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現代にダンジョンができたら潜りますか?〜私は今の仕事にしています〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第6章「自分が強くなったという自負」

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閑話「八人のこれからを思って」

まゆ視点の話です。



「……っ!?」


 奥山君の声に反応して、すぐに後ろを見る。すると、そこには今までに見た事のないモンスターが立っていた。それは奥山君と対峙しているが、一瞬にして奥山君の横を通り抜けた。そしてすぐに出た兼次さんの横も通り過ぎ、私の目の前に立った。

 そのモンスターを見てからたったの数秒。


 そいつは私の目の前で太刀を構えた。


 でも私はその行動に反応できなかった。


 だから……


「えっ……ごほっ……」


 吐血した。

 目の前に滴る鮮血。腹部に刺さっている太刀から赤い血が流れているのを見て目の前が真っ白になる。


 誰かが叫んでいる声がする。


 徐々に声が遠くなってくる。


 そして剣が抜かれた反動で私は後ろに倒れた。


 その瞬間……意識を失った。







 暗い意識の中で私は誰かに運ばれている様な感覚があった。一瞬だけど大きな強い光に照らされ、心地よい風が吹いたような感覚もあった。でもその後はずっと暗闇の中。

 でも、そんな暗闇の中、眩しい光が差し込み……目を開けた。


「……」


 開けた目に飛び込んできたのは、知らない天井だ。

 家でもないし、会社でもない。なぜこんな所で寝ていたのだろうと天井を見ていると隣で声が聞こえた。


「あっ、河合さん! 起きた?」


 その声の方向を見ると、奥山君が私の顔を見て安心したような表情をしていた。


「……あれ、奥山君……? ここは……?」


「ギルドの中だよ」


「ギルド? ……なんで?」


 寝ころびながらキョロキョロと見渡して状況を確認する。

 何と言うか、病院の様な感じだけど少し違う……あれ? ギルドの中?

 まだ頭の中がこんがらがってる。


 すると奥山君が説明してくれた。


「52階層で鬼……『暴虐の鬼王』が出てきて、河合さんは刺されて瀕死の状態だったんだ。それで回復させるためにギルドに戻って来た」


 あっ……そっか!


「そうだった! 私刺されてそれでむちゃくちゃ痛くて……でも、今は……」


 そして刺された場所を手で確かめた。

 傷がない。でもギルドの中にいる。と言う事は、


「傷が無い。生きてたんだ、私……」


「うん。たまたま杏子さんが近くにいて直してくれたんだよ」


「杏子さんが! 今、杏子さんはどこに……っ!?」


 と体と起こそうとして胸に走った痛みに手を当てる。


「いたっ……」


「大丈夫? 回復したって言っても回復後は痛いのは残ってるから、まだじっとしてた方がいいよ。ダンジョンを出るまではその痛みと戦わないといけないけど」


「そうだね。ふぅ……大丈夫だよ」


 深呼吸をしながら体を起き上がらせて私は軽く笑った。

 回復魔法で回復しても痛みは残る。魔法は強制的に回復させるだけだから、痛みまでは軽減してくれるわけではない。

 すると奥山君は微笑みながらさっきの質問を答えてくれた。


「杏子さんは外で待ってるよ。兼次さん達もいるから後で呼んでくるね。今は丁度小百合さんと交代したばかりだったから。でも、河合さんが起きてくれてよかった」


「なんか、心配かけちゃったね」


 私も奥山君に笑いかける。

 あの状況から助かったのは奥山君やパーティメンバーが助けてくれたおかげだろう。人一人抱えてあの鬼から逃げ切るのは至難の業だと思う。冒険者の体でも重い荷物を持っては難しいだろうから。

 そう思っていると奥山君はなぜか負い目を感じている様に悔しそうに言った。


「うん。でも全部僕が弱かったから。いの一番に『暴虐の鬼王』に気付いたのに何もできずに、河合さんに攻撃させてしまったから。それだけ後悔してる」


 何を言っているんだろう?


「いやいや、それは私が弱かったからでしょ。奥山君が気にする事じゃなくない?」


「それでも、僕が対応できなかったのは、自分を許せない」


「……そっか」


 沈黙が流れる。

 奥山君は責任を感じすぎだ。自分だけの問題じゃないと思うのに、なぜか自分が悪いと思っている。会社でもそうだ。元々一人で抱えようとするから大胆に動く事が出来ない。だから、細心の注意を払いすぎて行動が遅くなる。最近は大分変わったと思っていたのに、根本的な事は変わらないのだろうか。

