44話-3「杏子との合同攻略」
ゲートをくぐりギルドに向かっている途中で河合さんに少し質問をする。
「河合さんも今日は帰るの?」
21時を回ったので家に着くのが遅くなると帰る事自体が億劫になる。
このメンバーの兼次さん以外はダンジョンの外にある自宅から通っている。河合さんもそうなので、今から帰るのかと確認をする。
「んー? 今日は帰らないよ。明日も朝から来るなら別にダンジョンの中にいればいでしょ? いちいち帰るの面倒臭いから。奥山君は帰る予定だった?」
「一応帰ろうかなーって思ってたけど。宿泊は思ってるより高かったからさ。節約できればと思ってるんだけど」
河合さんは帰らないのか。
昨日はダンジョンの中に泊まったからその楽さを覚えている。それを知った今、明日もダンジョンに潜るのであればダンジョンの外の家に帰る事が少し億劫に感じてしまっているのだが、今の収益でダンジョン内に泊まるのは少し金銭的に抵抗がある。
「でも、奥山君って泊まったのギルドの上でしょ? 小百合さんから聞いたけど、あそこかなり高いよ?」
「かなり? 少しだけとか、1割増しとかじゃなくて?」
「全然違うよ。ギルドって銀貨5枚でしょ? ギルドじゃなかったら今日予約してなくても銀貨3枚で泊まれるよ? 素泊まりでいいでしょ?」
「まじで!? むっちゃ安いやん!」
1割増しとかではない。約1.7倍だぞ!? ギルド高っ!
「ギルドが高いってだけなんだけどね。一応ここの相場を銀貨1枚が1000円ぐらいのイメージでいるとダンジョンの外よりも安いって思っちゃうけどね。外じゃ最近ホテルの宿泊費かなり値上がりしてるし、旅行で宿泊費が一番かさむよね」
「うん。ダンジョンの中の相場の事あまり調べてなかったから、それぐらいだと思ってたけど……まじか。まあ、初めてだから勉強料だと思えばいいんだけど」
河合さんの言う通り、銀貨1枚が1000円のイメージだった。ギルドマネーに記載されている数字がそうだから勝手に変換されてた。だったら、この金貨1枚の金額ってダンジョンの外でどれぐらいになるのだろうか。今30万円稼いでると思ってたけど、実際はそんなに稼げてないとか……。
「奥山君、ダンジョンの中の事あまり知らないよね。攻略ばかりじゃなくて、色々見て回ってもいいと思うよ。まあ、最初の1ヵ月なんてみんな攻略ばかりだけどね」
「そうだよなー。ダンジョンの中のこと全然知らないから見て回った方がいいよな」
言われると魔法やスキルばっかり練習していたから他の事は蔑ろだ。行った事がある場所といえば、武器とポーションの補充ぐらいだし。それも1,2回ぐらいしか行ってない。
「うんうん。じゃあさ、奥山君も私が泊まる予定の宿に泊まる? 新人の奥山君にレクチャーしてあげるよ!」
「ほんとに? それはありがたいよ。頼める?」
「もちろん。ふふっ、やっと奥山君にダンジョンでの先輩らしいところを見せられるよ。夜ご飯もいい所教えてあげる!」
「やった。それは楽しみだな」
今日は河合さんについて行こう!
