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現代にダンジョンができたら潜りますか?〜私は今の仕事にしています〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第5章「中級冒険者」

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49話-2「独眼のウェアハウンド」



「踏ん張れ! お前らぁぁっ!」


 大樹さんが今まで以上に大きな声で叫ぶ。

 その声に高応して僕達も全身に力を入れる。


 そして『狂化』した『独眼のウェアハウンド』が雄叫びを上げた。



――咆哮。



 その威圧は、先ほどとはレベルが違う。

 全身に力を入れて対応するが、意識が飛びそうなほど圧力が押し寄せる。全身にバリバリと電気が走るような感覚が、意識を刈り取りにかかる。



 やばすぎる。

 でもここで落ちたら、死ぬ!


 歯を食いしばり、その気持ちだけで踏ん張る。


 それはたったの数秒……しかし数分に感じた。そして咆哮が収まった瞬間、身体が動かず冷汗が流れる。

 これが咆哮による硬直。

 しかし、恐怖まで感じていないのが幸いしたのか完全な硬直は一瞬だけで、少しずつ動き始める。


 だが、その数秒が命取りになる。


 狂化した独眼のウェアハウンドが動き出す。その標的は一番前にいる大樹さんでもなく、その近くにいる僕でもなく。一番攻撃リソースが大きい河合さんだった。


 敵の目線が河合さん一点に集中したかと思うと、一瞬で距離を縮める様に地面を蹴り移動した。



 さっきと同じ目は食わない! 絶対に間に合わせる! 動け! 動け! 動けっ!!


 その感情と共に、硬直していた体が完全に動き出す。



 そして『瞬動』によって、河合さんに肉迫していた独眼のウェアハウンドの前まで距離を詰める。


「行かせるかぁぁぁっ!」


 叫びながら、薄青紫に光る軌跡を描きながら『リア・スラッシュ』が独眼のウェアハウンドの胴体をとらえる。


「……なっ」


 しかし、その刃は肉を断つことができず、薄皮一枚斬るに終わっていた。


 硬すぎる! さっきとはレベルが違うぞっ!

 でも一瞬止まった。その間に大樹さんならっ!


「うおぉぉぉっ! シールドバッシュ!」


 思った通り大樹さんが割り込んで、独眼のウェアハウンドの顔面に盾をクリーンヒットさせる。


 そのタイミングで僕は河合さんを抱えて後ろに下がる。

 とにかくすぐに大樹さんの元に戻らないと。


「河合さん、僕はすぐに行くから。回復したら魔法で……」


 しかし、河合さんを降ろすと力が無いように座り込んだ。


「……やば、すぎ。なんで……なんで、奥山君は、耐えられてるの……」


 それは初めて聞いた弱音。


 河合さんが弱音を吐くなんて初めてだ。仕事でも聞いた事がない。凛としていつも前を歩き、明るく笑う。そんな河合さんが弱音を吐く状況……それほど恐怖なんだろう。


 そりゃそうだ。あんな威圧食らって怖くないわけがない。僕だって怖い。


 でも、きついかもしれないけど、そんなことは言ってられない。


「気合。河合さんもできる」


 ただ独眼のウェアハウンドの威圧に当てられてるだけだと。気合で乗り切れると。気合で乗り切るしかないと、僕は目でも訴える。


 その言葉を聞いて河合さんが歯を食いしばる。


「私にできるって……なんなのその目……」


 河合さんが僕の目を見る。どんな目をしていただろうか。でも言える事は、僕にできる事なら河合さんにでもできる。威圧なんて精神論だと。僕が知っている河合さんはこんな所で立ち止まらない。


 つまり、僕は河合さんを信じている。


「……奥山君もそんな目、できるんだ……本気で信じてるの? 私が耐えられるって? なに、それ……奥山君は耐えられて、私は耐えられない……?」


 河合さんが下を向く。


「えっ? それって……私だけ、逃げるって? この状況で? そんなこと、考えてたって……私が? みんなが戦ってるのに、私が……」


 そして、息を吸った。


「あぁぁぁぁぁっ!」


 その叫ぶ声は近くにいた僕の鼓膜を痛い程震えさせる。

 自分を鼓舞するための叫び。今まで感じていたであろう感情を全て発散するかのように。


 そして、座っていた体を起こす。


「ごめん……いや、ありがとうかな。弱気になってた。でも、大丈夫。まだまだ怖いけど、やれる」


 河合さんが僕の目を見る。

 その目はさっきまでとは違う。それだけの気合が河合さんから感じられた。


「だよね。河合さんならいけると思ってたから」


 そして、河合さんが笑う。


「なにそれ。そんな事言うキャラだった?」


「ダンジョンにいたら変わるんだよ。って、河合さんも言ってたし?」


「そんなん言ってないよ。でも、奥山君、変わったね」


 ふふっと息を吐いた。そして、武器を構える。


「じゃあ行くよ!」


「了解! 援護は頼んだ!」


「任された!」


 そして、僕は走り出す。


 まずは大樹さんに接近して僕も戦闘に加わろうと、そう思った瞬間、


「が、はっ……」


 大樹さんの盾が砕けた。そして、独眼のウェアハウンドの蹴りを食らって吹き飛ばされる。


「大樹さんっ!」


 それを見て焦る。しかし、次に起こさないといけない行動は僕がその代わりをしないといけないことだ。



 止まるなっ!