 でも、それを今本人に言っても理解されないと思う。


 だから、話を変えるために奥山君に質問した。


「それで、その『暴虐の鬼王』はどうなったの?」


 その質問で奥山君は自分の考えも含めて話してくれた。







「まゆちゃん! 大丈夫っ!!」


「河合さん! 大丈夫ですか!」


 奥山君が出てから数秒後、みんなが駆けつけてくれた。

 まず小百合さんと桐島君が入ってきて、その後ろから大樹さん、彰さん、美優さんが来た。そして少し遅れてから兼次さんと杏子さんも入ってきた。


「おかげさまで、大丈夫です。痛みはありますが、傷もなくなりましたし」


 そして全員の顔を見て頭を下げた。


「皆さんありがとうございました。大変迷惑をかけてすみません。私がまだダンジョンに入れるのは皆さんが助けてくれたおかげです。ありがとうございました」


「謝らなくていいよまゆちゃん。ここまで連れて来たのは大樹だけど、ほとんど助けてくれたのは俊くんと杏子さんのおかげだから」


「……そうなんですか?」


 奥山君からはそんなこと聞いてない。杏子さんと二人で倒したけど、助けてくれたとは話してなかった。でもそう言えば、二人で倒したって事は、パーティのみんなは戦ってなかったってこと?


「恥ずかしい事にな。俺らは『暴虐の鬼王』に手も足も出えへんかったんや。殿を務めてくれたのは俊で、真由を回復してくれたんは姫宮や」


「そうだったんですね……回復は桐島君でも……」


「すみません。俺は早々やられてしまって。目が覚めたのはギルドに戻ってからなんです」


「そうなんだ……」


 そう言って私は杏子さんを見た。すると杏子さんはニコって笑ってくれた。


「杏子さん。ありがとうございました!」


「いやいやー、わたしは可愛い弟子を助けただけだからねー。まゆまゆが生きてくれててよかったよ」


「本当に、ありがとうございました」


 この御礼はしてもし足りないだろう。私はとにかく何回も杏子さんに対して何度か頭を下げた。杏子さんが少し迷惑そうな顔をするまでお礼を言い続けた。


 そしてそれも終わると、兼次さんが今の私の状態を教えてくれた。


「シルクちゃんが言うには、自分が大丈夫なタイミングで帰っていいみたいやで。まあ、回復の痛みは続くやろうから早めにダンジョンから出た方がいいかもな。外出たら痛みもかなり和らぐやろうからな」


「そうなんですね。安心しました」


 大抵の傷はダンジョンでなら回復する。腕がちぎれかけてても引っ付くぐらいだから私が刺された胸の傷ぐらいは大丈夫だろう。心臓を刺されてなかったからよかったけど、刺されてたら即死だったので運も良かったようだ。


「それと、私が気を失ってからの事を聞いて良いですか? 奥山君からは『暴虐の鬼王』を倒した事は聞いてるんですけど、てっきり皆さん戦ってたものだと思ってたので」


「そうやな……はっきり言うと俺らは真由を連れて逃げたんや。俊を殿にしてな……」


 そして兼次さんが話をしてくれた。






「……そうだったんですね」


 兼次さんから大体の話を聞いて息を吐く。

 私が意識を失ってから桐島君が回復しようとしてくれたが狙われて倒されてしまった。だから、私を助けるにはギルドに戻って回復しなければならなかった。選択としては誰が殿を務めるか。そこで奥山君がかって出てくれたのだと。そして、奥山君が攻撃して逃げる隙を与えてくれて、みんな逃げる事が出来た。

 それは殿と言うよりかは、生贄みたいだと思ってしまったのは私だけだろうか。


 そして途中で杏子さんと出会い、私は回復してもらい命を繋ぎ止める事ができた。そして杏子さんは奥山君の元へ。兼次さん達は私をギルドで再度回復魔法をかけてもらうために戻ったのだと。

 そして今に至る。


「そんな大変なことになって……私が足手まといだったんですね」


「ちゃうちゃう! 多分『暴虐の鬼王』は真由が一番のダメージソースやから、厄介やと思ったから一番に狙ったんやろ。その次が佑やったことから想像できる。重要な個所を狙ってきたんや。それにあの攻撃は俺も大樹達も対応できひんかった。せやから真由がやられたのは足手まといやからとかちゃう。あれは本当に仕方ない事やったんや」