「なんかそう考えると、新人研修時代を思い出すな。1週間別の支店で研修してたからその間はホテル暮らしだったな。夜は谷口と3人でよく食べに行ったな」
「懐かしいね。3、4年ぐらい前かぁ。今思うとあの頃は全然楽だった」
「それでもしんどいって言ってたけどな」
会社で新人だったころを思い出して笑いながら懐かしむ。
あの頃はこんなことになるとは思ってもいなかった。色々な意味で。
そんな河合さんと懐かしい話をしていたら、横に来ていた小百合さんが声をかけてきた。
「盗み聞きしてたみたいで悪いんだけど、俊くん達今日はダンジョンに泊まるのね。私達は帰らないといけないわよ。ね、大樹」
「明日もダンジョンなら俺もダンジョンで泊まりたいんだけどな。嫁が帰って来いってうるさいからな」
「大樹、その言い方は止めといた方がいいわよ。奥さんもあなたの事心配してるんだから」
「そうかな。まあ、結婚してたら自由にできないって事だ。独身の1人暮らしだからできるってことだな。今を噛みしめておけよ」
大樹さん、そんな事言ってるけど嬉しそうに話してるんだよな。
まあ、僕はまだ先の話だと思うけど。
「それか、俺みたいにずっと独身を貫くかやな」
と、兼次さんも参加してきた。
「兼次さんは結婚する気ないんですか?」
「俺は今んとこはなー、ないな。ダンジョン攻略を仕事にするって話した時に離婚したわ」
「えっ、マジっすか!?」
「その話初耳なんですけど」
衝撃的な兼次さんの話に全員が驚く。
「お? 言ってなかったか? まあええやんそんな話は。聞きたかったらまた飲みの席で話したるけど。それよりもギルド着いたしさっさとまとめ終わらせよか」
話ながらだと、ギルドに着くのが早い。
そのまま、兼次さん達とギルドに入り、待っていたシルクさんにいつも通りの報告とアイテムなどの換金をお願いする。
シルクさんが「今日は遅かったし、アンズさんが先に帰って来たので心配してました」と言っていたので謝っておいたが、それぐらいしか変わりはなかった。31階層以降もそれまでの階層での手続きと何も変わらないようだ。
「じゃあ、明日は34階層以降の攻略ね。兼次さんは他の3人とよね?」
「そうやな。前話した通り土日はあいつらとやな。平日は真由と俊が来れへんやろから、小百合達も合流してもええで。時間はいつも通りやし」
「わかったわ。だったら、平日はそっちに参加させてもらうわ。大樹もそうよね」
「そうだな。俺も参加させてもらうわ、兼次さん」
「了解。真由達も平日来れるんやったら合流してもええぞ。時間は朝やから合わんかもしれへんけど」
「そうですね。夜だけ合流するとかならできるかもですけど」
「夜だけやったらいつ戻ってくるかわからへんからな、戻るまで待っといてもらう事になるやろな。それは効率悪いやろ」
「夜だけは難しそうですね。だったら、平日にもし潜るなら奥山君と相談して来ます。いいよね、奥山君?」
「う、うん。いいけど」
急に振られたから返事にどもる。
というか、河合さんからダンジョンに誘われるとは思ってなかったからびっくりした。
「そやな、二人はその方がええやろな。レベルと攻略階層が追い付いたら50階層に向かって合流するで」
「わかりました」
大樹さん達はダンジョン攻略が仕事だから平日もダンジョンに潜っている。メンバーの都合上休日も潜る事が多いので平日に不定期に休みを取っているみたいだ。休日に僕達に合わせてくれるのはありがたいから、その分追い付けるように頑張らないとな。
「話すことはこれぐらいやな。よし、じゃあ今日は解散やな。お疲れさん」
「お疲れ様です」
兼次さんの締めで今日のダンジョン攻略は終了した。
そして各自ギルドを後にする。
「じゃあ、奥山君、泊まる場所教えてあげるよ」
「お願いします」
そう言った河合さんの後をついて行き少し大きめの建物に向かう。
「ここが、宿屋ね」
「へー、ここなー」
その建物はホテルのような建物ではなく、旅館っぽく木造建築だがレンガ風の石が使われている洋風の建物だ。
「なんか、見た目も良いな」
「でしょ? 中はそこまで広くないけど、泊まるだけなら不自由ないと思うよ。とにかく受付だけ終わらせよっか」
「わかった」
河合さんが扉を開けて中に入り、その後ろに僕もついて行く。
宿屋の中の1階はロビーで少しこじんまりしているが洋風な感じでおしゃれだ。
入ってすぐにある受付に向かい手続きをする。
さっき教えてくれていた通り、1泊が銀貨3枚だ。ギルドに比べて安い。この金額なら週2回なら泊まれそうだな。
手続きはギルドカードを見せてお金を先払いして終了し、部屋の鍵を渡された。
