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現代にダンジョンができたら潜りますか?〜私は今の仕事にしています〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第6章「自分が強くなったという自負」

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59話-4「『 暴虐の鬼王』」



 咆哮の如く咆えた鬼。

 そして第二ラウンドが始まると身構えた瞬間、その行動に目を疑った。


「……えっ?」


 鬼がその場から立ち去る様に後ろに向かって走ったのだ。


「やっぱりそうなるんだね……」


 と後ろで聞こえた瞬間、鬼の行く手を阻むように岩の塊が降り注いだ。


「しゅんしゅん、攻撃して! はやくっ!」


「は、はい!」


 杏子さんの言葉に従って鬼に向かって走り、剣を振り下ろす。すると、鬼は僕をターゲットにしたのか再度戦闘が開始された。


 確かな違和感。『独眼のウェアハウンド』の時にはなかった違和感を覚えた。

 なんでこいつは逃げようとした? 杏子さんの攻撃を食らったからか? でも、前のネームドはそんな行動をしなかった。だったら、レベルの差を感じたからと言う事か?

 そして僕が向かってきたことで戦えると思った?


 すると杏子さんの声が聞こえた。


「さっき言った通り、ネームドは自分より弱い冒険者しか狙わない。だから、わたしの攻撃を沢山受けたら逃げる。でもしゅんしゅんが攻撃する限りは本能に従って戦いを選択する。だからしゅんしゅんは攻撃し続けないといけないんだよ!」


「……っ!」


 そう言う事か。

 ネームドは自分より強い冒険者が来ると姿を見せない。その代わり自分と実力が均衡しているか弱い冒険者には姿を見せる。それは『独眼のウェアハウンド』も同じで上位冒険者には顔を出さなかった。しかし戦闘中は僕達だけで、尚且つ『独眼のウェアハウンド』の方が僕達より個体として強かった。


 つまりさっき覚えた違和感は、『独眼のウェアハウンド』の時と違ってこの場には杏子さんという強者がいる事で逃走の選択肢を選んだと言う事か。


 そうなると、今僕がここにいる理由は……


「囮……」


 その真実に悔しさがにじみ出る。

 杏子さんだけで『暴虐の鬼王』を倒せるのだろう。でも、逃げに徹されるとダンジョンの性質とネームドの逃げ足で杏子さんでも追いかけられない。だから、この場に釘付ける為に僕が戦わないといけない。


 それが僕の役割。


「くそっ!」


 その真実が分かった途端、鬼に対しての攻撃が荒くなる。それでも杏子さんのサポートがあれば攻撃を与えられる。ダメージを与えられる。しかし、決定打に欠ける事が自分の実力を表していた。

 その事実が、悔しさを滲みださせる。


「リア・スラッシュ!」


 鬼に剣戟がクリーンヒットする。しかし、それはまだ大ダメージとは言わない。その攻撃ではこの鬼を倒すことはできない。


「はあぁぁぁぁぁっ!」


 自分一人では戦えるとは思えない。でもサポートがあれば戦えると思っていた。しかしそれは違った。ただ単に僕はその場に『暴虐の鬼王』を留めるための手段だということ。

 杏子さんの魔法を当てる為だけにいる役割だということ。


 そして杏子さんの魔法が再び放たれ、鬼は二度目の氷漬けとなった。それでも倒れていない鬼のタフさ。


 僕は少し離れて様子を見ながらSPポーションを飲む。

 すると杏子さんが隣に来た。だからぽそっと言葉が漏れた。


「僕は囮って事ですよね……」


 その言葉に杏子さんが目をぱちくりさせる。

 そんなこと微塵も思ってなかった様な表情に僕は困惑する。


 すると杏子さんが答えた。


「違うよ。しゅんしゅん以外はあの鬼の猛攻に耐えられない。追いかけられない。しゅんしゅんだから戦えるんだよ。わたしが魔法を構築できるのも、魔力を練れるのも、しゅんしゅんが戦ってくれてるからだよ。他の人じゃここまで持たない」


