第八十話 蝦夷を目指しましょう
土方「新政府軍はこの会津戦争でかなり消耗している。蝦夷に入るのは恐らく雪解けが終わる頃だろう。それより先に蝦夷に入りてえが、船がねえ」
大久保「どちらにしても陸奥には向かわねばならんだろ」
土方「ああ」
これより北は誰の伝手もこねもない
海を渡る事はこの時代の人には大変な事なんだろう
藤堂「なあ、あいつらも行くのか?」
永倉「あいつらって、どいつだよ」
原田「神田たちの事だろ」
斎藤「彼らも陸奥を目指すと言っていた」
沖田「・・・」
瑠璃が居ない
また一人で考え込んでいるのだろうか
沖田は瑠璃を探して外に出た
沖田「居た」
小高い丘の上から会津城下を眺めていた
戦争の傷跡が残る町を静かに見下ろしていた
小さな背中が、もう戦争は嫌だと言っている
もう、誰も死んてほしくないと言っている
でも叶わない願いだと分かっているとも聞こえる
沖田「気持ちの整理はついたの?」
瑠璃「総司、うん。たぶん」
沖田「早く終わらせたいよね」
瑠璃「私、平和な日本で大人になったから戦争がこんなにも残酷な物だとは思わなかった。どうして殿の為に死を選べるのか、生き恥って何なんだろうって。武士にどんな意味があるのか。でも、総司には分かるんだよね」
沖田「僕は近藤さんや土方さんの命令なら、相手が誰であろうと斬るよ。死ねって言われたら従う。それが僕にできる全てだから」
瑠璃「それは近藤さんや土方さんだからって事よね?」
沖田「うん、絶対的な信頼があるんだ。あの二人がする事に間違いはないってね」
瑠璃「そっか」
それ程までに信頼出来る、忠誠を誓える人がいるという事は
見方を変えれば幸せなのかもしれない
未来では将来の夢や希望を持たない人は珍しくない
だとしたら、白虎隊の若き隊士たちも
不幸ではないのかもしれない
原田「こんな所に居たのか。出発の準備しなきゃなんねって、土方さんの眉間が凄いことになってんぞ」
沖田「はぁ、眉間に力入れ過ぎなんですよ。瑠璃から何か言ってあげてよ。冗談抜きで皺が取れなくなっちゃうよ?ま、それはそれで面白いけど」
瑠璃「ふふっ、後で言ってみる」
原田「まじで言うのか・・・」
土方は眉を寄せ目を瞑って何かを考えているようだった
隣にいる斎藤までも黙想していた
何この空気、他の皆は何処に行ったんだろう
瑠璃「お疲れですか?二人とも目を瞑って」
土方「考え事をしてるんだ、寝てるわけじゃねえ」
瑠璃「あ・・・本当だ。大変、くっきり付いてますよ?」
瑠璃は土方の顔を覗き込み、二本の指で皺を伸ばす
ふにふに、ふにふに
斎藤「なっ・・・」
土方「・・・おい」
瑠璃「はい」
土方「何をしている」
瑠璃「え?マッサージですよ」
土方「まっさーじって何だ、頼むから妙な事はやめてくれ」
瑠璃「妙な事ではありませんよ。血行を良くしないと皺取れなくなっちゃいます。せっかく男前なんですから」
土方「・・・そうか」
黙り込んだ土方は瑠璃にされるがままだ
止めろと振り払えばよいものを何故か出来ないでいる
斎藤「・・・(土方さんが、されるがままではないか)」
山崎「失礼しまっ…!?(斎藤さん!瑠璃くんは何を)」
斎藤(まさじをしている、と)
山崎(まさじ?何ですかそれ!)
斎藤(知らん)
冬が来る前に海を越えたい
再び、サキュバを追う旅が始まった
シリアス多めで第二章の江戸・会津編を終了致します。
次の章で完結予定でございます。
ありがとうございました。




