閑話-上「九条に断られた自衛隊」
自衛隊の伊藤相良視点の話です。
「相良さん、この話知ってますか?」
「ん? 何の話だ?」
食堂で俺が昼食をとっていると、勇斗が隣に座りながら俺に話しかけてきた。
「またあの奥山って人がやったらしいですよ」
「奥山って今引き抜きを検討している人だろ? やらかしたってどいうことだ?」
「また、ネームドの討伐ですよ」
「へー、ネームドの討伐かー」
「ネームドって言っても『暴虐の鬼王』だぞ」
天宮先輩が対面に座りながら言った言葉に僕は驚いた。
「えっ? 『暴虐の鬼王』をですか? あの50階層以降に出る、あのネームドですか?」
「そうそう。その階層に似合わないレベルのネームドな」
「僕達もかなり苦戦した末、倒すことができませんでしたからね。それに何度か討伐依頼も受けましたけど、遭遇すらできなかったあれです」
「凄いな、その人」
俺にとっても『暴虐の鬼王』は手ごわい相手だった。その前の50階層のボスだったワイバーンよりも小さいのに内包しているパワーは上だと言う事実に驚いていた事を覚えている。
「尚更その人をチームに入れないとダメですね」
「そうだな」
「でも、その人が一人で『暴虐の鬼王』を倒したんですか?」
「いや、2人でらしい」
「2人でって、それでも凄いですけど。そのもう一人がレベル高いんですか?」
「ああ、もう一人は姫宮杏子。俺らも声かけたけど断られた女性だ」
「……あのロリータファッションの」
あれは衝撃的だった。俺らよりもこのダンジョンに潜るのは早かったのにまだ60階層まで進んでいない変な女の子。特にダンジョンで戦うのにあのファッションは驚いた。あれでしっかり動けているんだからそれも凄い。
「たぶんだが、姫宮杏子が奥山俊を囮として使って倒したんだろう。だが、それでも2人であいつを倒したのはかなり凄いことだぞ」
「ですね。十分にすごいですね」
「勇斗は余計そう思うよな。あいつのプレッシャーに負けてたもんな」
そう俺が軽く冗談のつもりで言うと、勇斗がムッと顔を俺に向ける。
「それはもう過ぎた事です。今ならビビる事なんてありませんよ。絶対倒せます」
「ごめんごめん。冗談のつもりだったんだ許してくれって。でも、勇斗の言う通り、俺らもあの頃より強くなった」
「はい。もう僕達は63階層まで来ました。65階層も見えてきましたからね。レベルも上がりましたから」
勇斗の言葉に天宮先輩が拳を握る。
「この調子なら俺らはもっと強くなれる。けど、やはりもっと先に進むには新しいメンバーを追加した方がいいのは事実だ」
「ですね。相良さんもそう思いますよね」
「そうだな。俺もそう思う。今の話を聞いたら余計奥山俊さんをチームに入れないといけないと思う」
「ああ。奥山俊を入れたら俺らも飛躍的にレベルが上がるだろう。まだ50階層付近の時点で60階層のモンスターと渡り合える実力を持ってると言って過言ではない。それに東京のダンジョンの方も今難航しているみたいだからな。もしかするとあっちよりもアドバンテージが取れる可能性もある」
「だったら僕達の評価上がりますね」
「そうだな。評価が上がれば余計行動しやすくなる。上げたいところだ」
その話を聞いて少し疑問に思った事があった。
「じゃあ、奥山俊さんって今レベルなんなんですかね。『暴虐の鬼王』と渡り合ったって言えば、50レベルはいってますよね?」
大丈夫だろうが、この短期間で0階層を到達しているんだ。もしかするとも考えられる。レベルが近くなければ俺達のパーティに入っても合わなだろう。
「だろうな。じゃないと、そこまで戦えないだろ。俺らも平均で60レベルだ。実質60階層レベルの『暴虐の鬼王』を倒した実力なら最低でもそれぐらいは無いと無理だろ」
「てことは、今頃55階層は超えてますよね?」
「多分な。じゃなないと『暴虐の鬼王』が出てこないだろ。俺らが遭遇したのは57階層だったはずだ」
「そうでしたね。60階層を超えてからダンジョンのレベルが大幅に変わって時間も忙しく過ぎてるので、だいぶ前の記憶みたいに感じますけどね」
61階層からまだ3階層しか進んでいないのに、この期間はとても濃密だった。
「この2か月ちょっとで55階層に到達って言ってたら本当にすごいなそいつ。俺らはどうやったっけ?」
「僕達は半年ちょっとかかってました。それも東京ダンジョンでアドバンテージがあってです。だから僕からしても奥山俊って人はやばいですね」
「じゃあ、明日も気張って探すしかないな。どんな屈強な人なんだろうな?」
「そんなイメージじゃないらしいぞ? 少なくとも巨大ではないらしい」
「なんか想像つきにくいですね」
奥山俊って人と早く会ってみたい。そして実力を見てみたい。どれだけ強いのか、試してみたい気持ちがある。
あれ? でも誘ってもすんなりパーティに入ってくれるのか?
