第七十八話 死闘の末に
土方たちは一斉にサキュバ目掛けて駆け出した
手向かう夢魔を蹴散らしながら
もはや彼等にとって夢魔など敵に値しない
凄まじい勢いで駆け抜ける
斎藤「俺の後ろを離れるな!」
瑠璃「はい!」
土方がひと振りする事に火を吹き
原田の槍が空を斬る度に大地が揺れ
沖田のしなやかな剣が水の如く踊り
斎藤の目に見えない程の抜刀が風を呼ぶ
目の前の夢魔が次々と灰になり
開けたその先に、西郷隆盛とサキュバが見えた
またあの笛の音が聞こえてきた
ピー、ピー、ピー
すると西郷が激しく悶える
西郷「うあぁぁ、貴さまっ、何をっ」
サキュバ「抗うなど止めておけ。ふはは、新選組を殺せ!」
西郷の赤い目が振り返る、その握られた刀が新選組に向けられた!
原田「おい!敵はこっちじゃねえ」
土方「無駄だ」
瑠璃「西郷さんっ」
西郷は土方に斬りかかる、これまでの夢魔とは比べ物にならないほど強い
土方「ちっ」
激しくぶつかり合う気で近寄ることが難しい
ピー、ピー、ピー
沖田「まただ、この笛の音が操っている」
笛の音が鳴る度に西郷の身体から炎のような気が上りたち
土方を後ろへ押し返す 赤と青の炎が激しくぶつかる
斎藤「どこから聞こえる」
瑠璃「あっ、あれっ!」
サキュバがその笛を吹いている、不気味に笑いながら
吹くほどに、西郷の能力が増す
原田が咄嗟に応戦する、その槍でも心臓を突き抜くことが出来ない
瑠璃は自らの刀に気を集中させサキュバ目がけて風を切り裂くように振り下ろした
三日月型の空砲がビュンビュンと音を立て、サキュバの手元へ届くと
笛が真っ二つに折れ、ぽとりと地に落ちた
サキュバ「ほう、そのような事も出来るのか。佐伯瑠璃!」
瑠璃「!?」
西郷「ぐあぁぁ、くっ。土方っ殿、早く終いにしてくださ、い」
土方「なにっ」
西郷「今のうちに、早くっ。もう制御が利かん」
土方は僅かに後退し、刀を西郷の心臓に突き刺した
深く貫くように西郷が土方に体重を掛けてくる
ググッ、ググッと押し背まで突き抜けた
土方「っ!西郷殿」
西郷「ぐはっ、かた、じけ、ないっ」
ドサッ・・・
明治元年九月 母成峠にて西郷隆盛没す
サキュバ「ははははは、はははは。新選組、ふはははは」
狂喜しながらサキュバは飛ぶようにして山の奥へ走り去る
斎藤「待てっ、逃がさん!」
斎藤と沖田そして瑠璃はサキュバの後を追う
どこまで逃げるのか、山道を上り山の頂へさしかかる
ここは飯盛山
サキュバ「幼き戦士たちよ、見よ!お前たちの城、鶴ヶ城が燃えている」
隊士「見ろ!城が、城が燃えている!」
隊士「殿ぉぉ!」
サキュバ「もう帰る場所もない、会津は死んだ。お前たちも殿の元へ逝け!」
飯盛山!?なぜ此処にサキュバは・・・白虎隊!!
瑠璃は叫んだ
瑠璃「駄目!話を聞いては駄目。城は燃えていないっ!」
沖田「瑠璃っ」
瑠璃が彼らの元へ駆けていく
瑠璃「騙されないで!殿は生きてるからっ、会津は死なない!」
サキュバ「逝け!殿を一人で逝かせる気かぁ!」
瑠璃の叫ぶ声も虚しく
幼い隊士たちは潜ませていた短剣で喉を突く、心臓を突く
噴水のように血が噴き出、ばたばたと倒れる
瑠璃「だめぇぇぇぇぇ!」
一人でも救いたい、その思いで黄金色の気を放ち命を繋ぎとめるべく術を注ぐ
だが、誰一人として答えてくれない・・・即死だ
まだ二十歳に満たない若者が恐怖と絶望の中、自ら命を絶った
打ちひしがれる瑠璃にサキュバの剣が襲いかかる
サキュバ「お前も、死ね」
沖田「瑠璃!」
沖田が瑠璃の前に出、サキュバの剣を受け止める ググッ、ググッと押される
やはりとてつもない力を持っている 沖田は堪えるのに必死だ
その時、
ズザッ・・・ドザッ
サキュバ「ぬおぉぉぉ!貴さまぁ!」
見ると、剣を握ったままサキュバの右腕が落ちている
斎藤が居合で斬ったのだ
原田「どけえぇぇぇ!」
原田の槍が地を這うようにサキュバ目がけて飛んでくる
そしてサキュバの心臓に
刺さった!
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