第八十九話 玄武帝にお仕えします
五稜郭、何故か分からねえが近寄れねえ
ここは旧幕府軍が落とした場所だ、なのに何なんだこの空気は
冬で毎日曇ったように薄暗いが、ここだけは妙にそう感じる
「あの五方の中心にある城みたいなやつ、妙だな」
「ほう、さすが玄武が守護神なだけあるな」
「誰だ!」
原田が振り返ると、そこには見覚えのある二人と懐かしい姿があった
「お前ら、いつ上陸したんだ。気配消しやがって、俺の後ろに立つんじゃねえよ」
「お久しぶりです。原田さん」
「ああ、元気そうで安心したぜ」
神田、乾、百合の三人だ
実は彼らは原田たちより前に函館に上陸していた
旧幕府軍が落とした松前城やこの五稜郭での戦争を見ていたのだ
原田「で、何がさすがなんだ」
神田「あの五稜郭だが、表向きは旧幕府軍が落としたことになっている」
原田「表向きだと?裏があるのか」
乾 「あそこが、奴らの本陣です」
原田「奴らって、悪魔の事か」
百合「はい、五稜郭はサキュバの城になりつつあります」
どうして今まで気づかなかったのか
毎日見ていたつもりだが、怪しいやつの出入りは見たことがねえ
ただ、今日は妙に嫌な感じがしたが・・・
神田「サキュバは近頃大人しい、恐らく新政府軍の上陸に合わせて動く魂胆だろう」
原田「なんでだよ、彼奴の能力なら直ぐにでもやれるだろ」
神田「奴はいま能力の温存を図っている」
乾 「先の会津戦争では分身とはいえ片腕を落とされています。その再生に時間がかかっているのです」
原田「片腕って、斎藤が斬り落としたあれか」
乾 「はい」
心臓を刺した時、身体は既に本体へ移行を始めていたので大事に至らなかった
だが、その右腕は移行前に斎藤が落としていたからだ
原田「だったら、今が好機なんじゃねえのか。あいつを殺れる」
百合「私たちもそう考えたのですが、破れないのです結界を」
あの五稜郭の地形、五方の形が影響しているのか入り込むことが出来ない
しかし純粋な人間であれば行き来ができるという
原田「面倒だな。とにかく、皆に知らせねえと。お前たちはどうするんだ」
乾 「我らは貴殿にお仕えしたいと考えております」
原田「は?」
まさかそう言う答えが来るとは思っていなかった
神田「仕方がないから、お前の僕になってやると言っているんだ」
百合「あの、実は私たち三人は先祖の代から玄武帝に仕えてきたんです。玄武帝に私たちの悪の部分を取り除いて生かしていただいたので」
原田「なんだそれ」
この羅刹天、羅刹女、迦楼羅はもとはと言えば悪魔の種族だった
それが玄武帝によって改心させられたと言う
それ以来、玄武が目覚めた時には必ず力になるようにと言い伝えられて来た
何だかよく分からんが、あいつ等が仲間に加わった
土方さんは受け入れてくれるのか
瑠璃は百合が戻って来たって喜ぶんだろうが
取り敢えず、三人を連れて帰ることになった




