閑話-下「九条に断られた自衛隊」
「なるほど、姫宮さんに聞けばいいのか」
「一緒に討伐してるから情報を持ってるだろうからな」
「じゃあ、早速行きましょう。女子同士の方が話しやすいかもしれないんで、私と未玖で行きます」
「おう、そうしてくれ」
優希菜と美玖が立ち上がり、姫宮杏子さんの方に向かって歩いて行った。
その3人を俺達はここから様子を見る。
カウンターで話し終わった姫宮杏子さんに声をかけた二人は何か楽しそうに話し始めた。そして場所を移し、4人掛けテーブルがある場所に移動する。そして優希菜が俺達を手招きした。
「呼んでるみたいですね」
「行くか」
俺達は優希菜達の元に向かう。
椅子に座っている幼く見える女性は、ロリータファッションをしていることでより幼く見える。どう見てもダンジョンで戦うような見た目じゃなくて、守られる側だ。しかし、この人物が魔導士としては遥に強いらしい。
「こんにちは、あなた達前にわたしをヘッドハンティングしに来た自衛隊の人達だよね? どうしたの? 話って?」
姫宮さんがニコリと笑いながら聞いてくる。
本当にこの人が強いのかは今の状況ではわからないが、少なくとも座っているだけでも隙が無い。
「お久しぶりです。前に誘いに来ました、自衛隊の天宮です。今日は少しお聞きしたいことがありまして、少し時間を頂いてよろしいですか?」
「いいよいいよ。なんでも聞いて」
意外とフレンドリーな方だな。前に断られた時は俺はその場にいなかったけど、今見た印象はいい。
「なら、遠慮なく。先日『暴虐の鬼王』を倒したと聞きました。おめでとうございます」
「ありがと」
「それで、その時に一緒に居た奥山俊って方の事を聞きたいんですけど」
そう天宮先輩が確認した瞬間、姫宮さんの目つきが変わった。
「……次はしゅんしゅんを引き抜きに来たの?」
それは静かな怒りの様に見えた。一瞬でその場の空気がピリつく。
「ま、まだ引き抜きという訳ではないですが、話を聞きたくてですね。どのような人物なのかを」
「それ、わたしに聞く必要ないよね? ギルド職員に聞けばわかるんじゃないの? まあ、シルシルは話さなかったと思うけど」
さっきまでとは裏腹に敵対するような目つきだ。奥山俊の名前を出しただけでそうなるのか。幸一さんもそうだったが、その奥山俊はどんな人物なんだ。
「……そのシルシルさんはわかりませんが、職員の方は教えてくれませんでしたね。それに他の冒険者からの情報もあまりなくて。それで知り合いである姫宮さんにお聞きできればと思っていまして」
「わたしからは何も話すことはないよ。しゅんんしゅんはね、今大変な時期だから、あまり関わらないでほしいんだよね」
「それはどういう意味ですか?」
「そのままの意味だけど? あなた達は知る必要ないから言わないけど」
その言葉に緊張が走る。
その空気に未玖が一歩前に出ようとして優希菜が止める。
しかし思っても見なかった勇斗が声を上げた。
「ちょっと待ってください! 姫宮さん、どうしてそこまで奥山さんの事で苛立ってるんですか? 僕達は奥山さんと話したいだけなんです」
「おい、勇斗」
「だからなに? あなた達の勝手で、今の大変な時期のしゅんしゅんに会わせる気なんてないんだけど? それに話ってやっぱり引き抜きの話だよね? あなた達からの誘いを断ったわたしに中継ぎをしてってどういうこと?」
かなり姫宮さんからすると俺達の印象が悪い。前回に何か悪い事をしたのだろうか。ここまで敵対する必要な無いと思うんだけど。
「姫宮さんそう言うわけじゃないですよ。私達は話を聞きたいだけで……」
「引き抜きに決まってるでしょ? 私達も先に進むために必死なのよ。あなたがメンバーにならないから別の人を誘って増強する為でしょ。それに私達の方が年上でしょ? 敬語を使った方がいいわよ」
「ちょっと、未玖!」
優希菜が未玖の首根っこを掴んで後ろに下げる。
「すみません、うちの部下が失礼な事を。ですが、部下が言った通り私達もダンジョンを攻略する使命がありまして、どうしても戦力の増強が必要でして」
「やっぱりそうだよね。誘う気だね。でも残念だけど、しゅんしゅんがあなた達について行くことはないから」
「すみません、姫宮さん。どうして、ここまで僕達に嫌悪を見せるのですか? 僕達なにもしていませんよね」
「うん、あなた達は何もしてない。でも、わたしがあまり好きじゃないだけって理由。それにしゅんしゅんにちょっかいをかけてほしくないだけ」
