第八話 やっぱり池田屋
人間死ぬ気で頑張れば出来ないことはない。
一晩付き合ってくださったお姉さん方ありがざいます。
芸子の仕事は理解できました。
「いいですか、事を急いては大事を仕損じる。君は力を入れずに穏やかに対処すればいい」
「はい、承諾しています。」
「君のことだ間違いは起きないと思いますが」
「ふふ、ありがとうございます」
最近は皆さんが優しい言葉をかけてくれる。
本当にありがたいことです。
部屋に通され、お客様のお相手。
実は芸子になるのは無理があるという事で見習いという立場で上げさせてもらっている。
酒も踊りも三味線も出来ませんので。
潜入から二晩がたった頃、主要角の男が奥の間に入ったとの知らせを受け、お茶を手にその部屋へ上がる。
「失礼いたします。今日はお出で頂きありがとうございます。緑茶でございます。御料理はどないいたしましょう?何なりと。」
「あぁ、そうだな。いつものを頼む」
うっ、来た!いつもの攻撃。
「申し訳ございません。見習いの身でして旦那様方のいつものが分かり申しません。」
「なに!」
「っ、申し訳ございません!」
「声を荒げるな。女、顔を上げてみよ」
「そのように怯えずともよい。見習いなら仕方があるまい。世間など全く知らんのだろ?」
「お恥ずかしながら」
「今夜は長居はせん、良い酒を頼む。肴はそちらに任せる」
「はい、おおきに」
恐らく彼らは何かここで、聞かれては困る話をするのだろう。
頭の回る女では困るようだった。
「山崎くん、今夜は当たりかもしれません」
「そのようだな、しかしあそこは離れだ。斎藤組長たちが近づくのは難しいな」
「そうですね、控えの部屋もありませんし。ま、何とかなりますよ!」
「瑠璃、あんたの何とかなるは時折心臓に悪い」
「一さん」
「まあね、瑠璃ちゃん意外と大胆だしね。でも、ここはお任せするしかないんじゃない?」
「だな」
「無理はするな」
「はい、心に留めておきます」
気持ちを引き締め直し、再び仕事に戻る。
私の慣れない奉仕が意外と幸をなし男たちは例の話題に移った。
なんと!二日後(明後日)の暮れ四つと確かに言った。
場所は池田屋、歴史通りだった。
私は一刻も早くそのことを伝えたくて、空いた皿を抱え部屋を出る理由を作った。
「お代わりはどないいたしましょう。」
「ああ、締めに握り飯をもらおうか」
「はい」
「おい、それから今の話だが」
「今の?握り飯のことですか?何かお入れした方が?」
「ぐははっ、あぁ握り飯だ。お前に任せる」
「はい、暫くお待ちくださいませ」
慌てず、穏やかに鈍感を装ってその場を後にした。
離れを出、廊下を進むと感じた事のない気配が迫ってくる。
私は鈍感を装って歩き続ける。
「おい、そこの女。」
「は、はい、何か?」
「貴様この店の者か?」
「はい、まだ見習いですが、奉公させていただいております」
「ほう。」
そう言うと男は、目の前に立ち私の顔を見定める。
男の髪は艶のある黄金色だった。
「あのっ」
「貴様、ただの女ではないだろ。何故、この世に降り立った」
「!?」
まるで私がこの世界の人間ではないと知っているかのようだ。
痺れたように体が動かない。この人、人間ではない?
「お客様、失礼ですがこの者は見習い、まだ仕事が残っております」
「ふん、まぁ今回は見逃してやる」
そう言い残し、男は闇へ消えていった。
「瑠璃くん大丈夫か。あの男は」
「私にも分からない、ただ異常に強い気を感じたの」
「異常に強い気?」
「あ、それより分かりました!例の期日が。急いで皆の所へ」
別室で控えている皆のもとへ行く。
明後日、暮れ四つ、池田屋と簡潔に、一足先に山崎君は屯所へ帰った。
私は残りの仕事を終わらせるために再び戻る。
握り飯に昆布を入れ持っていくと、その客は喜んだ。
任務完了!
夜半、店を出ると一さんが立っていた。
「一さん!待ってくれていたんですか?ありがとうございます」
「あぁ、俺はあんたの護衛だからな。それに・・・」
「それに?」
「いや、何でもない。帰るぞ」
言いかけて止める事は一さんには良くある事だ。
口下手な上に私が分かる言葉を探さなければならないから。
一見、表情が少なく怖い人に見えますがとても優しい人なのです。
総司は躊躇なく、ずけずけ物を言ってくるけれど不思議と言いたい事は全部理解できる。
口が上手で頭も切れる器用なタイプだ。
この対象的な二人が任務で行動を共にする光景をとても微笑ましく思うのは私だけでしょうか。




