第七十七話 サキュバ現る
夢魔はいったい何処に姿を隠しているのだろうか
最近の戦いで彼らは投入されていない
それが逆に不気味でならなかった
最後に見たのは上野での戦いだ
宇都宮の戦いもそうだが白河城や二本松でも姿を見たものは居ない
山崎「やはり母成峠が手薄なのは間違いありませんでした」
土方「そうか」
永倉「そこ中心に張るのか?」
沖田「若松城の西郷隆盛の動きはどう」
斎藤「場内は戦いに備えてか慌ただしく、西郷殿の動きがいまいち見えん」
原田「目的は若松城を落とす事だろ、城に向けてくるのは間違いない」
大久保「城と母成峠の間で待つしかないだろう。島田君に峠を見張ってもらい城を山崎くんに頼むのはどうだ。相手の出方次第で動く」
土方「そうだな、それで行くか」
藤堂「日は決まってるのか」
山崎「新政府軍の動きからすると、恐らく二日後の明け方になるかと」
土方「では明日の夜半より我々は動く」
全員「はい!」
各地で激戦となり、旧幕府軍は苦戦を強いられた
会津藩が構成する隊は五つ玄武隊、青龍隊、朱雀隊、予備兵の白虎隊と幼少隊がある
すでに玄武、青龍隊ともに壊滅状態であり朱雀隊も時間の問題と言われていた
そして、予想通り手薄の母成峠から新政府軍は進軍してきた
島田「新政府軍は母成峠を越えております!」
土方「中に夢魔は居るか」
島田「現在、見当たりません!」
原田「居ないってどういうことだ、ここでも現れないのか」
山崎「西郷隆盛が動き始めました!」
沖田「僕たちはどうしたらいいの」
土方「西郷隆盛の後を追う」
西郷隆盛は峠に向かっているようだった
彼はまだ人間の姿にを保っており、化け物にはなっていない
峠の出口で立ち止まる
曾て彼が率いた薩摩の軍隊を待っているのだ
隊士「あれは!西郷殿ではないかっ!ご無事でしたかぁ」
西郷「黒服の男は何処だ、あの男を出せ」
西郷の異様な気迫に隊士は後ずさる
新軍「西郷殿、そこを退いてください。我々は若松城を落とさねばなりません」
西郷「それは分かっている!だが、お前たちを通すわけにはいかん!」
その時、ピー、ピー、ピー
短くも高い笛の根が鳴った
西郷の目前にいた隊士たちは一瞬固まったように動きが止まる
そして、次の瞬間
目は虚ろになり、徐ろに懐から何かを取り出す
そして全員が一斉に 飲んだ!!
呻き声と共に髪は白髪に変わり、瞳が赤黒く光る
口から牙が剥き出し、肌の色が黒ずんで行く
そこにあるのは夢魔そのものだった
西郷「お前たちまでもかっ、許さん、許さん!」
西郷の髪が、瞳が瞬く間に変化した
瑠璃「西郷さんっ!」
斎藤は反射的に前に出そうになった瑠璃を抑えた
斎藤「まだだ、土方さんの命を待てっ」
目の前では西郷隆盛と夢魔の戦いが始まった
瑠璃は土方の命令を待っていた
まだか、目の前で夢魔があばれている
皆が土方の方へ視線を向ける
土方「まだだ、あの男が現れるまで我慢しろ」
土方の冷静な低い声に皆の逸る気持ちが静まる
あれだけの夢魔を相手に西郷は一歩も引くことなく斬る
バタバタと隊士は倒れ、ハラハラと灰になる
その光景を拳を握って見つめる
黒服「ぶはははは、やはりお前は強い。いいぞもっと暴れろ」
西郷「貴様が操ったのか!なぜ飲ませた!これは我々の戦争であり、お前が立ち入る問題ではない!」
黒服「ほう、あの薬を飲んでも正気を保てるのか。面白い。いつまで保つかじっくり観察させてもらおう」
土方が静かに振り向くと
土方「大久保さん、新八、平助、島田。悪いが夢魔の方を頼む。決して前に出るな。他はサキュバを殺る」
皆、刀に手をかける
瑠璃「大久保さん、新八さん、平助、島田さん。少しだけいいですか。背中失礼しますね」
瑠璃は四人の背に回り気を高めると
四人それぞれに結界を張ってゆく 彼らは生身の人間だからだ
そして、相手は最新式の銃を持っている
それだけでも避けられれば彼らなら夢魔を灰に出来る
瑠璃「半刻しか持ちません」
大久保「大丈夫だ、直ぐに終わらせるよ」
土方「よし、行くぞ!」
己を信じて、悪魔に立ち向かへ




