58話-2「本当の冒険者とは」
彰さんが立ち上がり机に手を置いた。
「ここまでの攻略を見て言ってるなら、調子乗りすぎじゃないか? さっきも言った通り52階層なんて今の俺らでは厳しいだろ。だから俺は進むのは反対だ」
その言葉でこの場の空気が一瞬張りつめた。
だから、この空気を変えるように大樹さんが発言する。
「でも、51階層は突破出来ただろ? 今の俺らだったら進められる可能性はある。俊もそう思って言ってるんだろ」
「いや、私もアキ君の意見に賛成だよ。安定の安心を取るなら52階層はまだ進まない方がいいと思う」
美優さんも彰さんの意見に賛成のようだ。
しかし、それを小百合さんが否定する。
「そう思わないわ。俊くんが言ってるのは少しだけ様子見をすればいいって事でしょ? 別に進むわけじゃないんだからそれぐらいなら大丈夫だと私は思うわよ。そうよね、俊くん?」
「はい。51階層の時の様に2時間ほど進んで戻ってくるだけですし。少しでも知っていれば攻略の方法を考えられます。まったく知らないまま51階層まででレベル上げるのとでは効率が変わります」
「いや、それは実力があっての事だろ? 51階層の時は全くの未知だから少し様子を見るために探索した。でも52階層は51階層の延長になる。今までの階層がそうだっただろ? なら、別に様子見する必要は無いだろ。それよりも、52階層で危険にならない方に慎重になるべきだ。今の俺らの実力では無理だと思ってる」
「それを言うなら、51階層の様子見ではそこまで危険がなかったですよね? そう考えたら52階層の序盤は同じと考えられます。僕達の今の実力ならそれぐらいなら大丈夫なはずです」
というか、あの危険は彰さんのせいだと僕はずっと思ってるから、その否定を全員に押し付けるのはおかしい。自分の実力が無いから少しでも先に進むのは無理だと言ってくれた方が納得する。
「ちょっと待て、二人とも。この前と同じで白熱しすぎや」
「いや、兼次さん。ここはしっかり言わせてもらう」
兼次さんの制止を振り切って彰さんが声を荒げる。
「奥山、今の発言に責任持てよ? はっきり言うとな、もし俺らが危険になったら誰が責任取るんだ? お前か? 奥山、お前が責任取れるのか?」
「責任ってどういうことですか? 危なくなったら僕が殿を務めてみんなを無事に逃がしたらいいんですか?」
「ああ、そいう事だ! そこまで言うんならお前にそう言う覚悟があるのかって事だ。命かけて俺らを逃がすことができるんかって聞いてるんだ!」
「おい、彰! それは違うだろ!?」
「いや、大樹。お前も甘いぞ? 兼次さんならそれぐらいの責任を取るだろ。リーダーってのはそういう者だ。だから指示に従うんだ。パーティメンバーの誰かが反対してるなら、そいつを納得させる理由が必要だ。だから、危険になる可能性がある事を提案するならそれぐらいの覚悟を持って言えってことだ!」
「俊はこのパーティのリーダーじゃないだろ! そんな責任を持つ必要がない! それに最後に決めるのは兼次さんだ!」
「それでも、ここまでしっかり発言するならそれぐらいの覚悟を持って発言しろってことだ!」
「いや、でもお前な……」
と彰さんと大樹さんが白熱しそうになった時、兼次さんが止めた。
「待て待て! ちょっと意味わからん事で白熱しすぎや! 冷静になれ! 今は話し合いの場なんやから俊の意見も出て当たり前やぞ、彰」
「いや、でも兼次さん。俺はパーティが危険になるのはよくないから、少しでも危険をなくそうと思ってるんだ。前回で俺は学んだ。同じミスはしないってな」
「……そうか。なら、彰の言い分もわかる。でも、俺らはパーティなんや。全員の意見をまとめて、かみ砕いて、行動に移す。そんな話し方やったら決まる物も決まらへん。少し冷静になって話し合いをせなあかん」
「わかった……」
ああ、そう言う事か。今わかった。
彰さんは少し考えが単純なんだ。自分なりに考えているが、思った事に一直線なんだ。
「じゃあ、多数決を取るで。俊の意見の52階層を少し様子見する、に賛成のやつ」
すると手を上げたのは僕を含めて4人。大樹さん、小百合さん、河合さん。最初から僕と組んでいたメンバーだ。
「で、彰の意見の52階層は51階層に慣れるまで進まない、に賛成のやつ」
それには、彰さん、美優さんの2人。
桐島君が手を上げていない。
「佑は上げてへんけど、どっちなんや?」
「俺はどっちでもいいです。どっちにしても俺は守られる事が多いので、皆さんの意見に従います」
桐島君は消極的だな。でもこれで多数決は僕の意見が優位になった。
「兼次さんはどっちなんだ?」
「俺はみんなの意見を尊重するから、この場合なら多い方の意見を採用する。でも彰達の意見をないがしろにしないためにしっかり俊の意見をかみ砕いて二人を説得する立場や」
「じゃあ、52階層は危険でも進むって事になるわけだな」
「そういうことやな」
その言葉に彰さんが眉間に皺を寄せる。
納得はしていない。だから兼次さんが説得するために確認する。
「で、二人はどこに引っかかってるんや? 危険なのは今までも同じやろ? 今回に限っては少し様子見するだけや。階層攻略ってわけやないから危険も少なくなるやろ?」
52階層の前半だけならそこまでの危険はないと僕は思う。
「一番はもし危険になった場合、兼次さんに一番迷惑をかけることだ。率先して殿を務める兼次さんは一番死ぬ確率が高い。もし兼次さんが死んだら俺らはこの階層で攻略も難しくなるし、冒険者として各が下がる。それだけは避けないといけないんだ」
そうか。彰さんは兼次さんが死ぬ可能性がある事が嫌なのか。
「なるほどな……まあ、俺は死なへんけどその心配があるんやな」
「そういうことだ。突拍子もない危険がある場合は仕方ないけど、わざわざ自分達からその危険に足を踏み入れるのはダメだろ」
と言う事は、兼次さんの危険が少なくなるならいいってことか?
