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Time Trip to Another World 〜暁〜  作者: 蒼穹の使者
第三章 結〜蝦夷編〜
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第九十三話 虎落笛

函館の冬はとても厳しかった

港町という事も理由だろうか、北風がびゅうびゅう吹付け

雪の日は吹雪になった


ひゅー、ひゅー、びゅーん、びゅーん

ガタガタッ…カタっ コトン


気味が悪い

分かっている、風が戸を叩いたりするから

それに古い家だもの建付けが良くないんだよ


瑠璃は一人、部屋を与えられていた

それが余計に不安と恐怖を煽るのだった


瑠璃「失礼しまーす」


掛け布団をずるする引き摺り

音を立てないように、聞こえないように静かに囁く


そして、誰が誰なのか分からないのも構わず

潜り込んだ


「・・・んー、ん?(あった)けえ」


そう言って巻き込むように引き込まれた


うわっ、誰?

電気とか無いから、誰が何処に寝てるのか分からないよ

けど、(あった)かぁい そのまま眠りに着いた


翌朝、一番に目を覚ましたのは斎藤だ

だが出口に一番近かった所為もあり、気付かずに出ていった

次に起きたのは土方だ


「あぁ、朝か。・・・ん?」


なんで、此処だけこんなに膨れ上がってるんだ?

隣に寝ていたのは原田だ

布団を頭から静かに剥がす


「なっ!!」


声が出そうになったが、手で口を抑えてやり過ごした


おい、おい、なんで左之助と一緒にこいつが寝てるんだ!

斎藤が見たら斬られるぞっ、

斎藤は!? 居ない

気付かずに朝稽古に出たんだろう

総司が起きてもそれはそれで厄介だな 


土方「おいっ、左之助っ、起きろ」


原田を揺すりながら、総司に気付かれないよう声を掛ける


原田「んあー、んだ?おっ、土方さ」


土方は原田の口を塞ぎ、目で合図した


(おい!おまえ、見てみろっ、何で瑠璃と寝てるんだ!)


(は?・・・うおっ!!)

(声、出すなよ?バレたら斬られるぞっ)

(何で俺と寝てるんだよ)

(ばか、俺が聞きたいよ)

(どうする!)


二人は考えた、どう誤魔化すか


「土方さん、今、たった今、寝ぼけて来たんだよ。どうだ」

「・・・それしかねえな」


山崎は知っていた、瑠璃が夜中にこっそり来たことを

しかし、ここは二人の演技に乗っかるしかなかった


山崎「おはようございます」

土方「なっ、お、おはよう」

原田「おはよう」


山崎は何もなかったように部屋を後にした

そして、入れ替わるように斎藤が戻ってきたのだ


斎藤「おはようございます」

土方「おお、相変わらず早いな」

斎藤「いえ、・・・あの」

原田「な、なんだ?」

斎藤「何故(なにゆえ)そこに瑠璃が」

土方「おっ?ああ、こいつだろ?寝ぼけやがって、寒いだの寝られねえだの言ってよさっき来たんだ、で、この座間(ざま)だ」

原田「ったく、総司は上手く()けたくせに俺の頭蹴りやがって」

斎藤「そうでしたか、連れていきますか?」

土方「ん?あー、いや良いだろ。起きるまで寝かせとけ」

斎藤「はい」

沖田「なに朝から、何かの相談ですか?」

原田「いや、瑠璃がよ寝ぼけてよ、ほら」

沖田「うわっ、何してんの!いつ来たの?」

土方「お?少し前だ、寒くて寝れねえとかなんとか」

沖田「ふうん」


沖田は土方と原田の不自然な早口に首を傾げた


沖田「なんか、おかしくありませんか?」

土方「何がだっ」

沖田「・・・なんとかく」

原田「おい、何となくで疑うんじゃねえよ。なあ土方さん」

土方「その通りだ」


山崎が静かに襖を開け、朝餉が出来たと知らせに来た


「んー、あれっ?」


目を開けると皆が私を覗き込んでいた


「えっ?」


斎藤「瑠璃、そんなに寒かったのか?」

瑠璃「へ?」

土方「おいおい、まだ寝ぼけてやがるな」

沖田「ねえ、いつ此処に来たの?」

瑠璃「いつ?」

原田「さっき、眠いだの寒いだの言って来たろ」

瑠璃「さっき・・・」


あれ?何で左之さんも土方さんも焦ってるんだろ

私がふたりの間に寝たからか

いや、もしかして私何かしたのかな

思わず身なりを一通り確認した


斎藤「瑠璃?」

瑠璃「は、い?」


山崎「あの、朝餉が」

土方「おお、そうだった、そうだった、朝餉だ。行くぞ!」

沖田「朝餉当番って山崎くんだったんだ」


皆がわらわらと部屋を出ていき

残ったのは私と一さん


斎藤「一人は寂しかったのか」

瑠璃「はい、びゅうびゅう風が吹き付けて色んな音がして、怖かったです。すごく気味が悪くて、それで」

斎藤「ああ、あれを虎落笛(もがりぶえ)と言う」

瑠璃「もがり笛?」

斎藤「しかし、朝までよく耐えたな。天気が悪い夜はもっと早く来たらいい。俺は一番端に居る」

瑠璃「はい、そうします」


あれ?夜中に来たつもりだけど、もう朝だったんだ

次からは一さんの隣に潜り込もう



朝餉の最中、なぜか不自然に饒舌な兄二人がいた


(誤魔化せたのか?)

(たぶんな)

(ってか、本当になんなんだよ)

(知らねえって、気づいたら一緒に寝てたんだって!)

(・・・)

(信じてくれよ)

(お前のことは信じてるさ、だがその本能は疑わしい)

(勘弁してくれよ〜)


瑠璃「あの!」

土方「な、なんだ」

瑠璃「心の声、ただ漏れですっ」

土、原「なにぃっ!」


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