57話-3「51階層」
「じゃあ、二組とも同時に攻撃できるように後ろの8体が合流する様に合わせましょうか。まゆちゃんか俊くんが魔法で壁を作って足止めできる?」
そう言った小百合さんに僕は首を振る。
「……いや、この広さを埋める壁を作るなら、かなり魔力を使いますよ。その後僕は魔法使えなくなると思います。だったら、僕と河合さんで先の8体を一気に倒して、後ろの8体に取り掛かった方がいいと思います。もし、前のモンスターを倒しきれなかったらこっちも二手に分かれましょう」
「なるほどな。魔力量を考えたらそうするべきやな。わかった、俊の考えでいこか」
「ありがとうございます」
「でも、できる限り先の8体は一撃で倒してくれ。前も言ったけど、ポーションは経費やから魔力は遠慮せえへんようにな」
「「了解です」」
二人で魔法を合わせるならそこまで多くの魔力は使わない。イメージとしては、今日の最初の河合さんの『フレイムバンナート』ぐらいの威力でいい。
「あっ、『エクスプロージョン』は使うなよ? あの威力は崩壊する可能性があるからな」
「ですよね。わかりました……」
河合さんが少し残念そうにする。
本当に洞窟が崩壊したら先に進めないからな。仕方ない。
「じゃあ、始めるで!」
兼次さんの号令で魔法を構築する。
杖を構えながら河合さんが構築する魔法は炎魔法。そして僕が構築するのは風魔法。この組み合わせは少し懐かしい。
いつも通り、ホブゴブリンが僕達を見つけた瞬間走り出した。そして、後ろから来たホブゴブリン達も僕達を見つけて走り出す。
一応兼次さんと大樹さんが盾を構えて前にでるが、それ以上は進まない。
ホブゴブリンの前衛と後衛の距離に差が出てくる。この状態で先の8体を全部倒すには、少し工夫しないとな。
「奥山君、これ」
河合さんも同じことを思っていたようだ。
「うん。横じゃなくまっすぐ広がる様に、だな」
それを聞いて河合さんが頷く。
「じゃあ、いくよ!」
そして魔法を放つ。
「『フレイムバンナート』!」
「『ウィンド・ストーム』!」
河合さんの炎魔法が勢いよく燃え上がる。それを僕の魔法が前方向に押し流す。その魔法は火炎放射の様に前方に向かって勢いよく燃え、走ってきたホブゴブリン達をとらえた。
前よりも精度が上がり、僕らの呼吸も合っている事で断然威力が上がっている。
後ろから来ていた8体も巻き込み、ギリギリ避けた数体と炎から逃げるように出て来た所々燃えたホブゴブリンを合わせて6体。全て前衛の武器を持ったホブゴブリンだけだ。
それ以外はこの炎で倒せている。
「よし。じゃあ、後始末するで!」
そして兼次さん達が駆け出した。
◇
「やっとやな……」
数十メートル先に見えたのは51階層の出口。いつもの様に洞窟の様な形状の穴が見えた事で安心する。しかし僕達は今、近くの大きめの岩の裏に隠れて様子を見ていた。
ここまで13時間弱。やはりダンジョン階層内では100%安心できるわけではないので、休憩しても思っているよりも精神力が削られている。体力はレベル上昇の為まだ余裕はあるが、精神力はレベルではどうにもならない。
その状態で13時間経過して、いつもの出口が見えた事に達成感が沸々と沸き上がってくる。
「しかしまあ、あの数が最後にいるとはな……」
しかし、出口が見えただけで攻略終了とは行かず、いつも通り出口の前にはモンスターが陣取っていた。しかも今回はゴブリンが数十体わらわらといる。
「……31体かしら。それもただのホブゴブリンってわけではなさそうね。奥に1体派手なのがいるし、その周りに2体少し派手なのがいるわね。ゴブリンリーダとその側近みたいな感じかしら?」
「ゴブリンリーダーか。厄介やな。今まで以上に統率を取りよるで。しかもこの数や」
僕が見ても厄介だと思う。
