第九十二話 五稜郭の結界
神田たちから五稜郭にサキュバが潜んでいる事
強い結界の所為で侵入できない事
しかし、人間は行き来が自由に出来ると言う事を知らされた
土方「結界って、俺たちに向けてとしか考えられねえな」
原田「どうやったら解けるんだ、本当に新政府軍が来るまで動けねえのかよ」
沖田「本当に入れないの?」
瑠璃「行ってみてもいいですか?皆で行ったら何か手掛かりが見つかるかもしれませんよ?」
神田「今はあいつも動きはしないだろ。危険は少ない筈だ」
土方「行ってみるか」
私たちは人通りの少ない早朝に五稜郭に行った
寒さ厳しい時期なので、人は殆ど見られない
周りは堀のようになっており水が流れていた
五角形の星形だと思っていたが、実際は六角形だった
簡単には侵入を許さない造りになっているようだ
瑠璃「五角形では無かったのですね!」
堀の上に掛けてある橋を渡り、門の前に来た
ピーンと弦を張ったような空気だ
土方「確かに入れる気がしねえな」
原田「ああ」
沖田「何これ、凄い」
斎藤「・・・」
瑠璃「どんな感じですか?よく分からないのですが」
そう言うと、瑠璃は扉に手を掛けた
土方「おいっ!」
すーっと音も立てず扉が開いた
そして、瑠璃がその中に一歩を踏み入れた
瑠璃「えっ・・・入れた」
全員「!?」
沖田と斎藤が後に続くが、やはり入れない
押し返されるようで前に進めないのだ
他の者も試したが、結果は同じだった
なぜ瑠璃だけ入ることが出来たのか
場所を変え、東の門に回った
やはり瑠璃には支障がなかった
土方「ん?さっきと何かが違うな」
原田「そうか?俺には同じに思えるが」
皆、押し黙ったままだ
日が昇り守衛たちが来る頃になった為、引きあげた
斎藤「何故、瑠璃だけが入れたのだ」
瑠璃「なんででしょうか。私だけでは戦えませんし」
乾 「まだ分からないことだらけですね」
山崎「しかし、何処を調べればよいのか・・・」
これから寒さはどんどん増すばかり
雪が積もると動き辛くなる
このまま春までなにも出来ないのだろうか
沖田「目の前に敵が居るって言うのに何も出来ないなんて!」
皆の苛立ちが伝わってくる
四神獣を守護神とし神の力を与えられた筈なのだ
なのに切り開く手が見つからない
時間は無情にも過ぎ、明治二年を迎えた
瑠璃はあれからずっと考えていた
何故、自分だけ扉の向こうへ行けたのかを
斎藤「瑠璃?」
瑠璃「あっ、はい。何か?」
斎藤「あまり根を詰めて考えるな。身体に悪い」
瑠璃「ありがとうございます。確かに最近あまりよく寝れなくて。つい考えてしまうんです」
山崎「気持ちは分かりますが、本当に身体に障ります」
瑠璃「はい・・・」
とは言え、何か他の事をする気にもなれずにいた
土方「瑠璃、ちょっと付き合え」
瑠璃「はい」
瑠璃は土方に連れられ五稜郭がよく見える高台に登った
土方「・・・」
瑠璃「あの、どうして此処に?」
土方「ん?いや、考えるなと言っても無理だしな。だったら飽きるまで見るのはどうかと思ってな」
瑠璃「なるほど」
サキュバを除けば、本当に美しい眺めだった
夏は緑が生い茂り、冬は銀色に輝く
春には桜が咲き乱れるのだろう
瑠璃「平和な世になったら、あれを眺めながら、たくさん句が書けそうですね」
土方「・・・おまえ」
瑠璃「ふふ、すみません。でも本当にそんな日を願っているんです。」
土方「願うんじゃえねえ、叶えるんだよ力ずくでな」
瑠璃「はい」
土方にそう言われると、そうなる気がする
土方の後ろ姿を見ていると、勇気が湧いてくる
信じると、着いていくと決めた時から
この背中を追ってきたんだ
瑠璃「土方さんの背中、格好いいです」
土方「なんだ、急に」
瑠璃「急にじゃないですよ。ずっとそう思っていましたよ」
土方「そうか、そりゃ男冥利につきるな」
そう言って優しく笑った
そう、願うばかりでは駄目だ 絶対に叶えてみせる