「でも確か前に幸一さんが別の人達とパーティを組んでるって言ってましたよね? 今の話じゃ、奥山俊さんは姫宮さんとパーティを組んだって事ですか?」
「いや、どうなんだろうな? そこまで正しい情報は知らないからな。思ったより情報が少ないんだ。周りの冒険者からすると、パーティに誘う前に一気に駆け上がっていったから声をかけられなかったって言ってたぞ。でも、その中村君が言ってたパーティに一度聞いてみるのもありだろうな」
「じゃあ、そのパーティも聞き込みしてみましょうか」
天宮先輩と勇斗が明日の方針を相談し始める。
「でも、もし姫宮さんとパーティを組んでたら僕達も誘える可能性はありますよ。この短期間にパーティを2か所も変えてるならあまりこだわりがないんじゃないですか? 例えば先に進めたらどこでもいいって気持ちが大きいとか?」
「俺もその可能性があると思ってるんだけどな。じゃないと、誘っても断られるだろうからな」
「ですよね。あとは、僕達のパーティの魅力と自衛隊という国の為の部分を押すかですね」
だろうな。勇斗の意見は一理ある。自衛隊は国と国民の為に動いている。俺らがこのダンジョンにいる理由はダンジョンの内部を調べる事で、外にいる国民に危険はないのか、不利益にならないかだ。もし危険があるなら早急に攻略してこのダンジョンを消さなければならない。
しかしそれも実際は難しい。東京ダンジョンも大阪ダンジョンよりも1年早く出現して攻略を開始しているがまだ100階層には到達していない。60階層以降が圧倒的に難しくなっている。
「俺としては幸一さんみたいに、日本人なら国や国民の為に動いてくれると信じてるけどな」
「相良はそうだろうな。でも、人それぞれだからな」
「もちろん。強制はしませんよ。だったらいいなと思ってるだけです」
「それならいい」
そんな話をしながら俺達は昼食を終える。
「天宮先輩、今日はこれからどうするんですか?」
「今日は午後はオフだろ? 会議もないし、お前らと一緒で何もすることないぞ?」
「でしたら、訓練付き合ってもらえますか?」
「おういいぞ。生身の肉体の強さはダンジョンで重要だからな。生身を鍛えたら相乗効果でダンジョンでも強くなれる」
「ですね。勇斗もくるか?」
「……僕は、ちょっと情報を整理したいと思ってまして。マルを呼びましょうか?」
「そうだな。あいつも呼ぶか」
「強制ですね」
さて、自分を鍛えるために訓練をするか。
◇
翌日、昨日の考えの通り、俺達はギルドで奥山俊を探していた。ギルドで確認するとまだ今日は見ていないと言っていたので、とにかく待つことにする。奥山俊さんの担当がいなかったのでその情報も本当かどうかわからないが、俺達は待つしかない。
「今週はこうやって探せるけど、来週からは攻略に戻るからな。上がうるさい」
「了解です」
今まで平日のみダンジョンに潜っていたが、今回は土日も潜る事にした。どこからかの情報で奥山俊さんは土日しかダンジョンに来てないらしい。そう考えると、社会人で仕事をしながらダンジョン攻略をしているのだろう。
「土日だけの攻略で『暴虐の鬼王』の討伐ってやばいですね」
「凄いよね」
隣に座っている未玖と優希菜が話している。
そう言われたらそうかもしれないな。圧倒的にダンジョンにいる時間が少ない。
「いや、同じように土日だけで攻略していった冒険者もいるからな。今は毎日潜ってるみたいだけどな」
「へー、そんな人もいるんですね」
「いや、前にパーティに誘った冒険者もそうだっただろ? 覚えてないか、九条って男性だ。短剣を使ってる冒険者」