「じゃあ、荷物置いたら……って言っても『ポケット』に入れたらいいんだけど。一回部屋見たら10分後にはここに集合ね。夜ご飯にいいお店紹介してあげる」
「了解。そのお店楽しみにしてていい?」
「もちろん。ラポールみたいにダンジョンの外の料理じゃなくて、ダンジョン内のいわゆる異世界の料理のお店を紹介してあげるよ」
「いいね。実はそういう店行ったことないから楽しみにしてたんだよな」
食べたとすれば、出店の串焼きぐらいだ。あれもおいしかったけど、しっかりと異世界料理を食べてみたい。
「じゃあ、また後でね」
「はーい。あとで」
そして各自部屋に向かう。階は河合さんが3階で僕が2階だ。
階段で2階まで上がり、鍵に書かれた番号の部屋に向かう。
「えっと、203……ここか」
鍵がテンプルキーではなく昔の蔵の鍵の様な形なので少し不安だが、自分の部屋の扉の鍵を開ける。
「おお。思ってるより、悪くない」
部屋の中に入ると魔道具なのかランプが光っており、明りも確保できる。部屋の広さは通常のビジネスホテルよりも少し広いぐらいで8畳はありそうだ。ギルドの宿泊施設よりも狭いが、これぐらいで十分だ。ちなみに、手洗いなどは共有スペースにある。そこらへんはダンジョンの外には勝てないサービスだろう。
「さてと……」
防具など一式を脱ぎ『ポケット』にしまう。今のところ防具もギリギリ片手で持てる大きさの物だからいいが、フルプレートとかになれば収納できないだろう。それに容量が大きくないから防具と剣をしまうといっぱいになるから、すぐに使用しないものはギルドに預けている。
だからこの『ポケット』の上位の魔法を覚えたいな。
荷物は置くことが無いので部屋を確認したら鍵を閉める。そして1階のロビーに戻り、河合さんを待った。
河合さんもすぐに支度をして降りてきた。
「じゃあ、行こっか」
宿屋を出て河合さんについて行く。すぐに到着したようで、
「ここね。ザ、異世界って感じだから」
その建物は洋風の建物で入り口が扉ではなくスイングドアのお店だ。雰囲気がわくわくする。
中に入ると、4人掛けの丸机が並んでおり、カウンターには丸椅子が並ぶ。外国って感じだ。
「河合さん、ナイス。こういう店がよかったんだよ」
「でしょ? 洋画とかでこんな感じ見るもんね。ご飯も日本食じゃなくて、外食って感じだから」
そう言って、河合さんが料理と飲み物を頼んでくれる。
まず最初に持ってこられた飲み物にも感動する。
「樽のジョッキやん」
「いいでしょ。この店の飲み物は大体この入れ物だから。1杯目はビールみたいなお酒で良いでしょ?」
「うん、大丈夫」
入れ物からしていい。泡もいい感じに立ってておいしそうだ。
「じゃあ、まずは乾杯しよ。乾杯!」
「乾杯!」
ジョッキを合わせるとゴツって音がした。これもまたいい。
一口お酒を飲む。うん、味はどうかわからないけど、雰囲気だけで美味いな。
すると、料理が運ばれてきた。
「これは?」
目の前に置かれたのは肉を一口サイズに切って盛り付けられたステーキの様な物と、ポテトを揚げたモノが山盛りだ。
「何の肉かわからないけど、たぶん牛肉ぽいものかな? あとはポテト」
「……何と言うか、雑だな」
「うん、雑。大体大盛で来るよ」
見たらわかった。このステーキも3人前ぐらいが盛られているから、高級料理店とかのおしゃれさは皆無だ。しかし、こういうのを待っていた!
「じゃあ、いただきます!」
そしてフォークで肉を刺し、口に入れる。
「どう?」
河合さんがニコニコしながら感想を待っている。
「……なんと言うか、美味しくなくは無いんだけど……」
「あはははっ! 奥山君もそんな反応かー! 私もなんだけどね」
と、笑いながら河合さんも肉とポテトを頬張る。
うん。何と言うか、見た目通りに味も大味って感じだ。まずくはないんだけど、日本食を知っているとおいしくはないと感じてしまう。日本食がおいしいから仕方ないんだけど。
「で、期待した通りだった?」
「期待した通りだったって言われたらなー。うーん、見た目は期待通りだけどさ。味は……ね?」
「はははっ。でもそんなもんだよ。日本のご飯がどれだけおいしいかってね。まあ、いい所って言ったけど、おいしい所とは言ってないからね?」
「ははは、やられたな。でも、この雰囲気はかなりいいから好きだな」
「でしょ? いいお店だよね、ここ」
見た目と雰囲気はいい。味は仕方ない。だから異世界を楽しむならこういう店はまた来たいな。
「気に入ってくれたお礼に今日は奢ってあげる」
「ありがと。お言葉に甘えさせてもらうわ」
こうやって同僚と久しぶりに飲むお酒はおいしかった。




