第六十九話 死と生
沖田「一くん、瑠璃の手紙まだ持ってるの?」
斎藤「ああ」
沖田「なんかさ、僕不安なんだよね。胸騒ぎがするんだ」
斎藤「総司、やはり感じるのか」
沖田「うん、でも一くんが生きてるんだから瑠璃も大丈夫だとは思うんだけど・・・」
斎藤「まもなく土方さんたちも会津入りする。そしたら、俺は」
沖田「行きたいんでしょ。此処も動き出すのはまだ先だしね」
斎藤「・・・」
瑠璃に振り上げられた剣が迷うことなく振り下ろされた
ギッ…キーン!グググ
無意識に刀で受け止めたのか?
いや、腕は上がっていない 多分私は死んだ
薄っすらと目前に見えたのは誰かの背中
そのまま瑠璃は目を閉じた 一さん・・・ごめ、んな、さ…
侍「貴様、思ったより速いな」
山崎はぎりぎりの所で瑠璃の前に滑り込み
自らの刀で受け止めた
右手で鞘を握り左掌で刃先の峰を押さえなんとか耐える
山崎「くうっ、お前がサキュバか」
侍 「ふはははっ」
もう一度剣を振り上げ、山崎目掛けて突出したその時
ブシュッ、ブシュッ… フグッ!
男の肩に鉄の矢のような物が数本刺さっている
侍 「誰だ!邪魔をする奴は!」
振り返ると其処に居たのは、二人の鬼と天狗の姿があった
山崎「真田くんか!」
百合「山崎さん!大丈夫ですか。瑠璃さんっ!」
神田「佐伯瑠璃、運のいい女だ、乾!」
乾 「承知した」
乾は軽々と瑠璃を抱え背にある翼を羽ばたかせ宙に舞うと
そのまま飛び去った
いつの間にかサキュバも姿を消していた
百合「山崎さん!早く行きましょう」
山崎「すまない」
近藤を連れ関所を越えると山里に忘れられた小屋があった
そこで夜を越すことにした
近藤「私は生きているんだな、君たちのお陰で」
山崎「近藤さんには生きていて貰わないと困ります。我々の心の支えなんです。その支えを瑠璃くんが守ってくれた」
近藤は黙って未だ目覚めない瑠璃の手を取り優しく摩る
神田「世間では近藤勇は死んだ事になっている」
近藤「そうか」
百合「貴方は今日生まれ変わったんです。新選組の為にもこれから先も生きていてください」
近藤「・・・」
乾 「それより、このままでは彼女の命が危ない。我々の気を試しますか?」
神田「彼女が受け入れるか分からんが」
三人は瑠璃を囲みそれぞれの気を送り込む
瑠璃は苦しそうに眉を寄せている
僅かではあるが、瑠璃の呼吸が整い始めた
神田「我ら三人の気を持ってしてもこの程度だ。出来るだけ早く兄弟たちと合流した方がいいだろう」
山崎「分かりました」
神田「我々はここで別れる。佐伯瑠璃が助かる事を祈っている」
百合「瑠璃さん、頑張ってください」
三人が去った後、残された近藤は
近藤「山崎くん、夜が明けたらトシの元に急ごう」
山崎「近藤さん」
近藤「私は大久保剛として生きる、近藤は死んだんだ」
山崎「・・・」
新選組、局長の近藤勇が死んだという話は瞬く間に広がった
その話は会津で合流した土方や斎藤たちの元にも届いた
土方「近藤さんが、死んだ」
原田「駄目だったのか」
沖田「くそっ!」
斎藤「・・・」
永倉「敵を、敵を打つしかねえ」
藤堂「うう・・・近藤さん!」
近藤が死んだ、瑠璃と山崎からの連絡も途絶えたまま
絶望という闇が六人を襲う
会津には間違いなく西郷隆盛は居る
官軍も若松城を落とすために進軍して来る
土方「俺たちは!どうすりