第九十六話 克服の仕方
主こと父親から渡された教本とにらめっこする日々が続いた
にらめっこと言ってもこの本の文字が読めない
挿絵らしきものを凝視しているのです
これをもらった時に読むのではなく感じろと言われ
開いた瞬間に無理やり向こうから交信してきた
しかし、今回はあちらからの再交信は無かった
「はぁ・・・何度黙想しても入ってこないよ」
溜息しか出ない、皆も察しているのか誰もこれについて聞いてこない
それが余計に辛かったりする
もう二月に入ってしまった
焦る気持ちを抑えられないでいた
「ただ今戻りました・・・はぁ」
他の者も己の能力を制御すべく日々鍛錬をしていた
瑠璃のガックリと肩を落として帰って来る姿を見て
どう声を掛けたものか悩む兄弟たちであった
「左之さん様子見てきてよ、僕だと喧嘩になりかねないから」
「俺が?・・・分かった」
土方と斎藤は黙って見守っているが、
原田と沖田は心配でならなかった
「瑠璃、入ってもいいか?」
「どうぞ」
「どうだ調子はって聞くのも変だが、元気ねえな」
「左之さん・・・」
原田は黙って瑠璃の話を聞いた
あの時みたいに教本が体に入ってこない事
それを感じることが出来ない事など
「もしかしたら、そういう時期なのかもしれねえな」
「え、そんな。こんな大事な時に・・・」
「瑠璃は俺たちよりずいぶん前に能力に目覚めただろ?仕方がねえんだって、何をやっても上手くいかないし、やり方まで分からなくなっちまう時がある。焦れば焦るほど其処から抜け出せなくなるんだ」
「うっ・・・」
「焦るなっていっても無理だけどよ、気分を変えるのも手だと思うぜ」
「でも、全然関係ない事はやりたくないんです」
原田は落ち込んで小さくなっている瑠璃の頭をポンポンと撫でてやる
どうしたもんかな・・・
翌朝、いつものように稽古をしていると瑠璃が出てきた
やはり浮かない顔をしている
あれから考えて、あまり眠れていないのだろう
「瑠璃、ちょっとそこに座って皆の稽古を見てくれないか」
「えっ?私が稽古を見るんですか?」
「ああ、変な癖とかあったら言ってくれ」
「・・・はい」
原田は瑠璃に皆の稽古を見てくれと言った
そう言えば誰かに稽古をつけてもらう事はあっても
自分が傍から見る事は無かったかもしれない
瑠璃は黙って、それぞれの剣捌きを見ていた
土方の刀の動きはとても荒いが力強く重そうだ
あれを受け止められる者はそうは居ないだろう
原田の槍は体の周りを自由に回転しながら的を突く
いつ突き出される分からない程に速い
斎藤は居合の名手だ、とにかく速い
一瞬ピタリと止まる素振りを見せるが
瞬きした後には的は斬れている
沖田の剣筋は水のようにしなり柔らかく切れ味は鋭い
相手を弄びながら追い込んでいるように見える
山崎は刀も使うが棒術が本来の武器らしい
相手の足元を掬うに動く かと思えは頭を一突きだ
全員の動きは全く異なった物だった
(動きに共通点がない、敵からしたら戦いにくいんだろうなぁ・・私はどうなんだろう?私は何が得意なんだろう)
「すみません!誰か私の相手をお願い致します!」
「俺がしてやる、手加減はなしだ。いいか?」
「はい!」
答えたのは土方だった、土方と向かい合う
何処を打っても撥ね返される、面も突きも小手も全て
踏ん張る足に力を込め下段から上段に切替え飛びかかった
ガ…ギギギ、キーン
瑠璃の刀が跳ね飛ばされ、高く舞い脇に突き刺さった
「くっ!」
じりじりと土方が追い詰める
「瑠璃!どうする、手詰まりか?」
刀はあの一本しかない、取っている暇は与えて貰えないだろう
・・・自分にしかない能力
「降参しろっ!」
土方が刀を振り上げたその時、無意識だった
両の手で球を作るように円を描き
その中心に気の塊が集中した
土方の気もまた瑠璃目掛けて激しく押してくる
瑠璃は自分の気の塊で土方の気を受け止め後ろに流した
そのままの勢いでくるりと回り自らの気を放った
しかも至近距離で!!
「ぐはっ!」
土方が後ろに飛ばされた
「はっ、土方さんっ!」
「大丈夫だ、次!総司行けっ!」
「えっ?」
沖田が瑠璃目掛けて刀で突いてくる
刺さった刀を素早く抜き取り、沖田の攻撃を受止め流す
押されれば逆らわずに後ろに下がり
相手が引いたら押し返す
「原田も行けっ!」
沖田と立ち会う中、原田までも加わった
くるくる回る槍の動きに目がついて行かない
避けるのに必死だ、すると後ろから沖田の突きもくる
もうっ!なんなのよ!!
「瑠璃、目で追おうとするな」
斎藤がそう言った
目で追うと避けることしか出来ないと
避けてばかりではいつか殺られる
目を閉じた
二人の動きは目で見るよりよく分かった
剣が槍が出る前に必ず先に気が動く
ならば出る前に、気が動いた瞬間にこちらが動けば
瑠璃は左手に刀を持ち換え沖田の剣を払いながら
右手で原田の槍を払う
自分から行くのではなく来るのを待ち
その力を利用し自らの気を加え弾き返した
「くっ!」
「おあっ!」
二人とも別の方向に吹っ飛んだ
「あ・・・すみませんっ、大丈夫ですか!」
どうやら追い込まれたのが良かったらしい
なんだか知らないうちにスランプから脱しました




