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現代にダンジョンができたら潜りますか?〜私は今の仕事にしています〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第6章「自分が強くなったという自負」

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60話-2「自分の弱さ」





 討伐の清算をしてから1時間ほど経った。


「あっ、河合さん! 起きた?」


 大袈裟にならないように冷静に軽く微笑む。

 目を開けた河合さんが僕の顔を見て疑問を浮かべていた。


「……あれ、奥山君……? ここは……?」


「ギルドの中だよ」


「ギルド? ……なんで?」


 寝ながらキョロキョロと見渡して状況を確認する。

 この反応はまだ状況を理解していないみたいだ。


「52階層で鬼……『暴虐の鬼王』が出てきて、河合さんは刺されて瀕死の状態だったんだ。それで回復させるためにギルドに戻って来た」


 僕の言葉で河合さんが「はっ!」とした顔に変わる。


「そうだった! 私刺されてそれでむちゃくちゃ痛くて……でも、今は……」


 そして刺された場所を手で確かめた。


「傷が無い。生きてたんだ、私……」


「うん。たまたま杏子さんが近くにいて治してくれたんだよ」


「杏子さんが! 今、杏子さんはどこに……っ!?」


 と体と起こそうとして胸に走った痛みに手を当てる。


「いたっ……」


「大丈夫? 回復したって言っても回復による痛みは残ってるから、まだじっとしてた方がいいよ。ダンジョンを出るまではその痛みと戦わないといけないけど」


「そうだね。ふぅ……大丈夫だよ」


 深呼吸をしながら体を起き上がらせて軽く笑った。


「杏子さんは外で待ってる。兼次さん達もいるから後で呼んでくるよ。丁度僕が小百合さんと交代したばかりだったから。でも、河合さんが起きてくれてよかった」


「なんか、心配かけちゃったね」


「うん。でも全部僕が弱かったから。いの一番に『暴虐の鬼王』に気付いたのに何もできずに、河合さんに攻撃させてしまったから。それだけ後悔してる」


 すると河合さんが「何言ってるの?」と言う顔をした。


「いやいや、それは私が弱かったからでしょ。奥山君が気にする事じゃなくない?」


「それでも、僕が対応できなかったのは、自分を許せない」


「……そっか」


 沈黙が流れる。

 すると空気を変えるように河合さんが質問する。


「それで、その『暴虐の鬼王』はどうなったの?」


「……杏子さんと一緒に倒した」


「ほんとっ!? すごいよ! またネームドを倒すなんて!」


「全然。ただ囮をして、杏子さんの攻撃の為に動いてただけだから。僕の攻撃はほんのちょっとしか効いてなかった」


「それでも、囮だけでも凄いよ! 自分で言うのもなんだけど、私が何もできずに殺されかけた相手にだよ? それで全然って言われたら私の立場がなくなっちゃうよ」


 そう言われて僕ははっとなる。自分の事ばかりで他人の事を期にしてなかった。自分が弱いなんて連呼してたら失礼になってしまう。


「ごめん……」


「いいよ別に。実際に私が弱かったのは確かだから。はあ……もっと強くならないとね」


 そう言った河合さんの目は強い意思を持っていた。

 死にかけたのにまだ戦おうとする意志。やっぱり河合さんは強い人だ。

 だから、僕は河合さんには宣言できる。


「河合さん、僕はもっと強くなるよ」


 拳を握り、強く思いを込めてそう言った。

 すると河合さんはまた「何言ってるの?」という顔をした。


「えっ? 今よりも?」


「うん。もっともっと強くなって、一人で『暴虐の鬼王』を倒せるぐらいにはまずならないと」


「このまま進めば普通に強くなれると思うんだけど……」


「いや、早急にならないとダメだって思ってる。このまま先に進むならモンスターとのレベル差が開きすぎてる。僕まだレベル37だよ? 低いでしょ。だから、『暴虐の鬼王』レベルのモンスターがこの先に出てくる可能性が少しでもあるなら強くならないと、誰も守れなくなる」


