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現代にダンジョンができたら潜りますか?〜私は今の仕事にしています〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第6章「自分が強くなったという自負」

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59話-2「『暴虐の鬼王』」



「僕が残ってあいつと戦います」


 その言葉に兼次さん達が声を上げる。


「何言ってるねん、俊! お前が残るやと!?」


「そうだ! 俊が残るって……!」


「はい。今あいつとまともに戦えるのは、僕と兼次さんだけです。だから今の状況を判断して僕が残るべきだと思いました」


「待て待て待て! お前が残る必要ない! 俺が残れば済むやろ! もしかして朝に彰が言ってた事を実行する気なんか! ちゃうぞ! 彰もあれは冗談や、本気やない! せやから俊が残る必要ないんやぞ!」


 久しぶりに兼次さんが声を荒げた。でも僕は考えを変えない。


「そう言う事じゃないです。まあ、少しはありますけど。52階層に向かう提案をしたのは僕ですし、責任は感じています。でも、それだけじゃないですよ。普通に考えて、僕がここに残る事が最適だと思っただけです」


「そんなん気にせんでええ! お前はこれからの成長株や! お前がいたらパーティも今以上に強くなれる。これからはお前がパーティの要になるんや。せやから、残るのは俺やろ!」


「違いますよ兼次さん。このパーティには僕よりも兼次さんが必要です。このパーティは兼次さんを中心として成り立ってるんです。一番新人の僕がいなくなってもこのパーティは成り立ちます。だから、ここは兼次さんよりも僕が残るべきなんです。それで兼次さんが殿を務めてください。僕が突破された後は兼次さんしかいないですから」


「俊、お前……」


 僕の言葉に兼次さんが口を閉じる。

 だから僕は彰さんを見た。


「僕なら死んでもダンジョンに潜れなくなるだけですし、僕もまだ会社を辞めてないですからね」


 と笑う。

 すると彰さんは少し嫌そうな顔をした。でも、僕は嫌味としていったわけではない。そう思っているだけだ。


 それに、


「でも、死ぬ気は全くないんで。ちゃんと生きて帰るんで、ギルドにネームドの報告はしてくださいね」


 その言葉を言ってから全員の顔を見た。

 みんな動揺している。そりゃそうだ。自分が残りたくはない。残っても対応できない。だから僕の言う事を否定できない。


 でもそれが、河合さんを一番助けられる可能性がある。

 仲間が、同僚が、死ぬ瞬間なんて見たくない。


「だからお願いがあります。必ず河合さんを助けてください」


 そう言った瞬間、後ろの氷が爆ぜる音がした。


「早く行ってください!!」


 僕は後ろを向く。そこには氷を破壊した『鬼』が笑いながら立っていた。


「でも……」


「俊! 俺も、俺も戦うぞ!」


 小百合さんが立ち止まり、大樹さんが僕に並ぼうとする。しかしその表情はびびっている。


「いいです、大樹さん。死にますよ」


「……っ!?」


 僕の言葉に大樹さんが顔をより引きつらせる。


「だから……」


 僕は叫ぶ。


「早く、行ってくださいっ!!」


「くっ……くそっ!」


「ごめん……」


 全員が走り出す音が聞こえる。そして最後に兼次さんの声が聞こえた。


「俊! 絶対真由を回復させたら戻ってくる! それまで生きてくれ!」


 僕はその言葉に頷くだけで声を出さなかった。

 そして鬼がみんなを追いかけるように走り出した。


「瞬動!」


 それに合わせるように僕は鬼に剣を振る。僕の剣と鬼の太刀がぶつかり合い、金属音が響き渡る。


「行かせるわけないだろっ!」


 近距離で『ファイア・キャノン』を放つ。鬼はそれでもぎりぎり避けバックステップで僕から離れる。その間に兼次さん達は見えなくなった。


「自己犠牲って精神はないんだけどな。何やってるんだろな僕は」


 あのまま殿を兼次さんに任せていたら僕は逃げられただろう。河合さんを担いでても逃げられたと思う。桐島君が起きない限り河合さんが死ぬ可能性は高いが、全力で走ったらギルドまで30分もあれば帰れるだろう。

