62話-3「新しいパーティ」
剣を構えた僕が前に出る。その間に河合さんと杏子さんが魔法を牽制として放つ。
目の前にいるのは5体のゴブリン。一度攻略している51階層なので、どのような攻撃パターンなのか、わかっているので戦いやすい。
はっきり言うと、この量のゴブリンぐらいであれば魔力を温存しても河合さんや杏子さんで余裕で倒す事はできる。別に僕が前衛として戦う必要もない。なんなら、僕も魔法を使って3人で遠距離攻撃をすれば安全に倒せる。というか、さっきはそれで倒していた。
でも、それは面白くない。進むための作業であればいいが、冒険とするなら武器も駆使して倒した方が楽しい。
なので、今回は僕一人で攻めさせてもらう。
河合さんと杏子さんには牽制だけでとお願いしているので、相手の弓と魔導士を牽制してもらっている。だから戦闘は本当に楽になる。
と言っても今の僕なら牽制もいらないぐらいなんだけどな。
まずは『加速』で一気に距離を詰める。この『加速』は『瞬動』とは違い足が速くなると言うモノ。しかし、込めるSPの量によってスピードが変わるので、いつかは100メートル5秒も余裕で超えると思える。調整は難しいだろうが。
そして距離を詰めると、そのスピードのまま『瞬動』を使いフェイントを入れる。するとゴブリンにとっては目の前から消えるようで、僕を見失う。そのまま僕は一番前にいる盾ゴブリンではなく後ろの双剣ゴブリンを倒す。『パワーチャージ』からの『スラッシュ』で倒すことができれば、その次は盾ゴブリンを狙う。『チェーンコネクト』で繋ぐことで次の『リア・スラッシュ』の威力も上昇している。そしてそのまま盾ゴブリンの盾ごと斬り倒す。最後に残った剣ゴブリンはスキルを繋げることなく接近して数回剣を打ち合ったあと倒した。
残るは弓と魔法。通常であれば河合さんと杏子さんで倒しおわっているが、今回はわざと残してもらった。そして、攻撃を避けながら近づき『スラッシュ』で数回攻撃すると2体とも光の粒へと変わった。
今ならこれぐらいで倒すことができるわけか。
「奥山君、お疲れー」
「どう? 楽しめたかなー?」
河合さんと杏子さんが近づいてくる。
「楽しかったよ。いい運動になるって感じかな」
「そっかー。だったらよかったね」
「奥山君、あれからかなり強くなってるからこのゴブリンぐらいなら余裕で倒しちゃうね」
「まあ、余裕だなー」
河合さんに言われて頷く。自分が言った通り、これぐらいならいい運動になるぐらいで冒険という楽しさはまだない。
「じゃあ、次はまゆまゆがする?」
「そうだね。私も一人で倒してみるよ。私だって奥山君ほどではないけど修行したからね」
「そう言えば、あれから河合さんの戦い見てなかったな」
「じゃあ、少しだけ期待しといて」
ハニカミながら河合さんがそう言った。
そして次の戦闘は河合さんのみで戦う事になった。
数分後、いつもの通りゴブリンが現れる。そして河合さんの戦闘が始まった。
河合さんの視線の先には5体のゴブリン。ゴブリンの構成は僕の時と同じ。そして河合さんは僕達の援護もいらないと言う事で、その場で魔法を構築する。
「『ファイア・キャノン』10連!」
それは僕がワイバーンの時の魔法と同じ。しかし違うのは魔法の動かし方だ。
河合さんの魔法操作は上手だ。まっすぐ飛ばしていた僕とは違い、河合さんは狙った場所に炎球が弧を描きながら飛ばす。10個の魔法を同時に動かすのは難しいが、河合さんは2個を1個として認識して動かしているようで、尚且つ2個同時に動かす幅を広げる事で相手に被弾する場所を分けている。それが10個同時に動かしている様になっているからうまいこと考えたものだ。
そして、河合さんの炎球がゴブリンに全弾命中した。被弾して倒れたのは奥の弓と魔導士。武器を持っている3体は耐えたみたいだが、攻撃はこれだけでは終わらない。
すかさず、新たな魔法を発動する。
「『ウォーター・プリズン』3連!」