「……そっか、奥山君がそう思ってるならそうなのかもね」


 肯定でもなく否定でもない意見だ。でも僕の決心は変わらない。


「なんかわからないけど、僕って強いモンスターとのエンカウント率が高い気がするんだよ。だから、もし次同じことが起こったら河合さんに攻撃させないぐらいには強くならないと。もうあの思いはしたくない」


「……奥山君」


 そう言った河合さんは目を瞑り、僕の目を見た。


「奥山君が決めたんなら全力で強くなった方がいいよ。これ以上私との差も開くって考えると色々思うところがあるけど、だったら私も強くなればいいだけの話だから。うん、頑張って」


「ありがとう」


 そう言って河合さんは笑ってくれた。


「ところで、どうやって強くなるつもりなの?」


 どういう風に強くなるのかは気になるだろう。しっかりとプランを立てている事を伝えないといけない。


「ちょっと修行をしようと思うんだ」


「へー修行ね」


「会社も退職するし、有給休暇が1ヵ月あるでしょ? だからその1ヵ月丸々ダンジョンに潜り続けようと思うんだ」


「1ヵ月丸々? じゃあ、ダンジョンの外に出ないってこと?」


「1週間に1回は家に帰ろうかなって思うけど、ほとんどダンジョンにいるつもり。別に外で僕の事気にしてる人は一人ぐらいしかいないし、大丈夫かなって思ってる」


「そっか。かなり意気込んでるね。本当にすごく強くなりそう」


 河合さんは「応援してる」と言いながら笑ってくれた。


「それは、兼次さんには話したの?」


「いや、まだ。これから話すつもり。それと、僕と杏子さんと兼次さんはギルドマスターに呼ばれてるからこの後行かないといけないんだ。河合さんが起きたら来いって指示されてる」


「えっ、そうなんだ。それって、『暴虐の鬼王』の事だよね」


「うん。前の『独眼のウェアハウンド』と同じ状況だと思う」


「大変だね。私は行けなくてよかったけど。ギルマスはちょっとオーラが強すぎるから、緊張するんだよね」


「あれだけボコボコにされたのに?」


「されたから余計怖いんだよ。あの人強すぎるんよ。杏子さんよりも強いんじゃない?」


「そうかも?」


 思い出すのはギルドマスターが使った『マテリアルチャージ』。自分が使った『マテリアルチャージ』と比べたら歴然だった。杏子さんの『メテオノヴァ』と比べてもいい勝負をしそうと考えたら、スピードの差でギルドマスターが勝ちそうだ。

