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現代にダンジョンができたら潜りますか?〜私は今の仕事にしています〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第7章「先に進むために」

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61話-3「1か月後」



「「なっ!?」」


 顔面を跳ね上げられ後ろに向かって倒れるワイバーンを見て、兼次さん達が声をもらす。


「なんや今の……」


 兼次さんが呟く。

 それに対して僕は答える。


「これはただの『スラッシュ』と『パリィ』を合わせただけです。タイミングはシビアですけど練習しましたから」


「……いや、『パリィ』は盾のスキルやろ。なんで俊が覚えてるんや……」


「この1ヵ月で覚えました。覚えられる武器のスキルは一通り」


「この1ヵ月でか?」


 そう。僕はこの1ヵ月でできる限り剣以外のスキルを覚えた。盾、短剣、双剣、弓、斧、槍など。少なくともそれらのレベル1のスキルは覚えた。全て剣で使えるスキルだけだが。


「兼次さん達だって盾以外のスキルで剣のスキルも使ってますよね?」


 すると大樹さんが話に割って入った。


「それは盾がメインでも、剣を使うから必然に覚えてるだけだぞ。兼次さんは斧も使ってたから別のスキルも使えるかもだけど」


「そうやな。俺は剣か斧かで迷ってたからどっちのスキルも使える。だから俺らは盾を使うからって事で、俊みたいにわざわざ別の武器のスキルを覚えてないで……」


「そうなんですね」


 そうだったのか。てっきり別の武器を使ってスキルを覚えていたのだと思ってた。でもそう考えれば、双剣も短剣もその武器のスキル以外に剣のスキルも覚えられる。剣は剣のスキルだけしか覚えられないのは少し損だったのか。

 でも、もう終わった事だからいいけど。


 兼次さん達がまだ聞きたそうだが、話はこれぐらいにしてもうそろそろワイバーンが動き出すだろう。


「話はこれぐらいで。では、兼次さん達はここで見ててください。僕一人でワイバーンを倒してきます」


「はぁ!? お前何言ってるんだ!」


 すると、後ろから彰さんの声が聞こえた。

 僕は彰さんに目を向ける。


「……そのままの意味ですが?」


「それが意味が分からないんだよ! お前一人でワイバーンを倒すってか? そんな事ができるわけないだろ!」


「……そう思われるんだったらそれでいいですけど。もし僕がやられそうになったら助けに来てくださいよ。それまではここでじっと見ててくださったらいいので。いや、というか、やられないですね。あと、彰さんでは僕について来れないと思うんで大丈夫です」


「はぁっ!?」


 僕の言葉に彰さんの目が見開く。


「おい、俊! それは言い過ぎや!」


「言い過ぎも何もそれが事実ですから。諦めるような言葉を言う彰さんには無理です。兼次さんならついて来れると思いますが、兼次さんもここに居てくださいね。僕一人で十分ですから」


「いや、それは……」


「さあ、来ますよ」


 兼次さんが僕を止めようとした時、吹き飛ばされていたワイバーンが起き上がり咆哮を上げた。

 怒っている。そりゃ牙を折られたんだもんな。

 そう心の中で悪態をつきながら僕は、走り出した。


「加速」


 その瞬間、通常よりも走る速度が上がる。

 短剣のスキル『加速』だ。後ろでは美優さんが驚いているだろう。

 そして瞬動も加える。そのスピードは一瞬でワイバーンとの距離を詰めた。そして飛び上る。

 一瞬の事でワイバーンは僕を見失っていた。


「パワーチャージ」


 剣にSPが吸い込まれていく。

 そしてワイバーンが僕の方向を向いた途端、


「リア・スラッシュ!」


 重力と共に一気に剣を振り下ろした。

 白い軌跡が残り、ワイバーンから鮮血が飛ぶ。

 しかしワイバーンはこれぐらいでは落ちない。

 わかっているからこそ、降り立つ間にも攻撃の手は止めない。


「『エアーハンマー』10連」


 左手でワイバーンの顔に照準を当てて魔法を発動する。顔面に連続で空気の塊が当たり続けたことで、ワイバーンの脳が揺れ、足をもたつかせた。

 そして降り立った僕は威力の高い魔法を練り上げる。


「『ブラストハッシュ』!」


 杏子さんと河合さんに見せて貰った風の魔法だ。これは風の刃で切り刻む魔法。今回は範囲をワイバーンの胴体のみに指定する。すると見る見るうちにワイバーンの胴体が切り傷で赤く染まっていく。