 それは杏子さんの本心なのだろう。優しい言葉をかけてくれる。でもそれは自分の情けなさを増大させた。

 ここにいるのは僕じゃ無くても良かっただろう。兼次さんでも十分対応できたはずだ。それを思わせないように杏子さんはこう言ったのだ。



 そんな言葉を言わせた自分に腹が立つ。


 何を弱気になってたんだ。事実が囮でもいいじゃないか。それができるのはここにいる僕だけだ。今は僕しかできないことだ。


 情けない、情けない、情けない! 何を考えてたんだ!


 それが嫌なら動け! 自分でもぎ取れ! 倒せ! レベルを上げろ!


 杏子さんの優しい言葉が自分に気づかせてくれる。だったらする事は一つだけだ。


「しゅんしゅん、集中して! 来るよ」


 鬼を閉じ込めていた氷が砕ける。このタイミング、逃げる動きをする前に僕が攻撃を食らわせないといけない。だから距離を詰める。鬼に接近する。剣を振る。こんな些細な攻撃を続け、意地でも鬼を倒して見せる。


 しかし、鬼もこのままではなかった。


 剣と太刀がぶつかり合っている中、鬼の魔力が膨れ上がった。そして少し距離が空いた瞬間鬼が左手を上に向け炎を作りあげた。


「なっ!!」


 それは魔法。まぎれもなく炎の魔法だ。

 このようにネームドモンスターが魔法を使うのは初めて見た。ホブゴブリンの魔導士が使ったのは見た事あるが、スキルを使う強い個体が魔法を使うのは想像していなかった。


 しかしその思考の中、鬼の魔法が完成する。

 そして僕に向かって放たれた。


 威力は見ただけで強いとわかる。

 まだ魔法を斬る事は出来ない。魔力で相殺する事は出来ない。避ける事も間に合わない。


「くそっ……」


「大丈夫だよ」


 その瞬間、目の前で炎の塊が何かに阻まれた。透明の様な壁がによって僕の目の前を中心として四散する様に炎が流れて行く。

 それは確実に杏子さんの魔法だろう。


 しかし、鬼がその場から離れてもう一度左手を上に向ける。すると次はさっきの倍の炎の塊が出来上がった。


 ……逃げるしかない。


 そして鬼が雄叫びを上げながら魔法を放った。


 しかしそれは杏子さんの魔法にまたしても阻まれ、さっきとは違い炎が鬼に返される様に弾かれた。

 燃え上がる鬼。自分の魔法を返されるとは思っていなかったのか燃えながら暴れる。


「……凄い」


 その間に僕はその場から離れて杏子さんの所に向かう。

 ここまで全て杏子さんの功績だ。僕は本当に囮しかできていない。攻撃も通用していない。ダメージは全て杏子さんが与えている。


 ……このままでは終われない。何が何でも爪痕を残してやる!


 そして杏子さんの横に立ち、言った。


「杏子さん、一つお願いがあります」


「なに?」


「一撃だけ、僕に時間をください。20秒でいいです。溜める時間をください……」


 切実にお願いする。戦いながら溜める余裕はない。自分が集中できる時間を作らないとまだ使えない。だから、杏子さんにお願いするしかない。

 そんなお願いこの場では簡単に聞いてくれないだろう。しかし杏子さんは笑った。


「いいよ。わかった。一撃だけだよ」


「あっ、ありがとうございます!」


 鬼にはダメージが蓄積している。逃げる選択を取らせないようにするために杏子さんも中途半端な威力に抑えながら魔法を使っていた。それは最後の一撃の為に魔力を溜めていたのだろう。

