61話-2「1か月後」
「もう一度言いますね。『ワイバーン』を倒しに行きませんか?」
一度目の僕の言葉に何を言ってるんだと言いたげな顔をしたので、2回繰り返した。
すると兼次さんが遅れて「なるほど」とうなずいた。
「もう一度ワイバーンと戦うのは良い訓練になるから、別にアリやな」
「そうだな。前に巨大ムカデも俊と真由二人で倒しに行った例もあるから、無しではないな」
「そうね。私もいいと思うわよ」
兼次さんに続き、大樹さんと小百合さんが賛同する。しかし彰さんは違った。
「いやいや、もう一回あのモンスターと戦いに行くのか!? 理由は? 俺は意味がわからないんだが?」
そう言った彰さんの反応に僕は目を細めた。
「兼次さんが言っている通り訓練もありますけど、今のパーティの実力の確認です。前回は河合さんもいましたが、今回は河合さん無しで戦います」
「は? ワイバーンを河合無しでか?」
彰さんが眉間に皺を寄せる。その言葉に僕は兼次さんを見る。
「できますよね、兼次さん?」
「……そうやな。俊も戦うんやろ?」
「僕も戦いますよ」
「どうや、彰。ワイバーンは一度倒してるから、大丈夫やろ。俺らも訓練したし強くなってるはずや」
「……そうだな。兼次さんがそう言うなら……」
「なら、決定や。俊、ワイバーンを戦いに行くで」
「わかりました。お願いします」
彰さんの反応は微妙だが、兼次さんが了承したのであれば大丈夫だろう。
あとは、彰さんの仲間に対しての言質を取らないといけない。
「では、行く前にもう一つ。条件だった仲間についてですが、彰さんどうですか? 宣言してくれますか?」
そう言うと兼次さんが割って入った。
「彰もわかったって言ってる。な、彰」
「ああ、仲間については奥山の言う通りにするとみんなで話し合った」
「じゃあ、宣言をお願いします。また、仲間を見捨てられる選択を考えられたら困るので」
するとしぶしぶと言う感じで彰さんが言った。
「俺は、仲間を見捨てる事はしない。これでいいか?」
少しぶっきらぼうな言い方だったが、まずはこれでいいだろう。
「わかりました。それでいいです」
そして僕達は立ちあがった。
「じゃあ、行こか」
そして50階層に向かう準備を始めた。
元々今日はミーティングをした後、軽くダンジョンに潜る予定だったようで全員準備はできていた。そして河合さんもついてくる。
「俊、ちなみに50階層にはどうやって行くんや? 俺らの到達階層は51階層やろ? 51階層を逆走するんか?」
「それは大丈夫ですよ。僕の今の到達階層を50階層で止めてるので」
「ん? どういう事や?」
大樹さんが疑問符を浮かべたので説明する。
「この1ヵ月で僕は何度か1階層から一人で攻略してました。それで、ダンジョンを再度1階層から進んだ場合は到達階層はリセットされるようで、再度到達した階層が最終階層って事になるみたいなんです。だから、僕の今の到達階層は50階層になります」
「そんなルールがあるんか。今まで1階層から再度攻略した事はなかったからな」
僕の意見に納得した兼次さんは周りに指示を出す。
「じゃあ、俊について行くで」
全員が頷き、僕を先頭にゲートに足を進める。
ゲートを通る時は一番到達階層が低い冒険者に合わせた階層に転送される。
だから、50階層のゲートに転送した僕達は、50階層の出口から入り49階層に一度戻る。そして、階段を下りて再度50階層の扉の前に立った。
「さっき話してた通りワイバーンと戦うのは真由以外や。役割は各自変わらへんけど真由の援護がない事を加味して動くこと」
「「了解」」
「じゃあ、行くで」
そして兼次さんが扉を開けた。
ボス部屋の中心にはいつも通りワイバーンが陣取っていた。
さっき通った時はいなかったが入り口の扉から入るといるのはいつ見ても違和感しかない。
そんな事を思っていると兼次さんが指示を出した。
「いつも通りや。大樹、彰、美優行くで! 俊は牽制しながら接近戦も参加、小百合は牽制。佑は支援魔法や。真由がいないからダメージソースは彰中心でいくで!」
「「了解!」」
次の瞬間、ワイバーンの咆哮がボス部屋に響き渡った。
