第九話 奇怪、池田屋事件
ついに歴史が動き出す時がやって来た。
教科書の幕末期は駆け足になりがちですが、幕末好きな方は誰もがご存知の事件 【池田屋事件】
もし池田屋事件が起きなければ、討幕はもう少し遅かったと言われるような大事件です。
近藤局長はいよいよ我らの出番だと、非常に気合が入っていらっしゃいます。
土方さんは根回しに大忙しで、鬼の形相で隊士たちに激を飛ばしています。
山南総長は屯所で後方支援。
勿論、百合ちゃんと私もです。
山崎君と島田さんは朝から大忙しで、山崎君に関してはチラっと姿を見ただけです。
そして、やはり大人の事情で四国屋にも向かわなければならず。
はい、どの時代もありますよね?
池田屋組
近藤局長、沖田率いる一番組、永倉率いる二番組そして藤堂率いる八番組。
よく見ると先鋒タイプの組ばかり。
土方さんはかなり渋っていたけれど近藤さんが選んだので誰も文句は言えず。
四国屋組
土方副長、斎藤率いる三番組、井上率いる六番と原田率いる十番組。
まさに頭脳とディフェンスタイプがこちらに固まっております。
屯所組
山南総長、百合ちゃんそして私。
ただ皆さんの無事と成功を祈るのみ。
隊士が出動してから一刻ほどたった頃、息を切らした山崎君が駆け込んで来た。
「やはり本命は池田屋でした。かなり腕の立つ者がおり苦戦しております」
「えっ、池田屋が苦戦?」
「山南総長、池田屋の応援要請願います」
「では・・・「敵だ!」」
「!?」
「屯所の警護が薄いと感づかれましたね」
「島田君、山崎君。私とここで応戦しましょう。瑠璃くん真田くんと四国屋へ走れますか?」
「はい!あっ、でも道順が」
「四国屋は簡単だ、真田くんは分かるな?途中まで僕が援護する」
「はい!」
そして私たちは走った!こんなに必死に走った記憶はない。
百合ちゃんと手を取り、とにかく走った!
角を曲がると、知った背中が見えた。
「土方さんっ!」
「瑠璃っ、真田も。何があった」
「はぁ、はぁ、池田屋が、苦戦。応援頼む、と。屯所も何者かが」
「副長」
「ああ、斎藤と原田は直ぐに池田屋へ向かえ、源さんは屯所を頼む。俺は行く所がある」
「はい」
「瑠璃はどうする」
「私も池田屋に向かいます。援護くらいはできるはずです」
「分かった。斎藤!頼んだぞ。真田は俺と来い」
「はい」
私たちは池田屋へ向かった。
なぜ、彼らが苦戦しているのかが疑問だ。
左之さんは裏手を抑えに、一さんは正面から応戦に向かった。
私は正面入り口で待機していた。
「誰かいねえか!」
「新八さん!瑠璃です」
「瑠璃ちゃんか!悪い、上に平助と総司がいるんだがけっこうヤバそうなんだ。行けるか?」
「大丈夫です」
「瑠璃!」
「一さん」
「俺に背を合わせろ、離れるな。上まで一緒に行く」
「はい!」
人が斬られて倒れている。
そして二階についた。一さんは平助の方へ、私は総司の方へ。
総司が押されていた。
「総司!」
「瑠璃ちゃん!何でここに」
「総司、血が出てる!」
「これくらい平気」
総司はそう言うけれど、肩で息をしている。
そうまでさせる相手は誰?
「あっ!!あなたは」
「ほう、貴様は新選組の者だったか。また会ったな」
「総司、この人たぶん人間じゃない!今は引いた方が」
「僕はまだ戦える!ぐっ・・」
「ふはは、今日の所は手を引かせてもらう。次は命はないと思え」
男は音もなく消えた。
周りも静まり返っている、終わったようだ。
総司を担ぎ、転がるように下へ、一さんは平助を担いでいた。
平助が相手にしていた人も消えたらしい。
左之さんに後のことを任せ、私たちは怪我人を屯所へ運んだ。
何人かは途中息を引き取ってしまった。
私は初めて人の血を浴びた。
屯所に着くと、直ぐに総司と平助の治療を申し出る。
私の能力を知っているのは一部の幹部のみ、土方さんはそれを許可してくれた。
平助の額はパックリと切れていた。
傷口はとても深いけれど、塞がれば問題なさそうだ。
「平助、しっかり意識を持って。大丈夫、絶対に助かるから。少し目を閉じていて」
「ああ、瑠璃悪いな」
瑠璃が藤堂の額に手をかざし、気と意識を集中させると黄金色のようなオレンジ色の光が藤堂の頭を包む。
しだいに傷は閉じていく。
瑠璃は感じていた。血管と細胞が再生されていくのを。
「もう大丈夫、終わったよ」
平助は眠っていた。
後の事は百合ちゃんにお願いした。
次は総司の番だ。
立ち上がると、少し立ちくらみがしたけれど初めてまともに力を使ったのだから仕方がない。
「総司?大丈夫?」
「・・・うん」
「待っていてすぐ楽になるから。眠ってていいよ」
瑠璃は沖田の身体へ手をかざす。
傷は浅いが出血の量が多すぎるのに違和感を感じた。
傷はすぐに塞がる。
もう一度、今度は両手をかざす。
胸の辺りが霞んでよく見えないのだ。
そうか、結核。やっぱり総司は結核になっていたんだ。
これは根気がいるかもしれない、結核菌はとても小さく手から逃れるように散って行く。
額から汗が噴き出してきた。
私の体力が持つかどうか。
まだ、半分も消せてないのにっ・・・くぅ。
瑠璃は総司の上に重なるように意識を飛ばした。