「ちょっかいって、それは違うんじゃないっすか?」
「マル!」
「流石にここまで言われる筋合いはないっすよ。未玖じゃないっすけど、俺だってこのチームは誇りっすから。ちょっかいって言葉は訂正してほしいっす」
「ちょっかいはちょっかいでしょ? わたしより弱いくせになにいびってるの?」
その瞬間、俺と天宮先輩以外の空気が変わった。
「あなたより弱いってどういうこと? 私達の実力も知らないでしょ?」
「そうっすよ! 弱いは違うんじゃないっすか?」
「今の言葉は私も黙っておけないわね」
「おい! お前ら!」
未玖とマルに優希菜まで加わって姫宮さんを攻める。
こいつら強い弱いに敏感だからな。優希菜まで頭に血が昇ってる。とにかく抑えるか。
「優希菜! お前までなに怒ってるんだよ」
「何って、馬鹿にされて怒らないわけないでしょ? 流石に私達を馬鹿にされて黙っておけないでしょ?」
「ただ弱いって言われただけだろ?」
「私一人ならいいけど、チームのみんなの事を言われるのは許せないわ!」
「そうっすよ! 相良さんは何も思わないんすか!」
「いや、弱いのは事実だろ。俺らはまだまだ強くなれるからな」
「そういう事じゃ無いでしょ! 相良さんは視点がずれてます! 私達がこの子より弱いわけないでしょ!」
未玖が姫宮さんを見る。すると姫宮さんは笑った。
「じゃあ、わたしと戦ってみる? 全員でかかってきてもわたし負けないよ?」
その言葉に3人のスイッチが入った。
「じゃあ、やりましょうよ!」
「俺達の力見せつけてやるっすよ!」
「そうね。その喧嘩買ってやるわよ」
「おい、お前ら! 姫宮さんも、煽らないでください!」
「別に煽ってないけど? 事実を言っただけなんだけど?」
姫宮さんの言葉に余計3人が声を上げた。
そして姫宮さんが手を叩いた。
「じゃあ、訓練所に行こっか」
俺達は訓練所に向かった。
ここまでテンションが上がった3人を抑えるつもりはない。煽った責任は姫宮さんに取ってもらったらいいだろう。
姫宮さんがギルドに許可を得ていたのかすんなりと訓練所に俺達は入ることができた。
「あれ? 杏子? どうした?」
すると見た事がある人物が杏子さんに声をかけた。
いや、見た事があるってだけじゃない。それもさっき話していた変な人、チームに誘った事がある『九条新』さんだ。
どうして九条さんがここに?
「あっ、あらあらだ。訓練してたの?」
「ちょとな。で、お前はどうした? そんな引き連れて……って、自衛隊のやつらじゃん」
俺らを見て九条さんが目を細める。
「ちょっとね。この人達がわたしと戦いたいんだって」
「あー、なるほどね。また挑発したのかよ。お前もモノ好きだな」
「してないんだけどなー」
また? 姫宮さんは前にもこんな事してたのか? どうしてだ?
「6体1か。オレも参戦しようか? 流石にお前でも60階層超えてるやつらを相手には少しきついだろ」
「うーん。別に大丈夫だと思うけど、あらあらがいるほうが面白いかもね。自衛隊の人達、どうする? あらあらも参加したいって言ってるけど?」
その提案に未玖達は余計挑発と思ったのか、
「いいですよ? 何人来ても私達は戦えますから!」
「いいっすよ! 俺達の力見せてやるっすよ!」
姫宮さんの言葉に了承した。しかし、さっきまで一緒に盛り上がってた優希菜は一歩引いて見ていた。
「ちょっとこれはあれだよね……何かおかしい」
その呟きに俺は何も反応しない。
俺も思ってた事だ。もしかすると何かあるのかもしれない。
「じゃあ、6体2でやろっか」
そして俺達は模擬戦の形式で対峙し合った。ルールは時間制限ありのどちらかのメンバーの一人でも戦闘不能になったら負け。少々の怪我は大丈夫なルールだ。
俺達はそれぞれいつもの配置につき、武器を構える。それに対して、姫宮さんは無手で九条さんは短剣を2本構えた。
そして天宮先輩が声を上げた。
「はじめっ!」
その瞬間、九条さんが走り出した。
「加速、瞬動」
そのスピードはすさまじく、一瞬で天宮先輩とマルの目の前に現れる。そして攻撃をする振りをしてフェイントで未玖の前に迫った。
見えてる。2つのスキルの使用は驚いたけど、これなら俺でも見れる。
「舐めないで!」
未玖も見えていたのか槍を突き出す。しかしそれは空を切った。
これは『転舞』スキルか。双剣の回避特価のスキル。九条さんは短剣使いじゃないのか?