直径30センチほどの水の球体をゴブリンの顔面目掛けて放ち、命中させた。その技の通り、ゴブリンの顔面が水に埋まり呼吸ができないように藻掻き苦しんでいる。このままでもゴブリンを倒せるだろう。
しかしそこに追い打ちをかけた。
「『ファイア・ランス』3連!」
3本の炎の槍が河合さんから発射される。そして見事ゴブリンに命中し、光の粒へと変えた。
「お疲れー」
「おつかれ、まゆまゆ」
「ありがとー」
ゴブリンを倒した河合さんに近づく。
「だいぶ魔法操作が上手くなってるな。魔法操作では僕は勝てないんじゃないかな?」
「そう? まあ、奥山君より魔法はいっぱい練習したからね。ね、杏子さん」
「そうだね。まゆまゆは練習したよー。わたしの弟子だからねー」
楽しそうに話す2人を見て、少し悔しく思う。
まあ、僕も3個までなら同時に動かせるが、それでは河合さんには勝てない。でも、そりゃ僕は武器の訓練をメインにしてたから差が出るのは当たり前だろう……と、自分に言い聞かせている。
「じゃあ、先に進もっか。次は杏子さんがする?」
「わたしはいいよー。自分の実力わかってるし。ここから先もまゆまゆとしゅんしゅんがメインで進んでこ」
「りょーかい。じゃあ奥山君、さくさく進んじゃおっか」
「おー」
そして杏子さんは一人でゴブリンを相手することなく、僕と河合さんがメインでゴブリンを倒して進んで行った。
◇
3人で51階層を進むこと12時間程。休憩を入れながら51階層出口付近に到着する。そしてそこには予定通り大量のゴブリンがいた。
「前と一緒で約30体ほどか。杏子さんどうする?」
「そだねー。力押ししちゃう?」
「力押しかー。今日はここまでだし別にいいよね。杏子さんもいるし撃ち漏らしもなさそうだし」
「ちなみに、杏子さん一人の時はどうしてるんですか?」
「わたし一人の時は、まずは魔導士ゴブリンを倒してから、順番に殲滅かな。30体ぐらいなら距離を開けて魔法を放ったら攻撃も食らわずに十分に倒せるし」
「なるほどなー。前も別の僕達も魔法だけで戦えばよかったかな?」
「有効だっただろうね。でも二人だけで倒すのは骨が折れただろうけど。魔力量もあの時は杏子さんに比べたら少なかったしね」
「だな。それに僕達二人で倒しても他のメンバーが動かないってのもおかしい話だったからな」
「そうそう」
前のパーティを思い出しながら話していると昨日抜けたばかりなのに懐かしさを感じる。
「どうする? 別にこのメンバーなら力押しでも大丈夫だろうけど」
「そうですね。じゃあ、力押しでいきましょうか」
「私もそれで。それに今どれだけの力をつけてるか、単純にわかるからね」
「わかった。じゃあ、そうしよっか」
そして僕達はゴブリンゆっくり近づく。魔力を込め始めるとゴブリンが気付くので魔法はギリギリで発動させる。
そして射程範囲まで近づいた。すでにゴブリンはこっちに気付いているが様子見のようで数体が動き始めた瞬間だった。
その瞬間、僕達は魔法を構築し放った。
「『ファイア・キャノン』!」
「『アイス・キャノン』!」
「『アイス・ピラー』!」
河合さんと僕が奥にいる魔法ゴブリンを2体ずつ攻撃する。見事に命中した魔法はゴブリンを光の粒へと変えた。
射程距離も上がっている。射程距離は集中してイメージを持ち、魔力を込めたら伸びるが、それを瞬時にする事が難しい。だから、距離が伸びるまで練習するのだ。
そして杏子さんは迫ってきていた3体のゴブリンを地面から生えた円柱の氷の柱で吹き飛ばして倒していた。
「さあ、始めるよ!」
杏子さんの掛け声で再度魔法を構築する。
急に攻撃されたゴブリン達は怒りを露にして雪崩れるように僕達に向かって駆けだしていた。だから手前から魔法を当てて行く。
「『ブラストハッシュ』!」
「『フレイムバンナート』!」
「『エクスプロージョン』!」
僕の風の魔法が囲むように周りからゴブリンを責め立てる。切り裂かれたゴブリンが倒れて消えるまでに後ろから迫るゴブリンの邪魔をする。その間に河合さんの炎魔法が炸裂して消えかけのゴブリンごと燃え上がる。そして、逃げられなくなったゴブリンに向かって杏子さんの爆発魔法が辺り一帯を消滅させた。
