第八十四話 大間にて、出港は七日後!
十一月に入ると、東北は冬へと移る
時折、雪がちらつく
山の頂上は綿帽子を被ったように白い
ようやく一行は青森の最先端、大間に辿り着いた
網の手入れをする漁師たち、磯の香りがたちこめる
土方「船は漁師の船しかないらしい。蝦夷の漁師と月に二度、沖に出て商売をしている。その船に何とか乗せてもらう事にした。沖で蝦夷の船に乗り換える」
沖田「蝦夷の漁師は乗せてくれるんですか?」
土方「金さえ渡せば文句は言われねえとよ」
原田「で、いつなんだその日は」
山崎「七日後です。それが今年最後の商売です。冬は海が荒れるので商売も春までは無いそうです」
大久保「なんと!次が最後か。危なかったな」
永倉「ま、何とか蝦夷に渡れるってわけだ」
漁師の話によると、函館近辺の湾には戦艦が三、四隻ある
戦争が始まりそうだから暫くは船を出さないと
恐らく榎本武揚率いる海軍の船だろう
漁師「お殿様が負けてから、この辺りまで物騒になったもんだ。あんた方蝦夷なんかに行って大丈夫かね。そう言えば何日か前、同じように蝦夷に渡るって者がいたな。うちの船じゃねえけど」
瑠璃「え、それは男二人に女一人では?」
漁師「ああそうだ!知り合いか?」
瑠璃「たぶん」
きっと百合ちゃんたちに間違いない!
彼女たちもサキュバを追っている、目的は同じだから
また会える、不謹慎だけれど少しだけ楽しみができた
港町は海からの風が強く、一段と寒さが増す
斎藤「大丈夫か、ずいぶん寒そうだが」
瑠璃「寒くないんですか?」
永倉「こんなんで寒いって言ってたら、蝦夷なんか行けねえぞ?」
藤堂「気合いだよ!気合い!」
瑠璃「気合いでどうにかなるんですかね・・・」
原田「大丈夫だ、これだけむさ苦しい男たちが揃ってんだ。寒さなんて感じねえよ」
瑠璃「そう願います」
船が出るまでの間、土方さんと山崎くんは蝦夷の地形を研究し
総司と島田さんは町の子どもたちと遊んでいた
島田さんはなぜか子どもから好かれていた
他の皆さんは稽古をしたり、剣術指導をしてみたりと
意外と町に溶け込んでいた
沖田「瑠璃!ごめん、この子見てあげて」
瑠璃「どうかしたの?」
沖田「昨日からお腹が痛いって言ってるらしい」
母親らしき人が心配そうに男の子を連れ、私のところへやって来た
いいのかな?例の能力使っちゃっても
瑠璃「大丈夫だよ、お姉さんにお腹見せて。痛いことはしないから、ね」
涙を浮かべ流さまいと堪える姿が、なんとも可愛らしく見えた
派手に光を出すわけにはいかない、驚かせては元も子もない
掌に収まるくらいの小さな光を握り、男の子の痛がるお腹に当ててみた
沖田(どう?)
瑠璃(ん・・・ちょっと待って。特におかしな物は感じないけどな)
沖田(じゃあ何で痛がるの)
瑠璃(うーん、あれ?これって・・・なるほどね)
瑠璃「お母さん、いつ厠で大きい方出しましたか?」
母親「えっと、この頃は出ないといっていたから・・・」
男子「だって、したいけど出ないんだ!えーん」
瑠璃「そっか、辛かったね。でも大丈夫お腹なでなでしたら良くなるから。お母さん、お茶をたくさん飲ませて上げてください。」
瑠璃は”の”の字を書くように掌をその子どもの腹の上を滑らせる
そう、便秘だったのだ
男の子は翌日爽快な顔でお礼に来た
最近はサキュバの事ばかり考えていた
自分の持っている能力は、こういう風に使ってもいいんだ
大久保「瑠璃くんは医者になったらどうだ。女の医者は少ないからな、子どもや女子には居てほしい存在だと思うがね」
瑠璃「医者だなんて、知識もないのに」
でも、いつかこの戦いが終わったら、そういう道もあるのかもしれない




