第九十四話 もう一人の未来人
あれから五稜郭が良く見えるこの高台に暇があれば来ていた
やはり考えずにはいられなかったからだ
いつもは一人で来ているけれど、今日は何故か山崎くんと一緒だ
彼も飽きるまで見てみたいらしい
真意は分からないけれど、二人でじっとそれを見つめていた
どれくらい時間が経っただろうか
吐き出す息も白く、指先が痛いくらい冷えてきた
瑠璃「そろそろ、戻りましょうか」
山崎「ああ」
そう行って、来た道を振り返った
男 「おお!綺麗な形をしてるなぁ」
息を切らせこの高台に上ってきて、男はそう呟いた
此処からの眺めは確かに素晴らしい、自分達以外が来てもおかしくはない
そう思いながら、その場を去ろうとした
男 「あれっ!もしかしてあの時の」
瑠璃「え?」
男 「豊玉発句集は持ち主に届きましたか?」
瑠璃「ああ!!あの時の人ですか!」
男 「やっぱり、また会えましたね!」
その男は土方の句集を瑠璃と斎藤に託した人物だった
山崎「何者ですか」
瑠璃「何者かは分かりませんが、土方さんの句集を拾ってくれた方ですよ。あっ、そう言えば総司の名を当てた人」
山崎「この人が・・・」
山崎は探るようにその男を監察した
特に不審な物を持っている訳でもない
放つ気も、普通の人間と変わりはなかった
瑠璃「あの時はありがとうございます。持ち主も戻って来て喜んでいました」
男 「そうですか!それは良かった」
瑠璃「所で、何故此処に来たのですか?寒いでしょ」
男 「ああ、せっかく函館に来たのだから五稜郭は見ておこうと思いまして。いやぁ、綺麗な星形をしていますね」
星形、男はそう言った
一さんにはその言葉は通じなかったのに
彼は自分からそう言った
瑠璃「星形?」
男 「ええ、ほら上から見ると星形に見えますよね。あれっ、この時代では星形では通じなかったかな・・・」
瑠璃「はい、通じませんよ。私以外には」
男 「・・・」
ほら、驚いている この人も時を越えて来たのかもしれない
確証はないけれど、予感はしている
山崎「瑠璃くん?どう言う事だ」
瑠璃「さあ、どう言う事でしょうね」
どう言う反応をするのか男の様子を見ていた
男は嬉しそうにカカッと笑い、こう言った
男 「そうかぁ、俺だけじゃなかったのか」
男は自宅で眠りについた後、気づいたらこの時代に居たという
自分が此処に居るのは何か意味があると信じ
帰る手段を探すのを止めたらしい
そして、沖田に会った
未来の歴史では結核に冒されたはずの彼が健在だった
そして、人間ではない化物を見てしまった事を話した
彼は歴史や神話、宇宙や方位に詳しかった
驚いたのは、四神獣の存在までも知っていたのだ
男 「きっと、四神獣が救ってくれるよ。何千年も昔から繰り返し悪魔を成敗してきたから。復活したのかな?四神獣は方位が重要だからね。それぞれの方位を間違うと能力が発揮されないらしい」
瑠璃「方位、ですか」
男 「うん、知らない?青龍は東、白虎は西、玄武は北、朱雀は南を表すんだ。中国の伝説の神です」
瑠璃「へえ・・・」
男 「すみません、足止めしてしまって」
瑠璃「いえ、面白い話が聞けたので」
男 「ははっ、そうですか。なら良かった」
男は満面の笑みを浮かべた
瑠璃「あの建物には近づかないでください。旧幕府軍が占拠していますから」
男 「五稜郭に?はい、分かりました」
瑠璃「それから、私は佐伯と言います。あなたは・・・」
男 「僕は福山と言います」
男はニカッと笑い、頑張ってねっと言った・・・気がした
何となく彼には見透かされているような気がしてならない
山崎「何でしょうか、不思議な人としか言いようがありません」
瑠璃「そうですね」
山道を下りながら、先ほど聞いた話を思い出していた
方位が大切・・・方位かあ。
瑠璃「ね、山崎くん。さっきの人が言った方位覚えてる?」
山崎「ええ、確か青龍は東、白虎は西、玄武は北、朱雀が南と」
瑠璃「それ土方さんたちの事だよね。もしかして布陣が間違えていたのかな」
山崎「布陣・・・」
そう、いつもどんな時も土方さんを先頭に戦いに出た
もしくは感情的になってしまった自分が前に立つ事も・・・
それは間違いだったのかもしれない
山崎くんと二人、無言で家まで帰った