しっかりと装備で身を包んだゴブリン。あれがゴブリンリーダーだろう。
そうなると、ゴブリンリーダーが1体。それに近いのが2体。ローブをかぶっているのが4体。双剣を持っているのが4体。盾が6体に弓が4体、片手剣が10体だ。こいつらに一気に来られたら物量でやられる。
「でも、今まで通りに河合と奥山の魔法で一気に蹴散らせるだろ。そうすれば数も減るし、残りを掃除するだけでいけるんじゃないか?」
「そんな簡単な話じゃないだろ。初めて見るゴブリンリーダーがいるわけだし、どういう行動するかわからない。それにあの単体だけでも十分な強さがありそうだぞ?」
「だよね。あれは強そう。それにリーダーって言うだけあって指示してきそうだよね」
「だったら先にリーダーを潰すか」
「それができたら楽でしょうけど。たぶんそうさせないように周りが動くわよ」
「そやな。でも、あいつらを倒すにはまずは数を減らすことが重要やな。やし、彰の言う通りまずは真由と俊の魔法で減らせる数まで減らそか」
そう言って兼次さんがこっちを見た。それに僕達は頷く。
「そうですね。まずはそれしかないですしね。でも、この距離なら届かないよね? どう、奥山君?」
「さっきみたいな縦方向でも難しと思う。もう少し近づかないと」
100メートルほど離れていると今の僕達では魔法が当たらない。どれだけ頑張っても50メートルぐらいが限界だ。『コールドエア』なら空気を冷やすだけだからもう少し先までいけるかもしれないが、ホブゴブリン相手では効果が薄い。ここまでで数回試したが、単純に変温動物には効果が薄いようだ。
だから選択するのは河合さんが最も得意とする炎魔法。『エクスプロージョン』が使えないなら『フレイムバンナート』になる。
だったら、この距離をどうやって詰めるか。
すると河合さんが案を出した。
「例えばですけど、私達2人をみんなで囲って進んでみませんか? 魔法を完成させると見たらばれるなら、周りから見えないようにすればいいんじゃないかと思うんです。たぶん、魔法攻撃だとわかると一気に雪崩れるように来るかもしれないですけど、魔法だとバレなかったら数体だけ出してきそうじゃないですか? 様子見的な感じで」
可能性はなくはないけど……。
「難しいんじゃないか? バレるだろ?」
「でも、今話してて思ったんですけど、バレてもバレなくてもここからの攻撃手段はないですから、近づくしかないですよね? 小百合さんの射程でも遠いわけですし、武器での攻撃ならもっと距離を詰めないといけないですから。それにもし一気に攻めてきたら状況は同じになるので、試してみる価値はあると思いませんか?」
「ほんとだ。その通りだ」
河合さんの意見に僕も同意する。
どっちにしても今の状態では攻撃できないし、今よりも距離が近い状態で一気に近づいてくるなら、今よりかはマシだろう。様子見で出て来た数体だけなら兼次さん達が余裕で対処できる。
「ほんまやな。真由の言う通りやな。じゃあ、そうするか」
河合さんの意見に全員が賛同した。
「じゃあ、佑。全員に強化魔法を。俊も魔法でええな」
「はい。魔法でいいです」
桐島君がそれぞれ支援魔法をかけてくれる。
「準備はええか。真由と俊の魔法を隠しながら一気に距離を詰める。数体だけ出てきたら俺と美優と小百合で対処する。大樹と彰はしっかり二人を隠してくれ」
「「了解」」
「じゃあ、行くで!」
そして、51階層最後の戦闘が開始した。
岩陰を順番通りに出て歩き出す。その瞬間僕と河合さんは魔法を構築する。短詠唱での魔法になるのですぐに魔法は完成するが、どのタイミングでも放つことができるように早めに構築する。
そしてゴブリン達は……。
「……はっ! 数体出て来たぞ! 河合の言った通りだな。兼次さん、美優頼むぞ!」