そう思い僕は手を上げて発言する。
「でしたら、僕も殿を務めます。兼次さんと二人なら生還の可能性は跳ね上がりますよね?」
すると兼次さんが驚いた顔を向ける。
「俊も殿か……俺としては俊が生き残るほうがパーティとしてはいいと思うんやけどな」
「いやいや、このパーティは兼次さんの方が必要ですよ。それに僕も死ぬつもりはないんで、殿を務めても生還しますんで」
51階層なら一人でも生還できる自信はあるから、52階層でもできると思ってる。だから僕としてはこの殿の問答は不要なんだ。
「それと、この話は今回の52階層だけにしましょう。50階層以降はそれまでと全く条件が違う可能性があります。52階層はもしかしたら51階層と違うかもしれないんで、それを見る事は必要だと思います。でも、もし52階層が51階層と同じような環境なら、今までと同じと言う事でこれからは様子見は自分達がその階層に慣れるまでしない、にしましょう。それでどうですか、彰さん?」
彰さんを見て返事を待つ。
すると「仕方ないか」と言うような表情を僕に向けて彰さんがため息をつく。
「……わかった。今回は奥山の意見を聞こう。でも言ったからにはやりきれよ? 最後、兼次さんに任せて逃げるなよ? それをしっかり心に刻めよ」
「もちろん。わかってます。彰さんありがとうございます」
頭を下げる。すると彰さんは少しだけ僕から目線を外した。
「じゃあ、それでええか? 美優はどうや? 彰は了承したけど、美優が嫌なら考えを変えなあかんからな」
「私はアキ君がいいならいいよ。多数決で決まってるし、これ以上パーティの空気を掻きまわしたくないから」
「はははっ、そうか、ありがとな」
美優さんはそこまでこだわってなさそうだ。兼次さんが「すまんな」と笑う。
「他に意見が無いならこれでいこうと思うが、ええか?」
と兼次さんが全員を見渡すが、みんな頷いた。
「じゃあ、これで方針は決まった。今日は52階層の様子見をする。前回みたいに2時間進んで階層の性質を確認する。往復4時間や。それを踏まえて帰ってきてから次の方針を決める。それでええな!」
「「意義なし!」」
そして、今日のダンジョン攻略の方針が決まった。
僕達が席から立ち上がると心配そうにシルクさんが見ていた。僕に用事があるみたいで声をかけられる。
「今日も色々声が上がってましたね……」
「シルクさん。まあ、最近は考えの違いでぶつかりますね。でも、最初はそんなものでしょ。このパーティが全員揃って行動し始めてからまだ少ししか経ってませんし」
「そうですね。でしたら安心ですけど……」
シルクさんがため息を吐きそうな表情をする。何か気になる事でもあるのだろうか?
「何かありましたか?」
「アンズさんからシュンさんに伝言を貰ってます」
「杏子さんから?」
なんだろう。別にまだ杏子さんと合流するタイミングでもないし、用事は無い気がするが。
「……今日もし帰ってくるなら夜に少し話をしたい、とのことです。俊さん達、今日は51階層みたいに52階層を様子見して帰ってくるんですよね?」
「そうですね。それにたぶんしばらくは日帰りばかりなので、階層で寝泊まりする予定はないと思います。もちろん今日も帰ってくるので、杏子さんに了解と伝えてもらっていいですか?」
「わかりました。アンズさんは午後からギルドの訓練場にいるみたいなので、伝えておきます」
訓練場って事は、また何か魔法を開発しているのだろうか。少し気になる。
すると河合さんが呼びに来た。
「奥山君、みんな準備できてるよ。早くしないと、彰さんが怒るよ?」
「あ、ごめんごめん。じゃあ、シルクさんお願いしますね」
「わかりました。シュンさんとマユさんも、気を付けてくださいね。ご検討お祈りします」
「うん、ありがとシルクちゃん。行ってくるね!」
「行ってきます」
そして、僕達はギルドを後にした。
彰さんに「遅いぞ」と言われたが、シルクさんに捕まってたから仕方ないでしょう。
少し心にモヤモヤが残っている状態で僕は52階層に向かった。




