第七十話 もう離れません、離しません
土方たちは瑠璃と山崎を探すために会津を離れることにした
土方「二人の行方を探す!」
全員「おお!」
その時、山崎の隼が上空を円を書くように舞っている
沖田「土方さん!あれ」
原田「山崎の隼じゃねえか!」
斎藤が手をかざすと、ゆっくりと降りてきた
文は付けていないようだ
島田「山崎の居場所を知っているかも知れません」
土方「お前の主人の居場所を教えてくれ」
すると隼は斎藤の手から離れ飛び立つ
ゆっくりと上昇し、南に向けて飛んだ
その隼の跡を追いながら、土方たちは走った
朝を迎えた山崎たちは小屋を後にし、会津に進路を向けた
近藤が瑠璃を背負い、山崎が道を先導する
どこに軍が潜んでいるか分からないからだ
早く合流したい。その思いが足を急がせる
近藤は着物を捨て、皆と同じ洋装に着替えている
これも近藤が近藤勇と決別した証なのだ
山崎「もう時期、日が暮れます。何処かで休みましょう」
近藤「そうだな。山崎くん、瑠璃くんに水を」
瑠璃を下ろし、水を口に含ませる
飲み込めずに横から流れてしまう
それでも僅かでも水を取らせなければならない
近藤「頑張るんだ!直ぐにトシたちと合流できる」
辺りはすっかり暗くなり、ようやく小さな小屋を見つけた
だが、人の気配がある
敵か見方か疲労で頭がうまく回らない
近藤「駄目元だ、行ってみよう」
山崎「もし、敵なら!」
近藤「怪我人を連れているんだ、流石に敵でも情けくらいはあるだろ」
山崎が制するのも聞かず近藤は瑠璃を背負ったまま
その小屋へ突き進んで行く
辺りを警戒しながら山崎もその後に続く
ガタッ、ドンドン、ドンドン
近藤「夜に申し訳ない、怪我人がおりまして一晩屋根を貸してもらえないだろうか」
「・・・」
二人は相手の返事を静かに待つ
島田「土方さん、誰か外に居ます。一晩屋根を貸してくれと」
土方「人間か」
島田「はい、人間だと思います」
原田「俺が出る」
原田が戸の前に立ち、ゆっくりと開ける
月の光を背にした大きな影が立ちはだかる
原田「!?」
土方「おいっ、どうした」
僅かな沈黙の後に聞こえた言葉は
原田「こ、近藤さん!!」
全員「なにっ!」
其処に立っていたのは瑠璃を背負った近藤と山崎だった
土方「あんた、生きていたのか!」
山崎「遅れて申し訳ございません」
沖田「瑠璃っ、瑠璃は!」
近藤「すまない、私を助ける為に彼女が怪我を負ってしまった。彼女を助けられるのは君たちしかいない。頼む、助けてくれ」
近藤が瑠璃をゆっくりと降ろす
瑠璃は目を閉じたままだ、時折眉を寄せる仕草が見られる
斎藤が瑠璃の手を取り、片方の手て頬を撫でる
斎藤「瑠璃」
山崎がこれまでの事を報告した
突然、サキュバらしき人物に襲われたこと
それを神田たちに助けられた事、瑠璃を救う方法などを
永倉「瑠璃ちゃん、しっかりするんだ」
藤堂「頑張れよ、な?」
瑠璃を土方、原田、斎藤、沖田の四人で囲む
目を閉じ瑠璃のことを想った
蒼、紺、朱、白色の光が交わり瑠璃の身体を包み込んだ
ふわりと瑠璃が浮く
身体中にあった傷が少しづつ癒えていく
恐らく折れていたであろう肋骨と肺の傷も塞がると
ゆっくりとその身体は床に降りた
四つの光は消えた
土方「助かったのか?」
原田「分からねえ」
山崎が瑠璃の脈を確かめる
山崎「大丈夫だと思います。呼吸も安定しています。かなり疲労が溜まっていますから目覚めるまで今暫くかかるかと」
沖田「よかった。瑠璃、君はどれだけお転婆娘なのっ」
涙目の沖田が瑠璃の身体を抱きしめる
暫くは様子を見ることにした
土方「近藤さん!よかった、生きていたんだな」
永倉「危うく仇討ちするところだったぜ」
近藤「ああ、皆には礼と詫びをしなければならん」
原田「詫びってどう言う事だ」
近藤「私は自分が死ねば、皆の命は助かる。足枷にもならずに済む。武士らしく潔く去る事ばかり考えていた。それが皆の為、己の為だと信じてな」
土方「近藤さん・・・」
近藤「だが、違ったようだ。分かったよ私は生きるよ、まだ出来ることがあるはずだ」
沖田「近藤さん、生きてくれてありがとございます」
近藤「総司、すまなかったね。それから私はもう近藤ではない、大久保だ。よろしく頼む」
近藤は大久保剛として生きることを選んだ
腰には近藤勇の形見である虎徹を差して
斎藤は眠り続ける瑠璃の側に座っている
只、黙って瑠璃の髪を手で梳き頬を撫でる 慈しむように
斎藤は思った、もう二度と何があっても瑠璃の側は離れない
自分たちは二人で一つの命を与えられている
死ぬときは一緒にと心に誓ったのだ
暫くすると瑠璃の瞼がピクピクと痙攣し
ゆっくりと瞳が開かれた
斎藤「瑠璃?分かるか、俺だ」
瑠璃「ん…、あ、はじめさん?夢?」
斎藤「夢ではない」
瑠璃「え、本当に?」
斎藤「ああ」
瑠璃は重い身体に力を入れ、両腕を斎藤に差し出す
それに答えようと斎藤が瑠璃を抱え起こし
自分に寄りかかるように抱きとめる ぎゅうっと力を込めた
瑠璃「あぁ本物だ、一さんの匂いがする」
斎藤「瑠璃」
瑠璃「一さん、会いたかったぁ」
斎藤「もう、二度と離れん」
その姿を離れて見ていた土方たち
瑠璃が目を覚めたことの安堵感がじわりと胸に染み渡る
瑠璃と斎藤は離してはいけないのだと改めて認識した
沖田「土方さん、因みに僕もですから」
土方「あ?何がだ」
沖田「僕たちは双子ですから」
土方「ちっ、双子ってやつは面倒臭いな」
原田「でも、良かったな」
永倉「ああ、ううっ、くぅぅ」
藤堂「新八っさん、泣くなよっ」
島田「藤堂さんこそ」
山崎「島田っ、お前もだ!」
近藤「ははっ、こういう時は泣いてもいいんだぞ」
まだ戦いは続く、これは単なる通過点にしか過ぎない
もっと過酷で残酷な事があるかも知れない
それでも彼らは進むしかない




