第九十話 落し物
あれからサキュバの情報を得ようと個々に動いていた
函館についてから軍隊も外国人の姿もあったため
再び洋装に切り替えた
瑠璃は斎藤と町を歩いていた
あの近藤を助けて怪我を負った一件から、
斎藤は瑠璃と居ることが多くなった
「とくに変わった様子もなく、町は落ち着いていますね」
「そうだな」
「寒いし、悪いことをする人も居ないのかもしれないですね」
そんな話をしていると、向こうから一人の男性が歩いてきた
特におかしな様子もなかったので私たちはその男性とすれ違った
「あ、すみません」
男性は立ち止まって声を掛けてきた
瑠璃「はい、どうしましたか」
男性「さっき落し物を拾ったんですが、あなた達に渡したら持ち主に届くかと思って」
斎藤「落し物?」
男性「うん、これ、これ。いやぁ、よかったぁ。お返しします」
瑠璃「・・・本、ですか?」
斎藤「こっ、これはっ。どこで拾った」
男性「何処だったかな、まだこっちに来て浅いので地名が分からないんですよね」
瑠璃「一さん、知っているんですか?これ」
男性「では私はこれで。またお会いしましょう」
終始笑顔の男性はまた会おうと言って行ってしまった
それより一さんは渡された本を持ったまま硬直していた
瑠璃「一さん?大丈夫ですか?」
斎藤「ああ、問題ない。早くこれをお返ししなければ」
瑠璃「誰に返すんですか?」
斎藤「ひじっ・・・いや。何でもない」
何でもなくはないでしょう一さん、意外と顔に出るんですね
ちらっとしか見えなかったけれど【豊***集】という字が見えた
何集なんだろう
瑠璃「一さん、見せてください」
素早く手から抜き取り、本を捲ってみた
斎藤「瑠璃っ!」
瑠璃「・・・一さん!これっ」
斎藤「あ、ああ」
瑠璃「読めません」
斎藤「よっ、そうか瑠璃にはこの手の字は無理だったか。そうか、そうか」
どこか安心したように一さんは笑みを見せた
実は、京を出る前に山南さんから崩し字を教えてもらったので多少は読める
あまりにも一さんが緊張していたので、読めないふりをしてみた
初めて見ました!『土方義豊の豊玉発句集』
瑠璃「取り敢えずこの本、土方さんに報告がてら持っていきましょうか」
斎藤「なっ、そ、そうだな」
その句集で気になったのが、”知れば迷い知らねば迷わぬ恋の道”だった
好きな人いたのかな 毎日、新選組の為に身を粉にしていたから
きっとどこかで諦めたんだろう なんだか切なくなった
それにしても、さっきの男性・・・気になる
私たちに渡せば持ち主に届くと言っていた
それに言葉、話し方に親近感があるというか・・・
一さんは山崎さんに呼ばれて行ってしまったので
例の本を一人で土方さんに渡しに行った
「落し物だそうです。はい」
「・・・」
「土方さん?」
「これを何処で手に入れた」
「一さんと町を歩いていたら、知らない男性から手渡されました。落し物だって」
「そうか、これは俺が預かっておく・・・総司のやつめ」
「え?」
「いや、ご苦労だった」
意外と冷静に受け取ってくれたけど、なんで総司の名前が出るんだろう
「あ、そう言えば聞きたいことがあるんですけど」
「なんだ」
「土方さん、好きな人居たんですか?」
「・・・おまえっ、見たな!」
「これ見たとして、それと何の関係があるんですか?もしかして土方さんの」
「・・・」
「では、夕餉の支度して来ます」
無視された、かなり都合が悪いとみた
でも、誰も触れてほしくない事のひとつやふたつあるしね
(瑠璃のやつ字が読めるようになったな、全く誰のせいであの句が出来たと思ってるんだ。危なく兄が妹に慕情を抱くところだったんだ。はぁ・・・)
「総司!!何処に行きやがったぁ!」
その後、土方さんの怒りの叫び声が響き渡った