 ダメージが通ってるからか、ワイバーンは僕を見つけた瞬間、怒りをそのままぶつけるように翼と尻尾を動かした。

 しかし動きが鈍い。ダメージが入っている証拠だ。

 これぐらいならスキルを使う必要がないが、完全勝利を目指すには。


「転舞」


 僕は舞うようにその攻撃を避けた。

 双剣のスキル『転舞』は攻撃を避ける特化のスキルだ。ワイバーンの攻撃を全て避けきる。

 そして双剣スキルはこれだけではない。双剣スキルはスキル自体が全て使用頻度が高そうなスキル群だった。だから僕は双剣を重点的に訓練した。

 ワイバーンの攻撃が止んだ瞬間、畳みかけるように剣を振る。


「ラッシュソード」


 ワイバーンの足をめがけて剣を連続で振る。双剣とは違い片手剣なので回転数は半分になるが、それでも手数は多い。ワイバーンの足に一瞬にしてダメージが入る。

 そしてワイバーンは一瞬バランスを崩した。


「パワーチャージ」


 その隙に剣を構える。

 そして、


「スラッシュ!」


 倒れかけていたワイバーンに向かって白い軌跡を残しながら剣を横に振り切った。

 胴体に新しい傷が増えるが、傷は浅い。しかしそれで終わりではない。


「チェーンコネクト」


 そのスキルはスキルとスキルを繋げる。


「リア・スラッシュ!」


 そして『リア・スラッシュ』に繋げる。そして、その『リア・スラッシュ』は通常より威力が大きい。

 この『チェーンコネクト』はその前に使ったスキルの効果を引き継ぐ。つまり『パワーチャージ』を引き継いでいるからこそ、威力が大きくなる。

 先ほどと似た場所に大きな斬撃が通る。傷が深くなり、ワイバーンが叫ぶことでダメージが大きいとわかる。

 しかしそれでも終わらない。


「チェーンコネクト」


 もう一度繋げる。『チェーンコネクト』は連続で繋げる場合タイミングがよりシビアになる。だから、僕が繋げられるスキルは3回までだ。

 でも、3回で十分だろう。


「バーストブレイカー!」


 振り上げた剣が光り輝く。『パワーチャージ』と『バーストブレイカー』の光が溢れる。

 そして振り下ろした。

 その斬撃はまっすぐワイバーンを襲う。白い軌跡がワイバーンを通り抜け、背後まで斬撃の余波を貫通させる。そして爆発するような一撃はワイバーンのHPを一気に減らした。

 その一撃は圧倒的だっただろう。


 その威力はボス特有の変化も起こすことなく、一瞬にしてワイバーンを光の粒に変えた。


「まじかよ……」


 ワイバーンが消えるのを確認したあと、振り向いたら遠くでこの光景に驚いているみんなが見えた。

 特に彰さんは倒せないと言った手前、ありえないと本気で驚いているようだ。


「お疲れ様です。これで僕がどれだけ訓練したかわかりましたか?」


 兼次さん達に向かって歩きながら僕は剣を鞘に納める。


「あ、ああ。ここまで強くなってたとはな……」


「まじで凄いぞ俊! あのワイバーンを一人で倒すなんて」


「ほんとに凄すぎよ、俊くん! ちょっと驚きすぎて引くぐらい……」


 兼次さん、大樹さん、小百合さんはすぐに僕の状況を褒めてくれた。奥に居た桐島君は「まじか……」と口を開け、美優さんは若干引いていた。

 そして彰さんは、


「あ、ありえねーだろ!」


 そう僕に向かって叫んだ。


「本気で一人でワイバーンを倒すなんてありえねーだろ! なんだよそれ! どれだけ訓練したらそんなに強くなれるんだよ! 規格外にもほどがあるぞ!」


 その顔は現実を受け入れた表情をしているが、とにかくそのもどかしさを口に出さずにはいられなかったようだ。


「なんだよ。俺達だって訓練して、連携して、個人でも強くなった。でも奥山を見たら俺がどれだけちっぽけだったか……思い知らさせるんじゃねーよ!」


 理不尽だ。

 しかしその言葉は僕に向かってではない、彰さんは誰もいない下に向かって叫んでいた。


「くそっ! その強さだったらまじで俺らはいらねーじゃねーか。足手まといにしかならないじゃねーか!」


 本当に悔しそうだ。

 初めて会った時は自分とあまり変わらない強さだと思っていたのだろう。実際1か月前まではほとんど変わらなかったかもしれない。しかし、この1ヵ月で差が一気に開いた。その事が悔しくて僕を睨むように見た。


「奥山、お前は……」


 そう何かを言いかけて彰さんは兼次さんを見た。


「……兼次さん、俺はもう何も言わない。奥山については兼次さんが決めてくれ。でも、一つだけ言わせてくれ。俺は……今からどれだけ全力で走っても、奥山に追いつける自信は無くなった」


