第七十一話 切れない絆
近藤改め、大久保は土方たちと共に行くことを決めた
自分にしか出来ないことがきっとある
それは、永倉や藤堂も同じだった
何の能力もない只の人間に何が出来るのか
足手まといではないか、何度そう思った事だろう
それでも求められるなら命懸けて応えたい
皆、胸にそれぞれの思いを秘めていた
二日もすると、瑠璃は元のように動けるようになった
他人の身体は直ぐに治せても自分の事となると簡単ではなかった
瑠璃「こん…大久保さんが一緒だと心強いですね!」
大久保「はは、そう思ってもらえたら居る甲斐があったな。瑠璃くん身体はいいのか?」
瑠璃「はい!すっかり」
土方「しかし、サキュバが現れたのは計算外だったな。話に聞く限り、かなりの強者だったと」
山崎「はい、並ではありません。神田たちが来てくれなければ・・・」
瑠璃「百合ちゃん、元気だった?」
山崎「ああ」
原田「瑠璃、ちょっといいか?」
瑠璃「ん?はい、何でしょう」
いつになく真剣な表情の原田に手を引かれ外に出る
瑠璃「左之さん?」
原田「おまえ本当に心配しんだぞ、死も覚悟したんだっ」
琥珀色の瞳がゆらゆらと揺れていた
原田の想いがじんじんと伝わってくる
皆にどれほど心配をかけたのだろう
それでも私を信じて、私の我儘を通してくれた
「お前に任せる」土方さんのその短い言葉に込められた想いに
自分は気づけていたのだろうか
瑠璃「左之さん、私の事を信じてくれて、近藤さんを助けたいという我儘を聞いてくれてありがとうございました」
原田「まったく俺らの妹はとんでもない、じゃじゃ馬だな」
瑠璃「すみません」
原田はいつもの笑顔で瑠璃の頭をぽんぽんと撫でた
瑠璃「私、土方さんの所に行ってきます」
原田「おう」
土方さんは本当は私を行かせたくなかった筈だ
でも、私の思いを分かっていたから行かせてくれた
何かあれば責められるのは土方さんなのに
それでも私の信念を我儘を通してくれたんだ
こんなに優しい人を私は傷つけるところだった
瑠璃「土方さんっ」
土方「ん?どうした」
土方の顔を見た瞬間、何故か涙が溢れてきた
ああ、この人が一番損な役回りをしている
なのに、いつもそれに甘えてばかりいた
瑠璃は土方の胸目掛けて飛び込んだ
土方「おいっ!」
瑠璃「ごめんなさい!そして、ありがとうございますっ」
土方「おまえ何で泣いてるんだ」
瑠璃「だって、土方さん見ていたら泣けてきて」
土方「なんだそれ、俺が可哀想な奴みてえじゃねえか」
そう言いながら、私を受け止め優しく背をトントンしてくれた
すごく、すごく優しい顔をしていると思う
私はとても幸せだ こんなに素晴らしい家族がいたのだから
永倉「なぁ、平助。瑠璃ちゃんってよやっぱりこの時代の女とは違うよな」
藤堂「なんだよ急に」
永倉「だってよ、土方さんに抱きつくんだぜ?」
藤堂「そう言われたらそうだな。けど、土方さんも土方さんだろ。あんな顔見た事あるか?俺、あんな土方さん見たことねえ」
永倉「ああ、凄えよな」
沖田「何が凄いって?」
藤堂「だから、瑠璃が土方さんに抱きつくことだろって、総司!」
沖田「はぁ、また土方さん」
斎藤「・・・」
山崎「・・・」
短気な原田が、鬼の土方が解される
天邪鬼だった総司が素直になり
能面の様だった山崎が笑うようになり
冷酷と呼ばれた斎藤の感情が蘇った
彼女が突然降ってきたあの日
誰もが面倒なことが起きたと溜息をついた
それがどうだ 今は無くてはならない存在だ
癒しと再生の能力を持った瑠璃は
皆の心を繋ぐ絆そのものなのかもしれない
土方「明日、会津に向かう。西郷隆盛の所在を確認し、薬の出処や用途を暴かなきゃならねえ」
全員「はいっ!」