「あー、居ましたね」
「えっ、あの人もそうだったんですか?」
「そうだったぞ」
過去に俺達と同レベル帯の冒険者に声をかけた事があった。40レベルの時にパーティに誘ったが、断られた人物だ。一度攻略を一緒にと話して目的階層を数分進んだら、何か嫌だったのかすぐに帰った変な人だ。
「あの人は変な人でしたね」
「まあ、ずっとソロでいる奴だからな。今60階層を超えずにこの付近にいる冒険者は変な奴が多いぞ。まあ、パーティってのはお互い支え合う存在だからな。今思えば断られて正解だったかもしれん」
「でも、撹乱役としてはいたほうが良かったかもしれないですけどね」
優希菜があの人の有用性を指摘する。
「撹乱役って言ってもうちには天宮先輩とマルがいるから前衛は十分機能するだろ」
「そうだけど、2人の負担を減らす役割ができる人が1人いるとかなり楽になるでしょ? そうですよね、隊長」
「そうだな。オールラウンダーがいれば話は別だが、今のうちには撹乱役かオールラウンダーが欲しいな」
「なるほど」
「言ったでしょ? 私は間違ってないんだから。相良ももう少し考えたらもっと良くなると思うんだけどね」
「いや、相良さんはそのままでいいですよ」
すると外にいたはずの勇斗も話に入ってきた。
「ワイバーン戦を思い出してください。ただのテレビの情報に左右されるような人ですよ? この人は考えずに自分の思うままに動けばいいんですよ」
「おい、勇斗!」
なんかボロクソ言われた気がしてツッコミを入れてみるがスルーされる。勇斗の言っている事は一理あるけどさ。
「私としてもこのままの方がいいですよ。相良さんは単純なので合わせやすいんで。考えてややこしくされない方がいいです」
「おい、未玖!」
未玖お前もか!
「ってことで満場一致で相良はこのままってことで」
「「異議なし」」
「いやいや、話の趣旨ずれてますよっ! あの人が変な人って話だっただろ!」
「変な人って言えば相良さんもすよ?」
外を見ていたマルも戻ってきて俺達の前に立って、俺の事をいじり始めた。
「いや、俺は変じゃないだろ?」
「「いや、変だろ!」」
「えっ!?」
心外だ。少しは変化もしれないが、目の前に困っている人がいたら助けるし、自分を犠牲にして周りの為に動くし、そんな事当たり前だろう。
「今考えてた事、普通は変なんだよ相良……」
優希菜が残念そうに苦笑いをする。
「まあ、お前のいいところがそれだから。お前はブレずにそのまままっすぐでいてくれ」
しかし天宮先輩は笑って俺の肩を叩いた。
「もし、その奥山俊って人が入るなら、変な人じゃない事を祈りたいわ。これ以上変な人が増えると大変だもの」
「優希菜さんも十分変ですけどね?」
「美玖っ!?」
美玖の言葉に笑いが起こる。
「で、勇斗とマル。どうした? 戻ってきて」
「あっ、そうでした。今奥山俊さんの情報を持ってる人を見かけたので、隊長達を呼びに来たんですよ」
「それを早く言え!」
「すみません。なんか楽しそうな話をしていたので」
勇斗がバツが悪そうに苦笑いをする。そして後ろを指差した。
「今カウンターで職員と話している人です」
そう言われて俺達はそのカウンターを見る。
するとそこには、見た事がある、見たら必ず印象に残るロリータファッションをした人物。
「姫宮杏子さんがいたので、聞きに行きませんか?」
勇斗がそう言った。
あと1話続きます。
次の更新は2025年ラスト、12月30日(火)です。