 そな感じで雑談も一旦終了する。


 僕は椅子から立ち上がる。


「じゃあ、杏子さん達を呼んでくるよ」


「うん、ありがとう」


 そして僕は扉の取っ手に手をかける。すると、


「奥山君……頑張ってね」


「ん? うん。ありがとう」


 その「頑張って」と言う意味はどれに対してだったのか、河合さんの表情を見て一瞬わからなかったが、何も疑問に思わず僕はその部屋を出て行った。




 そして兼次さん達の元に戻る。


「河合さんが起きました」


「本当っ!? よかった! じゃあ私も行ってくるわ」


「河合さんが! よかった! 小百合さん俺もついて行きます」


 先に起きていた桐島君が小百合さんについて河合さんの所に向かった。


「杏子さんも行ってあげてください。お礼が言いたいみたいなんで」


「うん。ありがと。すぐ行くね」


 そう言った杏子さんは兼次さんと何か話していたみたいだ。兼次さんもバツが悪そうな顔をして僕を見る。


「ありがとな俊。俺も行くわ」


 そう言って杏子さんと兼次さんも河合さんの元に向かった。







 そして河合さんのお見舞いをした兼次さんと杏子さんと合流しシルクさんの案内の元、ギルドマスターの前に座った。


「おつかれ様だったね、あんた達。今回もネームド相手にするとは、ニシカワケンジもオクヤマシュンも災難だったね」


 豪快に笑いながらギルドマスターは労いの言葉を言った。そして杏子さんを見た。


「で、ヒメミヤアンズは念願を達成したと。どうだった?」


「やっと敵を討てたって感じだけかな。別に敵を討ったって言ってもみんなが戻って来れるわけでもないから。わたしの枷がなくなっただけかなー」


「そうかい。なら、これからは先に進んでくれるんだよね」


「もちろん。ここからは先に進むよ」


「じゃあ、頼もしいね」


 ギルドマスターと杏子さんとで過去にどんな話をしていたのか知らないが、打ち解けている様に見える。

 そしてギルドマスターがここから本題だと言いたげに前傾姿勢になった。


「さて、個人の話はこれぐらいにして、まずはギルド側からお礼をさせてほしい。ヒメミヤアンズ、オクヤマシュン『暴虐の鬼王』の討伐感謝する。そしてニシカワケンジも発見に感謝する」


 ギルドマスターが頭を下げた。


「ヒメミヤアンズも知ってる通り、あのモンスターはこれまで冒険者を殺す厄介なネームドだったからね。ネームドじゃなければ討伐も容易いけど、ネームドの特性上同レベル体の冒険者がいないと討伐できなかった。それを討伐してくれたおかげでこれから50階層は階層相応の冒険ができるってことだ」


 そして笑った。


「だから、今回討伐報酬以外にも臨時報酬をあんた達3人に渡すことにした。シルク」


「はい」


 ギルドマスターの後ろに控えていたシルクさんが僕達の目の前に何かを置いた。それは白金に光る金貨だ。

 まさかこれは……。


「聖金貨だ。ヒメミヤアンズ以外は初めて見るかもしれないけど、60階層以降でも滅多に手に入れられない金貨だよ」


「聖金貨……持ってもいいですか?」


「もちろん」


 僕はその聖金貨を恐る恐る持ち上げる。

 通常の金貨に比べて一回り小さいが、その重厚感が金貨とは違うと言わしめている。

 これが前に大樹さんが言っていた聖金貨か。凄い。


「ギルドカードに入れても良かったんだけどね、現物を見た方がいいだろって思って、用意させた。聖金貨は通常の金貨の100倍の価値だ。つまり100万ほどだね。今のあんた達には十分な額だろう。それで装備品のメンテナンスや消耗した必需品を買いな」


 そう言ったギルドマスターは満足そうにうなずく。


「ありがと、ギルマス」


 杏子さんは素直に聖金貨を受け取った。

 しかしこれを杏子さんが貰っても、僕は貰ってもいいのだろうか。


「あの……僕は、囮しかしてないので、これまでもらうのは……」


「何言ってるんだい。そんな事は考えなくていいんだよ。囮だったとしても立派な役割だ。それでオクヤマシュンが貰えないならニシカワケンジも貰えない事になる。それにギルドマスターのアタシが決めた事だ、それを否定する事はアタシの顔に泥を塗る事になるよ? 喧嘩売ってるのかい?」


「い、いえ。そんなわけでは……」


 ギロリと睨まれて萎縮してしまう。


「しゅんしゅんは考えすぎなんだよ。別にこれは貰っていいと思うよ。ギルマスが言う通り、おじさんも貰ってるからね」


「俺はパーティで分けるつもりやったけどな。俊は一人で貰う価値があるやろ。素直に貰っとき」


「……わかりました。頂きます」


 そして僕は聖金貨を片付けた。


「今回の事は他言無用だよ。ニシカワケンジはパーティメンバーには話しても良いけど、他は話さないように」


「わかりました」


 そしてギルドマスターがソファーの背にもたれた。


「さて、話は以上になるけど、あんた達から質問は何かあるかい? なければ解散になるが」


 そう言われてふと質問が浮かんだ。これからの修行についてだ。


「あ、はい。シルクさんに聞けばいいかと思ったんですけど、一応いいですか?」


「なんだい?」


「もう一度1階層から攻略をし直してもいいのかどうかを確認したいです」


 その言葉にギルドマスターが難しい顔をした。






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