第七十五話 暑さ故の軽率な行動です
暑い夏はまだ終わらない八月の半ばを迎えた
今夜は特に寝苦しい、障子を少し開けてみるも風がない
瑠璃「暑いぃ」
じっとしているだけなのに汗がじわりと吹き出てくる
駄目だ、眠れない風に当たって来ようかな
皆どうしてるのかな?
静かに部屋を出、縁側に座った
ケシケシケシケシケシ、ジージージー
暑くても八月の半ばを過ぎるとそれなりの虫が出てくる
秋に向かっているのはわかる
瑠璃「にしても…暑いぃ。風、全然無いじゃん。はぁ」
柱に頬を当てる、おっ!ちょっと冷たいかも
このまま此処で寝てしまいたい
昼間の疲れと、睡眠不足がこのひんやりで癒される
沖田「あれ?先約がいた」
瑠璃「総司も暑くて眠れないの?」
沖田「まあ、それだけじゃないけど。確かに寝苦しいよね」
瑠璃「うん、暑い。あと、すごく嫌な感じがする」
沖田「瑠璃も感じるんだ。もうすぐ始まる会津で戦争が」
瑠璃「そっか、もうすぐか」
瑠璃と沖田は縁にある柱を挟んで座っている
二人は冷たい柱に寄りかかり、間もなく始まる戦争を憂う
ーーーーーーー
翌朝、
瑠璃「うわぁぁ!」
沖田「なに?うっ!眩しっ」
あのまま二人はごろりと横になり寝たまま朝を迎え、強烈な朝日に晒されていた
瑠璃「あたた、身体痛いぃ」
沖田「やっちゃったね。土方さんに見つかったらお説教だから、さっさと部屋に戻らないと」
瑠璃「うん、あっ!」
沖田「今度は何?」
瑠璃「総司、もう手遅れ。う、し、ろ」
瑠璃が指す方を振り返ると、其処には一層眉間に皺を寄せた土方が立っていた
肩を僅かにひくつかせ俯いている
土方「おい双子、こんな所で寝やがって。阿呆か」
それだけ言って去っていった
瑠璃「え、怒られなかったよ?」
沖田「笑ってたね」
瑠璃「うそ!笑ってたの?あれ、笑ってたの?」
沖田はゲラゲラ笑いながら、土方さんの毒が抜けてつまらない
と伸びをして部屋に戻っていった
瑠璃には怒りで震えているように見えたが
どうもそれは笑いを堪えていたらしい
瑠璃「分かりにくい・・・」
あの人のお嫁さんになる人は彼の上を行く人か、激しく鈍感でないと勤まらない
斎藤「なにをぼうっと突っ立っている」
瑠璃「あっ、一さん。おはようございます」
斎藤「ああ、おはよう。して、どうかしたのか」
瑠璃「一さん、土方さんの怒った顔と笑いを堪えた顔の違い分かりますか?」
斎藤「どうだろうな、そのような場面に遭遇したことがないからな・・・」
瑠璃「ですよね。総司には見分けがつくみたいで」
斎藤「総司は小さいころから土方さんと一緒だからな。しかし何でそのような事を聞く」
瑠璃「実は今朝此処で目が覚めて、それを土方さんに見つかって。すごく眉間に皺が寄っていたから絶対に怒られると思ったんですけど・・・怒らなかったんです。総司が言うには笑ってたって」
斎藤「なに!瑠璃、あんたは何故このような場所で寝ていたっ。敵が侵入してきたらどうするつもりだ。無防備にも程がある、自分の置かれている状況をまだ分かっていないのではないか。だいたい瑠璃は女なんだぞ、故に・・・」
な、長い。一さんのお説教は終わりを知らない、それに間違った部分がないだけに逆らえない
余計な事を言わなければよかった、土方さんに叱られた方がまだよかった
誰か助けてください もう十分分かりましたから・・・
原田「お?斎藤と瑠璃じゃねえか」
瑠璃「左之さんっ!」
斎藤「左之、悪いが邪魔をしないでもらいたい今は瑠璃に話をして聞かせているところだ」
瑠璃「・・・(左之さん、助けてくださいっ)」
原田「・・・(おまえ何かやらかしたのか?)」
斎藤「瑠璃、聞いているのか」
瑠璃「あっ!土方さん!」
斎藤「んっ・・・あ、おいっ」
原田「もういいんじゃねえか、それ以上言ったって聞かねえって」
瑠璃は隙をついて逃げた、これ以上はさすがに凹むと土方の部屋に逃げ込んだのだった
土方「おい、いつまで隠れているつもりだ」
瑠璃「土方さんは怒らなかったのに、一さんすごく怒ってるから。それが治まるまで」
土方「はぁ」
深い溜息をつく土方だが、本当は瑠璃がこうして自分を頼って来るところが
可愛くて仕方がないのだ
(妹ってのも案外いいもんだ)