「……そう、ですか」


 そう言われると、さっき奥山君が自分の弱さに悔やんでいたのがわかる。私がもっと反応してやられなければもしかしたら私も戦えたかもしれない。

 そこでふと杏子さんの顔を見た。兼次さんが説明している中、終始見た事ない険しい顔をしていたから気になっていた。しかしこんな場所では聞けない。


「真由、俺らはお前が生きてくれててよかった。直近はゆっくり休んでくれてええから、しっかり傷を治してくれな」


「はい。ありがとうございます」


 目に見える傷はすでにないが、精神的な事を言ってくれてるんだろう。


 それから私達は少し話をして解散となった。






「じゃあ、俺はこれからギルマスの所やから。真由も大丈夫やと思ったら帰りや」


「まゆちゃん、気を付けて帰ってね」


「河合さん! 俺はまだ一緒にいましょうか?」


「佑、空気読め。杏子さんが話したそうだろ」


 みんなが帰る準備をしている中、杏子さんだけがベッドの隣にある椅子に座った。

 大樹さんも今日の件があって少し杏子さんに対してのあたりが軽くなったみたいで良かった。


「ごめんね、少しまゆまゆと話したいことがあってね。おじさん、ギルマスの所に行くのは少し待っててくれる?」


「……ああ、わかった。俊と待ってるわ」


「ありがと」


 そして兼次さん達が部屋から出ていき、私と杏子さんだけが残った。

 少し沈黙が訪れる。


「あの、杏子さん。さっきも言いましたけど、本当にありがとうございました。しっかり傷も治って、まだ冒険者続けられそうで良かったです」


「うん、そうだね。本当によかった」


 そして杏子さんが私の目を見た。


「まゆまゆ、少し大事な話をしてもいい?」


 そう言う杏子さんの顔はいつもの笑顔ではなく、真剣なまなざしだった。


「は、はい。大丈夫です」


「じゃあ、言うね。単刀直入に言うけど、まゆまゆ。本気であのパーティを抜けてわたしと一緒に行動しない? 一緒にパーティを組もう」


 それは前も言ってくれた言葉。私にとっては嬉しい言葉だが、兼次さんパーティとの関係でまだしっかりと考えられていないこと。しかし、ここまではっきり言うとは、どういうことなのだろうか。


「杏子さん……」


「あのね。さっきあのおじさんは言ってなかったけど……これは本当に大切な事だから言うね。まゆまゆにとっては苦しい事だと思うけど、しっかり聞いてほしい」


「……はい」


「まゆまゆが倒れたあと、しゅんしゅんはすぐにまゆまゆを回復しようと奮闘した。そしてその場で回復できないとわかったらギルドに帰る事を提案した。でも、それに反対した人物がいたの」


「反対した、人物ですか……」


「うん。それは、彰って人」


「彰さん、ですか」


 その言葉に衝撃だった。私を助けるために奥山君を置いてギルドに戻ったと言っていた。でも、その前に彰さんが反対したって?


「その彰って人は、自分が逃げるために、自分が生き残る事を優先するために、まゆまゆを置いていけって言ったんだって。見捨てろって言ったんだって。それでしゅんしゅんが怒って、自分が残る事を選んだ。彰って人はおじさんが死ぬのも嫌だったみたいだから、残るのはしゅんしゅんしかいなかった。そしてしゅんしゅんが残る代わりに絶対まゆまゆを助ける約束をして。それで大樹さんがまゆまゆを担いでギルドに戻ったってわけ」


「私を置いていけって……そうだったんですね」


 杏子さんの話を聞いて自分なりに噛みしめる。

 しかし、その反応に杏子さんが首を傾げた。


「あれ? あまり驚かないんだね」


 少し悲しいとは思った。しかし、彰さんなら言いかねないとも思った。


「はい。あの人なら言いかねないと思ったんで。ずっと奥山君とも意見が衝突してましたから」


「そうなんだ……だったら尚更だね。わたしは仲間を見捨てる人は嫌いなの。生きてる限りお互い助け合うのがパーティだと思うの。だから、わたしの大切なまゆまゆがそんな扱いを受けた事がとても嫌なの」


 杏子さんは必死に私に訴えるように言ってくれた。


「だから、あんな人がいるパーティなんかじゃなく、わたしと組んだらもっとまゆまゆは楽しいと思うし、先に進めると思う。それにわたしがまゆまゆとパーティを組みたいんだよ」


「杏子さん……」


 その言葉は嬉しかった。

 元々いつかは杏子さんとパーティを組みたかった。それに杏子さんは平日とか休日とか関係なく私を受け入れてくれるって言っていた。ここまで言ってくれる杏子さんにならついて行ったほうがいいんじゃないだろうか。

 それに杏子さんが言う通り、彰さんがいるパーティではいつか綻びが起きそうだ。兼次さんが対応して間を持っているから今は大丈夫だろうけど、将来はわからない。

 今回の事件で抜ける事は立派な理由になると思う。


 それにあの時私は死んでいた可能性もあったんだ。

 だったらもういいんじゃないのかな?


 私も自由に動いてもいいんじゃないのかな?


 ここまで私を求めてくれている人の元に行ってもいいと思う。


 そうだ。そうしよう。それがいい。


 だってここはダンジョンなんだから。


「わかりました」


「じゃあ、まゆまゆ」


「はい。一緒に冒険しましょう」


「うん!」


 この場で私は杏子さんとパーティを組むことにした。


 後々兼次さん達にも奥山君にもしっかり話さないといけない。奥山君が1ヵ月修行するから帰ってきてから話してもいいかな?


 もう決めた事だけど、少し申し訳ない気もある。やっと8人パーティがいい感じで動こうとしていた矢先かもしれない。

 でも、こんな事件があれば遅かれ早かれこの結果になっていたと思う。


 8人から7人になる。それでもあのパーティは機能すると思う。兼次さんがいれば大丈夫だ。元々は私がいなくても成り立ってたんだ。


 だから私は早々に決心できた。




 さて、奥山君にはどう話そうかな。






まゆ視点の閑話はこれで終わりです。

あと2話、別の閑話が続く予定です。

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