 その前に僕がチャンスを貰えた。


 だったらこのチャンスをものにする。絶対にこの一撃で『暴虐の鬼王』を倒す。


「じゃあ、始めるね」


 そして杏子さんが魔法を放った。

 その魔法は土属性の魔法。岩の壁が炎が消えたばかりの『暴虐の鬼王』を囲むように生成された。

 それを見て僕は剣を構える。


「『マテリアルチャージ』」


 それは前にギルドマスターが見せてくれた魔法。剣に魔法の属性を付与して通常のスキル以上の力を出す魔法。

 剣が赤く染まっていく。


 僕はギルドマスターみたいに複数の属性を付与できない。密かに練習してできたのは火の属性を付与するだけ。たったの1属性の付与。


 しかしそれだけでも溢れだす魔力。剣から溢れるような赤い光はその魔力量を物語る。


 その間に杏子さんの魔法が鬼に振り注がれる。


 溢れる赤い魔力。

 しかしそれだけでは完成しない。その魔力を剣に抑え込むように小さくする。溢れていた魔力が剣に収縮される。


 そして完成する。赤黒く光る刀身の剣が。


「杏子さん……いきます!」


「わかった」


 その場を『瞬動』で蹴り『暴虐の鬼王』に接近する。その瞬間囲っていた岩の壁が消えた。

 そこにいるのはダメージを食らっているが、まだ元気そうな鬼の姿。


 剣を振り上げる。

 その魔力量に鬼は目を見開き太刀を横に構えた。タイミングは完璧、鬼が対処できるのはその動きだけ。


 そして僕は剣を振り下ろした。


「バーストブレイカーぁぁっ!!」


 振り下ろされる赤い剣。爆発するような斬撃はその一帯を吹き飛ばした。




 吹き荒れる砂ぼこり。


 この一撃は僕の魔力を全て使用した一撃。今までのどのモンスターでも一撃で葬れる自信がある威力。

 杏子さんのサポートがあれば、この一撃を打ち込めれば、倒すことができると。そう思っていた。


 しかし、その砂ぼこりが晴れた時、僕は目を見開く。


「うそ、だろ……」


 左腕が吹き飛び、太刀も半ばから折れ、見るも無残な状況。しかし、『暴虐の鬼王』はその場に立っていた。


 その姿を見て歯を食いしばる。

 これほどまで、力が、レベルが違ったのかと。全力でも倒せなかったのかと。


 そして『暴虐の鬼王』は怒りのまま僕を見下ろし、笑った。


「……っ!」


 その瞬間、全身に悪寒が走った。『虐殺のオーガ』に覚えた似た恐怖が思い出される。


 その恐怖に膝をついてしまう。

 金縛りにあったような状態。これでは逃げる事が出来ない、殺される運命しかないと、恐怖が全身を支配した。


 そして『暴虐の鬼王』は咆えた。それは咆哮とも違う変化の唸り声。


 目の前で起こる変化に戸惑う。これは、今までのモンスターが見せた最後の行動。

 赤黒い角がもう一段と伸び、体が膨れ上がる様に一回り大きくなる。そこから溢れる威圧はさっきまでのモノとは違う。明らかに1段階進化したと言わしめる圧力だ。


 歯がカチカチとなる。

 久しぶりの恐怖が、至近距離で浴びる恐怖がここまで何も考えられなくなるなんて……




 ……は?


 びびってる? 怖がってる? 僕が、もう勝てないと思ってるってことか? ただ死ぬ恐怖にびびってるってことか?


「……情けない」


 びびって何もできなくなるなんて情けない。

 それこそもう立てなくなれば死ぬだけだぞ。さっきは立ち上がった。剣を振った。一撃を食らわせた。

 なら、今もできるだろ! びびってもいいから動け! 無理やりに動かせ! 指一本だけでも動かせっ!


「うおぉぉぉぉぉぉっ!」


 奮い立たせるように叫ぶ。

 笑いながら見下ろしている『暴虐の鬼王』を見て叫ぶ。

 傍から見たらどれだけ情けないだろう。でも、今立てない方がもっと情けない。


 そして、剣を杖にしながら立ち上がった。


 それを見た鬼が驚いた顔をする。目の前にいる弱い個体に苛立ちを隠せないように笑っていた顔がみるみる怒りへと変わる。


 効いている。僕が起きるだけでこいつには効いている。だったら僕はまだまだ諦めない!