しかし咆哮を全員が耐えきる。初見の時は桐島君が落ちていたが耐えている。他のメンバーも何も気にしていないように武器を構える。
そして咆哮が終わるまでに桐島君が全員に支援魔法をかけた。そのタイミングで小百合さんが弓をひき、僕が魔法を練る。その間に兼次さん達がワイバーンに向かって走った。河合さんは少し後ろで僕達の行動を見守っている。
「『ファイア・ボール』!」
「パワーシュート!」
ワイバーンに当たる距離まで僕達も進み攻撃を仕掛ける。それが合図となったのかワイバーンも攻撃態勢に入る。
「小百合さん、僕も前に行くんで」
「わかったわ。気を付けて」
僕もワイバーンに接近する。しかし距離は開けて近接戦闘はしないようにあくまでも魔法での牽制とサポートができる位置で魔法を放つ。もしもの時にすぐにカバーできる位置に居ればワイバーンも僕を警戒する。
ちなみに、今回のワイバーンに効く属性は風だった。
兼次さんと大樹さんが攻撃を受け、その隙を彰さんと美優さんが攻撃する。少し危ない所があれば僕が少し大きめの魔法で牽制して、常に小百合さんが矢で牽制しているからワイバーンも動きにくくなっている。味方が攻撃を食らえば桐島君が回復させる。
連携としては悪くはない。
悪くはないが……今までと変わらない。
「おい! 奥山! お前も剣で攻めろ!」
「はい」
彰さんに言われてワイバーンの隙を狙い斬撃を食らわせる。そして距離を開ける。攻撃をしたら下がり魔法で牽制する感じだ。それでもワイバーンにの隙が大きくなり、そこを追撃する事はできる。しかしその隙は誰も追撃しない。ならと、次は動きを鈍くするために足や翼を重点的に攻撃する。すると予想通りワイバーンの動きが鈍くなる。しかし僕が攻撃するだろうタイミングより少し遅く彰さんと美優さんの攻撃が入る。ワンテンポ遅いとクリーンヒットする攻撃も通常の攻撃に変わる。
それでもワイバーンにはダメージが積み重なり、体力が減っているのがわかる。
しかしそれは今まで通りの流れだ。連携としては初見の時よりも上手になっている。ダメージを与えるスピードも少しは上がっている。
「来るでっ!!」
兼次さんが叫ぶ。その直後ワイバーンを中心に暴風が吹き荒れた。
ある程度のダメージがワイバーンに入ると、魔法を使い近くにいるメンバーを巻き上げる風が吹き荒れる。これは前回もあった攻撃だ。しかしそれもそれぞれが耐えきっている。
でもそれは一度戦った相手にならできるだろう範囲内だ。わかっていたら耐えられる。
するとこれをタイミングと見た兼次さんが指示を出した。
「みんな! 一旦下がるで!」
「「はい!」」
「俊、頼む!」
「はい! 『ウィンド・ストーム』!」
兼次さんの指示で僕が魔法を放ち、下がる隙を生み出す。そしてワイバーンから距離を開けた僕達は各自ポーション等に手をかけた。
すると彰さんが僕を睨んだ。
「おい、奥山! お前手を抜いてるのか! もっと動けよっ!」
とうとう僕の行動に苛立ちを見せたのだ。しかし僕はそれを頭から否定する。
「当たり前です。僕は今回サポートしかする気がありませんから」
「はぁっ? どういうことだ!」
「そのままの意味です。僕がメインで戦わなくてもサポートだけでワイバーンを倒せなければ51階層以降は厳しいでしょ。それに彰さん達もこの1ヵ月訓練して強くなってるはずです。それぐらいできないと厳しいですよ」
「それだったら先に言っとけ! お前が動ける前提で俺らも動いてるんだぞ!」
「いや、僕は十分動いてますよ。牽制してワイバーンの動きを抑えてますし、彰さん達が攻撃できる隙を作ってます。今回のダメージソースは彰さんですから、彰さんの攻撃を食らわせやすいようにしてるつもりですが」
「は? 何言ってるんだよ。少しは俺が動きやすいようになってるかもしれないが、それだけだぞ? 俺は俺が攻撃できるタイミングで動いている。お前の言う隙ってのがわからないんだが?」
……まじか。それって自分の目の前の事しか見えてないって事なんじゃないのか? 一瞬ワイバーンが止まった理由はなんだと思ってたんだ?