でもこれは……九条さんの狙いは優希菜と勇斗か!
「勇斗! 優希菜!」
俺は振り向く。しかしその勇斗から声が上がる。
「違う! 相良さん!!」
その瞬間俺の腹部に衝撃が走り吹き飛ばされた。
「ぐっ……」
まさか俺か。
飛ばされながらみんなの様子を見る。すると魔法が降り注がれる瞬間だった。
「『プラュイ・ド・フレイム』」
姫宮さんから発射された炎の塊が降り注がれる。
「優希菜!」
「はいっ! 『ウォータープリズンシールド』!」
水の壁が半円上に優希菜達を囲み、降り注がれる炎の塊を相殺していく。弾かれた炎の塊がシールドの周りに落ち、地面を削る。
「重っ!? でも、耐えきれる!」
その言葉の通り、優希菜は耐えきり、自分が守った場所だけが無傷で残った。
「へー、思ってるよりやるね」
「おいおい、杏子。オレも巻き込まれるだろ」
「あっ、お帰りー。あれぐらい、あらあらなら大丈夫でしょ? あんなのも避けられないはずないもん」
「そりゃオレなら避けられるけどさー」
いつの間にか姫宮さんの隣に戻っていた九条さんが、笑いながら話していた。
その様子を見ながら俺はみんなと合流する。
「やばいっすね。何もできなかったっす」
「いや、仕方ない。九条さんの役割は撹乱だ。だから俺もあの人を仲間に入れようとしたからな」
「相良、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「相良さんが吹き飛ばされるとは……」
「相良さん、よそ見してました?」
「余所見っていうか、みんなを見てしまってた。ごめん」
「いや、一瞬で抜かれた俺らが悪い。次はこっちから攻めるぞ!」
「「はい!」」
そして優希菜が魔法を構築し始める。先ほど姫宮さんが放ってきた魔法と同じように数十個の炎の塊が頭の上に浮かぶ。
「『フレイム・レイン』! ……っ!?」
しかしそれは、いつの間にか放たれていた姫宮さんの数十個の水魔法で相殺されてしまった。
「遅いよー。もっと魔法は早くしないとね」
「じゃあ、もう一回こっちから攻めるか」
そして九条さんが走り出した。
◇
「これが俺達の今の実力ってことですね」
模擬戦が終わり、その場に息を上げたみんなが横たわっている。地面は所々が陥没しており、見るも無残な状況だ。そしてすでに二人は訓練場から姿を消していた。
終始姫宮さんと九条さんの連携に俺達はかき乱され対応が取り切れなかった。
「俺達がまだまだ弱いって証明されたな」
「はい。俺達はまだまだ弱いです」
立っていられたのは俺と天宮先輩だけ。
「だからまだまだ強くなれます!」
「そうだな」
天宮先輩が俺の肩を叩く。
もっと強くなろう。
それとずっと疑問に思ってた事を天宮先輩に確認する。
「天宮先輩、あの姫宮さんって、わざと俺達を煽ってましたよね?」
「……気づいてたか、相良」
「流石にあの豹変ぶりは。何か理由があったんですか?」
「それは俺にもわからんけどな。あの二人が知り合いってのも知らなかったが、両方とも変人だからな」
「ははっ、そうですね」
「でも少なくともあいつらのケツには火が付いただろ。あれだけの手練れが俺らより後ろにいるんだ。追いかけられると言うよりかは走って越えられるって思ったね。でもそんな人物が後ろにいるってのは、俺らにとってもメリットな事だ。発破をかけてくれるってな」
「なるほど。そうですね。だったら姫宮さんもそれがわかっててそうしたんですかね?」
「実際の理由は知らんけどな。もしかしたら本気で煽ってたかもしれんし」
「それはたぶんないですよ」
俺にはわかる。姫宮さんも九条さんも強くなることだけと目的としている。
「なんだ、変人どうしわかり合えるのか」
「ちょっ! 天宮先輩!?」
そう言った天宮先輩は大きな声で笑っていた。
これで6章閑話も終了です。
次回から7章が始まります。
次回の更新は1月5日(月)です。
更新時間を変更いたします。次回更新より、18時~21時の間に更新する事になります。
よろしくお願いいたします。




