第九十八話 福山雅治事件
随分と日差しが優しくなった、時は既に三月を迎えた
五稜郭は特に変わった様子はない
山崎くんが言うには旧幕府軍はサキュバの存在に気づいていない
夢魔の話も全くなく、静かすぎて逆に不気味だ
新政府軍は既に品川を立ち、月末には青森に入るという
土方「いつ仕掛けるか」
原田「神田たちが言うには日が長くなれば、奴の傷も癒えるのが早くなると言っていた」
瑠璃「日が長くなればって、もう直ぐですよね!春分の日」
全員「春分の日?」
瑠璃「え?春分の日って言わないんですか?」
全員「・・・」
まあいい、いずれそう言う日がくるよ!
とにかく間もなくという事を確認した
少し外を歩きたくなったので出掛けようとしたら
「散歩か?」
振り向くと土方さん、いや歳三兄さんと総司がいた
「散歩というか・・・散歩、ですかね」
「何それっ、僕も行くよ。歳三兄さんも行くでしょ?」
「あ、ああ。慣れねえなその兄さんってよ」
珍しい組み合わせで町に出た
すると見知った背中が民家を出たり入ったり
あっちこっちで呼ばれ忙しそうだった
「何してんだ?」
「山崎くんだ、忙しそうだね」
「鍼でも打ってるんじゃないですか?」
彼は頼まれたら断われないのだろう
一生懸命に走り回っていた
「あの男は誰だ」
「どこですか?」
「あっ、あれ歳三兄さんの句集を見て喜んだ人ですよ」
「本当だ、雅治さんじゃないですか」
「あいつは雅治って言うのか」
「え?あっ、違います。えっと福山さんです」
「それは苗字でしょ?雅治が名前なら間違ってはないんじゃない?」
「いえ、彼は福山さんですが雅治さんではないんです。つい反射的に福山ときたら雅治ってなっただけで意味はありません」
「・・・」
「おまえ、何言ってるんだ」
確かに!何言ってるんだ私っ
福山ときたら雅治ってこの二人に説明しても
伝わるわけがない
「山崎くーん」
私は逃げるように山崎の元へ走っていった
「逃げられちゃいましたね」
「あいつたまに訳の分からん事を言うが、大丈夫か?」
山崎くんはやはり鍼を打っていた
痛くない上に直ぐに効くと評判らしい
そして、なんと、
福山さんは施術師、いわゆる按摩が出来る人だった
山崎くんと福山さんはそういう点から親しくなったらしい
知っていたらあの時の筋肉痛
鍼ではなくマッサージを頼んだのに
夕餉の席ではその話で持ちきりだった
沖田「ねえ、それはそうと雅治って誰なの?」
原田「雅治?誰だそれ」
また、総司はややこしい振りをしてくる
沖田「ん?瑠璃があの施術師の事をそう言ったんだ。でも実はそんな名前じゃなくてつい反射的になんて言うからさ。気になるじゃない、彼とは別に雅治って男が居るって事でしょ?」
土方「総司、その事はもういいだろ」
斎藤「雅治・・・」
瑠璃「もうぅ、未来には福山雅治という歌手で役者がいるんですよ!老若男女からこよなく愛されている人物です!」
とうだ、これでいいでしょ もう何も聞かないでよ?
斎藤「瑠璃もその者を愛しているのか」
全員「!?」
瑠璃「えっ!」
斎藤は無言で部屋に戻ってしまった
「・・・」
土方「あー、あれだ、嫉妬ってやつだな」
瑠璃「嫉妬!?」
原田「あの斎藤が皆の前で嫉妬するとはなぁ」
沖田「ごめん、瑠璃」
山崎「・・・」
瑠璃は、はぁ…と大きなため息を吐いて斎藤を追った




