


「観光、ですか? でも、冒険者様は中級レベルですよね? 別のダンジョンからの冒険者様とお見受けしますが」


 そこまでわかるのか。いや、『サークナ』か『ペネトレイト』を使ってたらレベルぐらいはわかるか。


「はい。大阪の方でダンジョンに潜っていましたけど、今日は1日だけこのダンジョンに入ってみようかなって思いまして」


「……そうだったのですね。てっきりこちらのダンジョンに変更されたのかと思っておりました」


 変更? まあ、今の所はこっちのダンジョンを攻略する気はないけどな。まずは大阪ダンジョンを攻略してからだと思ってるし。


「一応、将来はこっちも攻略しようと思ってますけど。今日はほとんど観光気分ですね」


「……なるほど。でしたら、将来は攻略すると言う事で、観光者ではなく冒険者として扱った方がよさそうですね」


 そう言ったエルフはお辞儀をした。


「改めまして、わたくしサティナと申します。このダンジョン『ファーストゲート』のあなたの担当となります。よろしくお願いいたします」


「こちらこそ。奥山俊といいます。よろしくお願いいたします」


 つられて僕もお辞儀をする。

 シルクさんはもっとテンションが高かったけど、この人は淡々と対応してるって感じだな。


「オクヤマシュン様ですね。承知いたしました」


 そしてサティナさんは続きを話し始める。


「では早速ですが、すぐに攻略を開始されますよね? ダンジョンの説明はどうされますか? ダンジョンの仕様はどこも同じですので説明を省いても大丈夫だと思われますが」


「じゃあ、無しでいいです」


「承知いたしました。では先に進みます」


 そう言ったサティナさんが歩き出した。


「ご存じの通り、まずはチュートリアルダンジョンになりますが、オクヤマシュン様のレベルが45なので不要とさせて頂きます。ですが、プレステージダンジョンは攻略の必要がありますので、対応していただきます」


「了解です」


「武器はどうされますか? 今持っている武器を使用可能ですが、貸し出しも可能です」


「武器ですか……」


 そう言われたら、東京ダンジョンに来て自分の身なりを見てなかったな。

 そう思い確認すると、全く同じ装備の状態だった。『アイテムポーチ』の中身もそのまま。つまり東京も大阪もダンジョンは繋がっていると言う事か?


「自分ので大丈夫です」


「承知いたしました。ではそのままダンジョンに進んでくださって結構です」


「わかりました」


 そして案内された先には下に続く階段があった。

 ここまで1分もかかってないぞ。ダンジョンは初めてでないにしてもシルクさんとはかなり違う。ザ・ギルド職員って感じだな。

 すると、サティナさんが両手を広げて話し始めた。


「では、改めまして。ダンジョンへようこそ、冒険者様! このダンジョンでは大きな力を得ることができます。そして今、私達の国は魔物達に支配されようとしております。冒険者様の力でどうかお救いください。では、ダンジョンの攻略の健闘とご武運をお祈りしております」