 でもその場合、兼次さんは確実に。他のメンバーも死んだ可能性がある。

 それも僕が望むことじゃなかった。


 はっきり言うと52階層を進んだ事に責任を感じていた。彰さんの言う通り進まなければこのような事態は起きなかった。

 だから、後始末を僕が取らないといけない。

 それに僕の大切な同僚を瀕死にさせた償いをこいつに取らせないといけない。


 このままで、僕は帰れない。


「すぅ……はぁ……」


 深呼吸をする。


 ……でも怒っていたらこいつには……勝てない。


 今までの怒りを抑え込み冷静になる。切羽詰まっている状況だと言うのに、徐々に頭がクリアになっていく。思考を加速させこの鬼をどう倒すかに脳をフル回転させる。


 すると鬼の雰囲気が変わった。

 チラチラ見ていた僕の後ろには興味がなくなったのか、目の前の僕だけに集中する様に威圧を飛ばしてきた。


 その集中が僕にも伝染する。


 距離を取りながら次の攻撃の様子を見る。

 そして同時に動いた。


 両方とも『瞬動』で距離を詰め、剣と太刀が交わり、激しい金属音を響き渡らせながらぶつかり合う。


 剣と太刀の攻防が始まる。




◇◇◇




 2人を抱えて5人が走る。

 歩いて来た一本道を全力で走る。

 鬼に会った場所までは探索しながら2時間で到着している。ならば冒険者の身体能力で全力疾走をすればモンスターもほとんどいない中、帰還ゲートまでは30分もかからない。


「くそっ! 俊だけ置いて行くことになった! 何してんだ俺は!」


 大樹が叫ぶ。

 足が震えていた。盾と剣に力が入らなかった。顔も引きつり、感情を恐怖が支配していた。そんなダサい自分を後輩に見せたくなかった。

 悔しいという感情が大樹を苦しめる。


「私も一緒よ……それ以前に何もできなかった。あの威圧に飲み込まれたのは私だけじゃない。それでも動けていたあなたは凄いわ」


「それでも俺は俊を置いて逃げて来た……くそっ!」


 兼次から替わって、腕の中にいる河合真由をしっかりと抱きかかえながら大樹は歯を食いしばる。


「……今は、俊くんから任されたまゆちゃんを絶対に死なせないようにするのが一番大切よ。少しでも可能性を増やすために早くギルドに戻らないと」


 小百合も真由に回復魔法をかけながら横に並んで走る。少しでも、無意味だとしても真由の命を長らえさせようとしている。

 真由自身もレベルアップによる自己回復能力で一般人であれば即死のダメージでも耐えている。ここから30分程耐えきれるかわからないが、少しの希望に縋る為に全力で走る。


「大樹……小百合……俺がいてすまん……」


「兼次さんが謝る事じゃない。みんな同じだ……」


「それでも、俺は……俊だけを置いて来たんや。パーティリーダーとしてやったらあかんことをしたんや。あそこには俺がいなあかんかったんや……」


 今までにない程憔悴している兼次が、俊だけを残した事を悔やむように歯を食いしばる。

 しかしあの時、全員が助かるか一人を犠牲にするか天秤にかけてしまった。俊が残ればここにいる7人は生き残れる可能性が跳ね上がる事は確かだ。間に合えば真由も助かる。しかし、全員が逃げれば隙をつかれて全滅する可能性があった。それにあの切羽詰まった状況では兼次が残る選択肢は、俊の真剣な目に選択肢としてなくなってしまっていた。

 それを即座に考えたことで、選択を間違えてしまったのではないかと、やはり自分が残った方がよかったと兼次は後悔する。


 しかし、佑を担いでいた彰が言った。 


「兼次さん。あれは仕方ない。奥山が残るって言ったんだ。河合を助ける選択肢を取ったのはあいつだ。その分、自分の仕事を全うしている。あいつにはこの選択肢しかなかったんだ」


 その言葉に全員が彰を見る。

 それを美優が訂正した。


「違う違う! 言い方は棘があるけど、アキ君は奥山くんに感謝してるんだよ! 私達が今生きれてるのは奥山くんのお陰だってのは理解してる。私達も河合ちゃんが死ぬのは嫌だから。大樹くんも小百ちゃんも1年も一緒に行動してるからわかってるでしょ?」


 その言葉に大樹が声を上げる。


「あー、わかってるよ! でも、言い方があるだろ! 俺は後悔してるんだ! あそこで一緒に居られなかった事を後悔してる! もし、俊が死んだら俺はもっと後悔する。俺は彰みたいにそんな簡単に割り切れないんだよ!」


「彰の言い方はね。でも私も大樹と一緒。後悔は多分これからも消えないわ」


 兼次も言葉をこぼした。


「全ての責任は俺にあるんや。だから真由を助けたら、絶対戻る。俊は絶対に生きてるはずや。あいつが早々くたばるわけない。だから、俺らはさっさと全力でギルドに戻るで!」


「そうだな! 兼次さん! でも先に佑は起きそうに無いのか?」


「……ないな。あれから起こしてるけど、全く起きる気配はない。あの一撃はかなりきつかったんだろ」


 身体が回復しても、意識はすぐには回復しない。受けた攻撃の威力が大きければ大きい程回復に対しての後遺症が残る。佑が起きるのは時間薬としか言いようがない。

 だから、真由を助けるにはギルドで回復してもらうしかない。


 そして5人は気合を入れなおして足に力を込める。


「……っ!? なんやっ!?」


 すると、こちらに向かって何かが走ってくるのが見えた。


 それが人物だとわかった瞬間、兼次達が足を止めた。そしてその人物も足を止める。


「なんで、あんたが……」


 兼次がその人物を見て声を漏らす。

 しかしその人物はそれを気にせずに兼次達を見渡す。そしてその場に目的の人物がいないことがわかると、大樹に抱えられている真由に目を向けた。


 そして、真由に近づいて行く。


「……死にかけだね。でも、大丈夫だから」


 そしてその人物は真由に手をかざした。


「『ハイ・ヒーリング』!」


 その人物の手から温かい緑色の光が溢れ、真由を包み込む。そして、一瞬にして真由の傷口が塞がった。


「これで、大丈夫。意識はまだ戻らないだろうけど、死にはしないよ。あなた達はそのままギルドに戻ってね」


 そう言ったその人物は兼次達が来た方向を見た。

 その奥に何がいるのかわかっているかのように目を細める。

 すると何かを察したのか、兼次が声を上げた。


「俺も一緒に行ってええか! 真由を回復してくれて助かった! 真由が回復した今、俺も俊を助けに行ける! せやから……」


「ダメ。おじさんでは足手まといだから」


 その言葉に兼次は言葉を詰まらせた。今までに足手まといになったと言われた事はない。パーティでリーダーを務めるし、『独眼のウェアハウンド』の討伐時もリーダーを任されるほどの力はある。


 しかしその人物が放つ魔力を感じて、兼次は反論すらできなかった。そして、それは他のメンバーも同じ。


 その人物は怒っていたのだろう。

 何に怒っているのかはわからない。しかし、いつもの様に高く甘い声を出し、顔は笑っているのにも関わらず、その溢れる魔力は通常とは違った。


 そしてその人物は一言言葉を残して、


「『暴虐の鬼王』……絶対に、今日。仕留めるから」


 一瞬にしてその場を去っていった。




◇◇◇



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