「小百合さんっ!!」


 後ろにいる小百合さんを呼ぶ。

 それの意味が分かったのか、威圧から自力で回復していた小百合さんが叫んだ。


「俊くん! 『ファーストアップ』!」


 さっきも受けた支援魔法。それにより、動きが一段上昇する。

 今ここを対応できるのは僕だけだ。大樹さんが回復するまでやり切れ。ここで僕が倒れたら終わるぞ!


「はぁぁぁぁぁっ!」


 一心不乱に剣を振る。

 相手に攻撃をさせない、それが最大の防御だ。大樹さんみたいに受けられないなら、攻撃させる隙を与えるな!


 独眼のウェアハウンドの片手での攻撃が僕の両手での攻撃の威力と変わらない。それに加えて蹴りが混ぜ込まれている。隙などまったく生まれない。

 これほど戦闘のレベルに差があるのかと悔しさで歯を食いしばる。身体能力ではまったく勝てないと、一人では勝てないと剣を受けられる度に感じる。


 だから、こちらも階段を駆け上がるしかない。少しでも対応できるように、対応させないように。


 その場で感覚で、思考を上回る感覚で!


 意識外で魔法が構築される。『ファイアーボール』を剣での攻撃に混ぜながらぶち当てる。

 河合さんの援護も独眼のウェアハウンドに当たっている。これでまだ、対応できる。


「らあぁぁぁぁっ!」


 その攻防が数十分に感じる。でも、実際は1分ほどだろう。


 そして、目の前に盾が滑り込んだ。


「俊! 待たせた!」


 完全には回復していないだろう。ポーションを飲んでも傷はすぐに回復しない。それに疲労は溜まったままだ。

 でも、大樹さんはそんな体を僕と独眼のウェアハウンドの間に新しい盾を割り込ませてスキルを発動させた。


「パリィ!」


 弾かれる独眼のウェアハウンドの剣。


「攻めるぞ! 俊!」


「はいっ!」


 小百合さんの矢による援護も加わる。

 大樹さんと僕による剣での攻撃。二人がかりでなら独眼のウェアハウンドも全ての攻撃をいなせない。敵の体に切り傷は増え続ける。そして、僕達の攻撃の隙間で小百合さんの矢が当たる。威力が弱いもののその攻撃は隙を作る。河合さんも火球や岩塊を当て、それもダメージへと繋がる。


 しかし、それでも独眼のウェアハウンドに決定的なダメージを与えていない。

 これが永遠に続くのなら、体力の限界で僕達が負ける。四人がかりでも倒しきれない。それがネームドモンスター『独眼のウェアハウンド』だと。


 いや、そんなわけない。倒せる! 倒す、倒す、倒す!


 何かしら一手とタイミングが足りないだけ。

 やるしかない。ただ、攻撃し続けるしかない。


 何か、何か、無いのか!


 一心不乱に剣を振り続ける。切り傷はできている。でも、致命傷にはならない。大きな一撃を与えられる隙が……。


「……っ!」


 魔力が剣に籠る。それは無意識だった。間違えて『ファイアーボール』を構築する予定の魔力を剣に込めてしまったと。

 しかしそれが功をなしたのか、魔力が全て剣に吸い込まれる様に注がれた。


 そして、その剣の光る軌跡は濃い青紫に変わる。


 感じる。魔力が変化している事が。



 そして、振り抜いた。


「はあぁぁぁぁぁっ!!」


 渾身の一撃。それはさっきと変わらない威力だ。しかし、その後が明らかに変わっていた。


 傷跡の色が徐々に紫に変わる。

 そして明らかに独眼のウェアハウンドの動きが遅くなった。

 その効果がはっきりとわかった。『毒』だと。この剣に付与されていた毒の効果が初めて発動した。


 今まで込めていた魔力量が少なかったのか、ただ運が良かったのか。しかし今はどうでもいい。


 いける! これなら、いける!


 大樹さんと合図しなくてもいい。それだけ、この隙は明らかだった。

 一心不乱に『スラッシュ』と『リア・スラッシュ』を放ち続ける。SPの消耗は激しい。でも、ここが正念場だと。


 そして、もう一つのタイミングが来た。


 4人による攻撃を捌ききれなくなった独眼のウェアハウンドが自らの骨と肉を断たせる様に無理やり僕達の攻撃を受ける事で間を作った。


 そして再度、独眼のウェアハウンドが息を吸った。


「来るぞっ!」



――咆哮。



 その瞬間、圧倒的な威圧が風圧と共に押し寄せる。


 わかっていた。どれだけの威圧が来るかを。これだけ至近距離でも、一度くらった攻撃なら、今なら、気合で耐えきれる。


 そして、距離を置いている河合さんも、


「わあぁぁぁぁぁっ!!」


 声を張り上げながら、気合で押し切っている。



 うん。いける!