「おおー、3人居たらここまで圧倒できるんだ」
「前に比べて僕達も魔力量も増えたから威力も上がってるしね」
「まあ、この3人だったらこれぐらい余裕でしないとね。オーバーキル気味だけど」
目の前にはゴブリンを攻撃した魔法の痕が残っているだけで、数十体のゴブリンが消えていた。残るは攻めてこなかったリーダー各のゴブリンとその取り巻きの合計5体だ。
杏子さんの言う通りオーバーキルだなこれは。
「さて、じゃあ、残りはどうやって倒す? 二人で決めて」
「そうですね。じゃあ、ゴブリンリーダーは僕が一対一で倒すよ。もう一回戦ってみたいから」
「りょーかい。じゃあ、周りのは?」
「魔法で倒してからだね。一瞬でいけるでしょ」
「うん。じゃあそれで。杏子さん、私が前2体を、奥を杏子さんと奥山君でお願い」
「わかった」
そして目の前の現状を見て動けないでいるゴブリンに向かって僕達は歩き出した。
走る必要もない。相手の魔導士はいないし、弓2体だけなら僕が剣で叩き落すだけ。
そして魔法の射程距離に入ったら僕は走りながら魔法を放つ。後ろからは僕を通り越して杏子さんと河合さんの魔法がゴブリン達に当たる。僕の魔法も奥の弓ゴブリンに当たって倒した。
あとは前衛を河合さんが倒せばいいだけで、僕はゴブリンリーダーと一騎打ちだ。
「さて、あの時と比べてどれだけ強くなってるか」
あの時は、大樹さんと二人で尚且つ河合さんの魔法の援護ありで倒した。苦戦はしていないが3人がかりと言うことだった。
そして、ゴブリンと剣を打ち合う。
激しくなる金属音。剣と剣がぶつかり合う。しかし、終始圧倒するのは僕の方だった。
元々常に『スラッシュ』を使用する事によって攻撃の威力は十分にあったが、この1ヵ月でSPの調節もよりスムーズになっている。だからこそ打ち合っても力負けしないことは有利になる。
有利になればその分攻撃に余裕ができるわけで、他のスキルにもつなげる事が簡単にできる。
鍔迫り合いになった瞬間、押し返す様にゴブリンを吹き飛ばした。軽くたたらを踏んだゴブリンを見てスキルを発動させる。
「パワーチャージ」
そして、間髪入れずに距離を詰めた。
「リア・スラッシュ!」
横一線。
横薙ぎに振った剣が吸い込まれる様にゴブリンに命中して、ゴブリンが吹き飛ばされた。
吹き飛ばされたゴブリンは壁にぶつかりその場に倒れ、光の粒へと変わった。
「まあ、こんなもんか」
その光景を見て僕は呟くと、後ろから河合さん達がやって来た。
「お疲れ、どう? 自分の力は試せた?」
「うん、試せた。前は大樹さんとだったけど、一人で十分って感じだな。杏子さんのように一人でもここの30体は倒せそうだな。今度一人で剣だけで挑戦してもいいかもな」
「そうだろねー。普通に一人でワイバーンを倒してるんだから、ここのゴブリンぐらい一捻りだよ」
「それもそっか」
「奥山君ができるなら私もしないとね。また挑戦してみよかな」
「まゆまゆが挑戦するならわたしも付き合うよ。自分の力を試すのは良い事だからね。自分の強さを見極めないと無謀な冒険をする可能性もあるから。先に進むのも自分の実力に合わせて進まないとね。でも、立ち止まらないようにするのが、わたし達の目標だね」
「そうだね。頑張ってこー」
「だな」
そして、僕達はゴブリン達のドロップアイテムを拾って51階層を後にした。
「この調子で来週から52階層攻略していくよー」
「はーい」
「了解です」
12時間ちょっとの攻略は兼次さん達との初回に比べて1時間ほど早く終わった事もあり、思っている以上に元気だった。
これで杏子さん達との初めての連携攻略は幕を終えた。
この調子なら、先も大丈夫だろう。進める所まで一気に進もう。
さて、明日は久々の会社だ。終わりだとしても最後の最後。少し気合を入れて出社しようか。