「ああ。距離が詰まったら行くで、美優!」
「うん。兼次さん」
出て来たホブゴブリンは片手剣を持っている4体。本当に様子見なのか歩いてこっちを伺うように見える。
「小百合、射程範囲に入ったら一体倒せ」
「わかったわ。一撃で倒すわよ」
そして、小百合さんの射程範囲に入った。
「ポイントシュート、連装、パワーシュート!」
小百合さんから放たれた矢が向かってきたホブゴブリン1体に命中し絶命させた。
「よし、これで様子見が……」
その瞬間隣に居た別のホブゴブリンが大きく叫んだ。そして、本体のホブゴブリン達が叫びだす。その声は51階層に響き渡るほど大きく、洞窟の中を木霊する。
その叫び声は恐怖を覚える程の大合唱。ワイバーンや『独眼のウェアハウンド』とはまた違った威圧。集団による数の恐怖が一瞬足を遅らせる。
その瞬間、本体のホブゴブリン達が一斉に走り出した。
「真由! 俊!」
「わかってます!」
兼次さんが声を出すよりも先に河合さんと合図をして魔法を完成させる。
「美優! 彰も行くぞ!」
「う、うん」
「ああ」
一瞬戸惑っていた美優さんがハッとした顔になり、彰さんが美優さんの肩を叩き3人で迫ってきていたゴブリン3体に攻撃を仕掛ける。
攻めてきた数十体のゴブリンが射程距離に入った瞬間、魔法を放つ。
この距離なら当たる!
「『フレイムバンナート』!」
「『ウィンド・ストーム』!」
二人の慣れ親しんだ炎と風の合体魔法。それにより爆発するように炎が攻めてくる大量のホブゴブリン達に命中した。
「よし!」
これで大多数が減ればいいんだが。
魔法が継続している内に、兼次さん達が3体のホブゴブリンを倒した。これで残り27体。魔法でどこまで減るかが……。
「……っ、おい!」
その時、大量の水が炎に包まれていたホブゴブリン達に降り注いだ。
これは完全に魔法だ。相性を見極めて対する属性の魔法で相殺した!?
炎が大量の水によって消え、水蒸気が晴れると、攻めてこなかった4体のローブを被ったホブゴブリンが持つ杖が魔法を撃った後に残る光を放っていた。
そして一番奥にいるゴブリンリーダーが何かを叫んだ。
その瞬間統率が取れた様に3組の陣形に分かれる。
これはやばい。相手の数が半分も減っていない。数が勝っている状態で連携を取られたら一瞬の隙が命取りになる。
相手の陣形を見て兼次さんが声を上げる。
「みんな! 言ってた二組に分かれろ! 各チームで対処や! 彰俺らは左や!」
その声で全員が一斉に動こうとする。
しかしその指示に合わせて彰さんが指示を飛ばした。
「河合! 奥山! もう一回! なんでもいいから、魔法を放て! 数を減らせ!」
「え……?」
いや、ここは違う!
「は、はい! ファイア……っ!!」
「危ない!」
河合さんに向かって飛んできた2本の矢を剣で弾く。しかし、河合さんは一瞬の戸惑いで魔法を中断した。
大樹さんはすでに前衛の役割をしようと僕達の少し前に移動していた事で僕が守りに入らないといけなかった。その一瞬で先手が打てなくなる。
「俊っ!」
大樹さんが叫ぶ。目の前に迫るのホブゴブリンは6体。サブリーダー、ローブ、弓、双剣、盾、片手剣が1体ずつだと一瞬で認識する。
この数なら大樹さん、小百合さん、河合さん、僕の4人で対処は可能だ。そうなると、兼次さん側が手薄になる。桐島君が支援と回復を担うなら、攻撃手段が少ない。
早く片付けて兼次さんの方に加勢に行かないと。
「大樹さん、盾をお願いします! 小百合さんは弓を倒したら兼次さん側も見て攻撃を! 河合さんローブを倒したらサブリーダーを!」
わかってるだろうが、大樹さん達に指示を飛ばす。とにかくここは油断なんかできない。
片手剣と双剣は僕が一気に倒す!
そして、剣を構え走り出した。