 咆哮が止み、河合さんの魔力が揺らぐ。

 そして、後ろにいた小百合さんが叫んだ。


「大樹! 俊くん! 『セカンドアップ』!」


 大樹さんが接近する。

 そして、


「カウンターシールド!」


 独眼のウェアハウンドが振り下ろした剣を盾ではじき返した。

 相手の攻撃が大きい程、タイミングはシビアになるが、今ならどのタイミングでも跳ね返せる。それぐらいの力量を大樹さんは見せた。


「もう一丁! シールドバッシュ!」


 大樹さんの盾による追撃によって独眼のウェアハウンドの顔が跳ね上がる。


 たたらを踏む独眼のウェアハウンドを見て、僕は魔力を練る。


 小百合さんの『セカンドアップ』によって、身体能力はさらに向上した。そして、それは魔法にも影響する。

 この支援魔法の本質は身体に流れる魔力の動きが活発化する事による身体能力の向上だ。つまり、魔力の流れが加速する。そうなれば魔法を練るためのスピードが変わる。魔力量が増えるわけではないが、練るスピードが変わればそれだけ早く魔法が放てる。練り上げる魔法を使う場合には適さないが、今の僕にとっては好都合だった。


 イメージは氷。全てを凍らせる氷を今までの最速で放つ!


「大樹離れて!」


 たたらを踏む独眼のウェアハウンドから大樹さんが離れた瞬間、小百合さんの矢が数十本降り注いだ。

 そしてそれもこちらへのお膳立て。僕の魔法が当たりやすいように独眼のウェアハウンドをその場に縫い留める。


 そして僕は放つ。


「『アイスエイジ』!」


 一瞬にして氷の牢獄に独眼のウェアハウンドを閉じ込めた。

 青白く凍る氷の柱。


 しかし、これだけではこの独眼のウェアハウンドは倒せない。現に光の粒にはなっていない。

 わかっている。これで倒せたらラッキー。ただのラッキーだ。

 この魔法の目的は倒すことじゃない。この場に独眼のウェアハウンドを少しでも長く留めておくことだ。

 そうすれば、何とかなる。


 十秒でいい。一息入れる時間があれば魔法は完成する。


 だから、最後は……。


「『壮絶たる爆炎の王よ。我に全てを破壊する一撃を貸し与え給え。』」


 後ろで魔力が弾ける音が聞こえた。それが魔法の完成の合図。


 そして僕達はその場から離れる。



 そして放たれる魔法。


「『放て。』」


 それは今までで見た事がない魔力量。河合さんの全力だ。


「『エクスプロージョン』!」


 轟音と共に氷の柱ごと『独眼のウェアハウンド』を破壊するかのごとく爆発が起こった。

 圧倒的な威力。暴風の様な爆風が周りの石や砕けた氷を飛ばし、バシバシと体に当たる。クイーンビーモスで使った威力よりも強い。


 そんな魔法が独眼のウェアハウンドを襲い続ける。




 数十秒後、爆風が止み、砂ぼこりが晴れていく。



 そして爆心地を見た。



 そこには、立っている影が一体。


「嘘だろ、まだ生きてるのか……」


 大樹さんがこぼす。



 ……でも、僕はわかっていた。


 だからこそ一番に動き出していた。


 そして、さっき聞こえたアナウンスの声。

 スキルレベルが上がったというアナウンス。


 剣スキルのレベル4のスキル――



 ――『パワーチャージ』



 淡く光る様に輝く黒い剣が一定の時間が経った事で淡い光がより一層白く輝く。


 爆風の中飲んでいたSPポーションでSPが回復していく途端にスキルに込められていく。


 そして、雄叫びを上げている独眼のウェアハウンドの目の前に『瞬動』で潜り込む。


 なぜ倒していなかったと確信していたのか。まだこいつが動けると確信していたのか。こいつが動く前に動く事が出来たのか。


 それはただ一つ。

 こいつが『独眼のウェアハウンド』だったからだ。



 この状況を予想していなかったのか、独眼のウェアハウンドが驚いた様に雄叫びを止めた。


 しかし、もう遅い。


「短い因縁だったけど……終わりだ」


 横に構えていた剣を振り抜く。


「リア・スラッシュっ!」


 新しく覚えた『パワーチャージ』によって倍増した威力による一撃。

 斜め上に振り上げるように振り切った光る黒い一閃は、青紫の軌跡を残しながら『独眼のウェアハウンド』を斬った。



 訪れる沈黙。



 たったの1秒の静寂がその攻撃の結果を伝える。



 ゆっくりと、僕の横に『独眼のウェアハウンド』がうつ伏せに倒れこむ。




 そしてその数秒後、『独眼のウェアハウンド』は光の粒となって消えた。



 身体に注ぎ込まれる光の粒。



 その心地よさが終わったと知らせてくれる。



 そう、今――




 ――『独眼のウェアハウンド』を倒せたのだと言う事を。






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