「……まあ、いいです。でも今回は、僕はワイバーンに大ダメージを与えるつもりはありません。サポートのみですのでよろしくお願いします」
「おい、ちょっと待て! だったら俺らだけであいつにダメージを与えろって事か!?」
「そう言う事です」
しかし次の瞬間、彰さんが耳を疑う事を言った。
「だったら俺らはワイバーンに負けるぞっ!」
「……っ」
彰さんのその一言で僕は悟った。この人とは一緒にパーティを組めないと。
今の時点で諦めてる意味がわからない。まだ戦闘は始まって数分だ。ピンチにすらなっていない。それなのにこの人は僕抜きでは勝てないと諦めてしまってるのだ。
「……兼次さん、そうなんですか?」
「いや、俺らは訓練して強くなってるはずや。彰、お前……俊が戦わへんかったら諦めるんか?」
「違う。俺は安全マージンを取るなら、奥山がいないとあいつに勝ちにくくなって、負ける可能性があるって事だ。元々訓練を奥山もダメージソースの前提でしてただろ? だから狂うだろって事だ」
「……そう言う事や、俊。彰の言い方は俊には理解できひんかもしれへんけど、諦めてるわけやない」
「……そうですか」
兼次さんはそう言った。でも僕からすると「負ける」と言う言葉が口に出た時点で諦める選択肢を持ったって事だ。一度は自分達で倒した相手にだ。初見や自分より強い相手ではなく、一度倒した相手にだ。
その時点で僕とは見てる世界が違う。
「彰、俊の言う通り俺らだけで倒せないとダメだろ。それぐらいできないと、俊の強さにはついて行けないって……」
「それがおかしいだろ! パーティなら周りに合わせて動く。先に進むことは大いに結構だ。でも足並みを揃えて進む方がいいだろ! 俺らは訓練して前より強くなってる。俺は死なないように進む方がいいと、冒険はするべきじゃないって言ってるんだよ」
大樹さんが彰さんに注意するが、彰さんはそれを否定する。
彰さんの意見もわかる。足並み揃えるのがパーティだ。でもそのままなら僕が後ろに下がらないといけない。歩くだけじゃダメだ。前に走る気持ちがないなら僕に追いつけない。
「彰、俊くんとパーティ組むって話したでしょ? だったら彰も俊くんに合わせるようにするべきだと思うわ。美優ちゃんもそう思うでしょ?」
「私は、アキ君がどうするかで動こうって思ってるから」
「そんなこと話してる間に、ワイバーンが向かってきますよ!」
問答をしていると、桐島君がワイバーンの動きを見て叫ぶ。その時点でワイバーンがこっちに向かって突進する体制を取っていた。
ああ、そっか。そういうものなんだな……。
彰さん達の問答で自分の考えが決まってしまった。
「大樹! 構えろ! 迎え撃つで!」
「ああっ!」
兼次さんと大樹さんが前に出て盾を構える。
しかし、
「もういいです。兼次さん、大樹さん。僕がやります」
「俊っ?」
僕はその横を通り過ぎて二人の前に立った。
そして剣を突進してくるワイバーンに向けて構える。
「『ファイアーキャノン』10連」
その瞬間僕の周りに展開された火球がワイバーンに向かって一直線に発射された。顔面に火球を受けたワイバーンは唸りながら勢いを落とす。
そして僕は剣を振り上げる。
「スラッシュ、パリィ!」
その一撃はワイバーンの牙に当たったと同時に牙を砕きながらワイバーンを吹き飛ばした。