 その言葉も懐かしい。シルクさんも同じような事を言ってたな。マニュアルなんだろうか。

 するとふと思い出した事を質問する。


「あの。バフはかけないんですね」


「えっ?」


 その言葉にサティナさんは驚いた表情をする。


「……そんなものはかけませんよ。オクヤマシュン様は中級冒険者ですから」


「そうですか。じゃあ、大丈夫です」


 それが本当なのかどうかわからないけど、少なくとも支援は無しと言う事だ。

 通常であれば普通の弱いモンスターが出てくるだろう。しかし、もしかすると『虐殺のオーガ』のようなボスの可能性もある。

 でも、それだったら面白いかもな。


「行ってきます」


「行ってらっしゃいませ」


 そして僕は入り口に向かって足を進めた。







『プレステージ1階層。このまま5階層までクリアしてください』


 階段を下りた瞬間、頭の中に直接流れ込むようなアナウンスが聞こえる。

 この感覚も久しぶりだ。ダンジョン攻略をしていてアナウンスが聞こえたのは50階層の攻略時のみ。レベルアップや武器スキルレベルが上がった時に聞こえる声とは少し違う。


「じゃあ、今の僕の実力ならどれぐらいのスピードで攻略できるかな」


 そう呟いて走り出した。

 目の前に出てくるのはゴブリン。それをすれ違いざまに剣を一振り。するとゴブリンは光の粒となり消える。


「弱いな。今の僕に対しても初心者レベルの敵……なら、さっさと攻略して0階層を見に行こうか」


 そのまま走りながら、出てくるゴブリンを数体倒し、数分で1階層を攻略し終える。


 次の階層へは階段があり、通常のダンジョンにある休憩するエリアはない。それに階段への入り口の上部が赤く光っているのもプレステージダンジョン特有だろう。

 こういうのを見ると、プレステージダンジョンは本当に作られたダンジョンなんだと思える。そしてこのダンジョンの構造は、初心者をふるいにかけているようにも感じる。


 僕はそのまま階段を下りて2階層へと足を進める。


 2階層も同じく洞窟のエリアで、出てくるモンスターはブラックハウンドだ。これも大阪と同じだ。まだ3か月ほど前なのことなのに、かなり前に感じる。

 まあ、かなり濃い時間を過ごしたし、色々なモンスターと戦ってきたからな。そう思って当然か。

 そんな事を考えながらでも2階層は攻略できた。ブラックハウンドの強さも変わらず弱い。この階層の攻略も数分だ。

 このままだと特に苦労せずに攻略ができてしまう。


「こんな状態になるなら僕のレベルを見た時点でプレステージダンジョンも免除してくれたらよかったのにな」


 そんな悪態をつきながら3階層への階段を下りた。


 3階層は武器を持ったゴブリンだ。目の前のゴブリンは棍棒を持っていて、これも同じ。武器を持ってても所詮はゴブリン。それに51階層で戦ったゴブリンの強さと雲泥の差がある。まあ、51階層のゴブリンはホブゴブリンといっていいほど、このゴブリンとは体格からして違うんだけどな。

 ここのゴブリンはゴブリンジュニアと言っていい程の大きさだからな。


「戦う必要もないぐらいだよな」


 僕は走りながら攻めてくるゴブリンだけを剣で倒して先に進む。今の僕のスピードなら、プレステージダンジョンの一直線の道などすぐに攻略してしまう。


 そして目の前には4階層への階段だ。


「たしか、4階層の隠れエリアで剣を拾ったんだよな」


 階段を下りながら呟く。


 大切に使っていた鋼の剣。あれもボロボロになったんだよな。今は常時使用は別の鋼の剣を使っているし、ボスや強敵に対しては『紫影』を使っている。このダンジョンぐらいなら鋼の剣で十分だけどな。


「隠れエリアなんて探さず今回は先に進もう。もし見つけたとしても今の僕には必要がないアイテムだろうし」


 このレベルで手に入れられるアイテムなどたかが知れてるだろう。今の武器に勝る武器が手に入るとも思えない。もし初心者が『紫影』と同レベルの武器を手に入れたとしたら30階層までは余裕で無双できるだろう。

 あっ、そうだ。金もあるし耐久値が高い剣を作ってもいいかもな。『紫影』は耐久が低いしなんか折れそうなんだよな。大切に使いたくなってしまう。


 そして4階層に出てきたゴブリンは蹂躙した。

 ダンジョンに来た当初はゴブリンを倒すのに罪悪感があったけど今は全くない。

 こんな感じで過去に通った道を思い出しながら攻略していると、ダンジョンに適応しているのを実感する。ダンジョンで食っていくならそんな感情はいらないから、もうなんとも思わない。


「さて、ラスト。ボスを倒して攻略完了しますか」


 ここまで30分もかかっていない。走れば数分で到着する次層への階段に弱いモンスター。そんなダンジョンに苦戦するわけがない。本当になぜ僕のレベルがわかってるのにプレステージダンジョンを攻略させたのかわからない。それがダンジョンの仕様だと言われればそれまでだけど、少し疑問になった。


 そして5階層へと足を踏み入れた。


「で、ボスモンスターは……へー」


 ボス部屋の中心に陣取っているのは、牛の顔をした2本の角を生やしたモンスター。


「ミノタウロスか」


 大阪ダンジョンではオーガ。それも『虐殺のオーガ』と呼ばれるギルドが作ったネームド。それで、今回はミノタウロス。それも、プレッシャーは普通のモンスターと同様今の僕には感じないぐらいだ。そうは言っても初心者の壁にはなる強さだろう。


 そして僕がボス部屋に完全に入った瞬間、階段が消えた。これも大阪と同じ。


「……っ!!」


 しかしその瞬間、ボスからのプレッシャーが爆発する様に膨れ上がった。


 そのプレッシャーは今までのネームドと対峙した時と同等に思えるほど。

 そしてミノタウロスの体躯が一回り、二回りと大きくなり始める。


「……まじかよ」


 そして、5メートルほどの巨体となったミノタウロスが雄叫びを上げた。






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