 そして彰さんはとぼとぼと歩いて行った。


「アキ君!」


 それを追いかけるように美優さんも走っていった。


「彰……」


 兼次さんがそれを見て呟く。

 僕は彰さんの後姿を見て何も言わない。これ以上は何も言う必要もないだろう。

 すると河合さんが「お疲れ」と声をかけてくれた。


「それにしても奥山君、何度見てもすがすがしい戦いだね」


「ありがとう。今回は最速じゃないだろうけどね」


 河合さんが褒めてくれて、笑い合う。すると大樹さんがツッコミを入れた。


「おい、何度見てもって……前にも同じように倒したのか?」


「え? あ、はい。ワイバーンは一人で何度も戦って倒してます。一番経験値の入りもいいですし、戦いがいがありましたから」


「まじか……」


 大樹さんが驚いて「いや、そうじゃないと、今回も倒せないよな……」と呟いていた。


 さて、これで彰さんに関しては思い残すことはない。なくはないが、もうこれでいいだろう。本題に入ろう。


「兼次さんこれでわかりました。彰さんと美優さんはどう考えているか。だから、今僕が思った事を言っていいですか?」


「……ああ」


 兼次さんが覚悟を決めたのか頷いた。その顔はすでに答えがわかっている顔だ。

 だから僕は遠慮なく話した。


「今のこのパーティのレベルに僕は満足できません。僕の実力は今見せた通りワイバーンを一人で倒せるくらいです。僕がこのパーティに残るなら一人一人それを求めます。少なくとも2人で倒せるぐらいにはなってほしいです。そうじゃないと、51階層以降は生き残れないと思います」


 その現実に兼次さん達は口を閉じる。


「ただ単に『暴虐の鬼王』もいない51階層ちょっとまではお金を稼ぐためだけならよい狩場だと思います。ですが、僕の目的はこのダンジョンを攻略すること、先に進むことです。もし、皆さんが今から訓練して強くなるって言うのであれば僕はもちろん残ります。それぐらい強くなれる気持ちがあるならこの先も大丈夫だと思えます。どうですか? 皆さん強くなるつもりはありますか?」


 そう聞くが、誰も答えない。いや、答えないのではなく答えられないのだろう。

 大樹さんは悔しそうに何か言いたげにしている。小百合さんも同じだが、僕ほど強くはなれないと目を伏せている。桐島君に至っては諦めている表情をしている。そして兼次さんは、


「俺は強くなるつもりはある。せやけど、俺だけではあかんやろ?」


「ダメですね。兼次さんだけでは意味がないです。そうなったら僕が兼次さんを引き抜きます。でも、それはこのパーティを崩壊させることになる。それだけは絶対にできません」


 当たり前だ。兼次さんのパーティから兼次さんを引き抜くのはありえない。


「兼次さんがみんなの鬼教官になって訓練させるしかないですが、それもできないですよね。本当はお世話になったこのパーティから抜けるのは心苦しいです。ですが、彰さんの件があってからパーティで行動するのも難しいんだと思いました。本当に大変ですね。兼次さんは凄いです。他の皆さんも凄いです」


 その場にいる全員を見る。


「でも、僕は決めました。せっかくダンジョンにいるんだから、外と同じことをしていてはダメだって。会社と同じなのはダメだって。自由に動かないとダメだって思いました」


 そして頭を下げた。


「だから、このパーティから抜けさせてください!」


 頭を下げた僕からはみんなの顔が見れない。どういう表情をしているのかわからない。

 だけど僕は決めた。ダンジョンでは自分の目的の為に動く事を。会社も辞める決断をして今までとは違う一歩を踏み出したんだ。

 僕はダンジョンを『今の仕事にしています』って言いたい。その為には自分らしく動けないとダメだ。

 そして、兼次さんが声を上げた。


「わかった。俊が抜ける事を俺は了承する」


 僕は顔を上げて兼次さんを見る。


「いいんですか?」


「いいもなにも、もう俊の心はここに無いやろ? ここで抜けさせへんとリーダーとしてはダメダメや。俊の戦力がなくなるのはかなり痛いことやけど、このパーティとはレベルが違う俊を抜けさせへんのも、先輩冒険者としてはあかん。俊の為を思うならこのパーティから抜けた方がいいと俺は思った」


 兼次さんが優しく笑ってくれる。


「彰の事で色々あったんはほんまにすまんな。でもあいつも俺らの仲間や、見捨てる事はできひん。せやから俊は俊で自分の道を歩いていき」


 そして兼次さんはみんなに声をかけた。


「みんな、それでええやろ?」


 すると最初に大樹さんが声を上げた。


「俺はそれでいい。元々俊が俺らと同じパーティにいる事がおかしかったんだ。ここにいたら才能をくすぶらせるだけだし、俺もおんぶにだっこ状態にはなりたくない」


 次は小百合さんだ。


「私も大樹と同じね。俊くんは先に行くべきだわ。本当は寂しいし残念だけど、私達と同じパーティに納まる冒険者じゃないわ」


 そして桐島君は河合さんを見ていた。


「河合さん……ってことは、河合さんも出て行くんですよね」


「そうだね。決めてた事だから。ごめんね桐島君」


「……はい」


 桐島君が項垂れて泣いていた。泣くほどか? それに残念だけど河合さんには谷口がいるから桐島君が入る余地は元々なかったんだよな。


 そして兼次さんが一歩前に出て僕と河合さんの肩に手を置いて、笑った。


「残念やけど、これで俊と真由のパーティ脱退が決まった。二人とも今日までありがとうな。お疲れさん!」


 その笑顔はいつも通りではなく、やっぱり寂しそうな、悲しそうな、おっさんの顔だった。






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