 その時声が聞こえた。優しく力強い声が。


「よくやったよ、しゅんしゅん」


 その瞬間、後方で魔力が膨れ上がった。


「……っ!」


 咄嗟に後ろを振り向いてしまった。しかしそれと同時に鬼もその方向を見ていた。


 そこには魔力を全開にした杏子さんが杖を構えていた。


「しゅんしゅんのおかげで魔力を練る時間ができた」


 そして杖を上に振った。


「『アース・ピラー』!」


 その瞬間、地面から生えた岩の柱で『暴虐の鬼王』が上空に吹き飛ばされた。


「『ライトニング・クロス』!」


 見たままの通り、雷の十字架。雷鳴を轟かせ鬼を中心に雷が縦と横に走る。その威力に鬼が焦げ、口から煙を吐く。

 しかし『暴虐の鬼王』は意識を失っていない。睨み付け、杏子さんに咆えようとした瞬間、


「『ウォーター・プリズン』!」


 鬼を包み込むように水が空中で対空し、


「『アイス・エイジ』!」


 一瞬にして水が凍り、地面に落ちた。

 圧倒的な魔力。光の粒にならないものの、その氷は鬼をそこから出すことはない。


 そしてもう一段杏子さんの魔力が膨れ上がった。


「しゅんしゅん、その場から離れて」


「は、はい」


 すでに鬼から離れていた僕だが、それでも次に発動する魔法の射程範囲だと言う。

 だからその場から走って離れる。


「もっと」


「は、はい」


 少し離れたぐらいではダメなようで、杏子さんの後ろに隠れるように下がった。


 そして杏子さんが杖を上に向ける。

 その瞬間、溢れていた魔力が形作り始めた。中心に火の属性の魔法が形成されそれを囲むように水と土で固めていく。それは圧力を込めるように徐々に大きくなり、ぐつぐつと煮えたぎるような1メートルほどのマグマの塊が出来上がる。そしてその周りを風と雷が纏わりつく。バチバチと雷鳴を轟かせ、共鳴する様に暴風の様な激しい風音が聞こえる。


 それは初めて見る魔法。

 見ただけでわかる。5つの属性が全て混じった魔法。


 その魔力量の大きさに開いた口が塞がらない。


「やっと、やっとだよ。今まで長かった。追いかけても追いかけても逃げられる日々。でも今日やっと終わる。これでやっとわたしは……前に進める」


 そして杏子さんが杖を振った。


「『メテオノヴァ』」


 その塊はゆっくりと氷漬けになっている『暴虐の鬼王』に向かう。人が歩くよりも遅い動きは通常では避けられるだろう。しかしこの状況では避ける事が出来ない。


 そして『メテオノヴァ』と呼ばれた魔法が『暴虐の鬼王』に当たった。


 その瞬間、轟音を響かせながら爆発した。

 激しい光を放ちながら爆発するその魔法は目の前を真っ白に染め、激しい爆風を巻き起こす。


「……っ!!」


 目の前が見えない状況で僕は腕で顔を守るしかできない。




 そしてようやく目が見えるようになった時、


「……まじかよ」


 僕の目に映った光景は衝撃的だった。


 直径10メートルはあるクレーターが全てを物語っていた。『エクスプロージョン』の比ではない、圧倒的な威力。

 クレーター以外は何も無い。むき出しになった土が黒く焦げ、まるで隕石が落ちた後の様な光景に声も出せない。


 そして、微かに残っていた光の粒が、『暴虐の鬼王』を討伐したのだと物語っていた。


「これで、終わったね」


 そう言った杏子さんが成し遂げた様にその場に立っていた。


 その表情は達成、悲しみ、なつかしさ、色々な感情が入り混じったような表情だった。






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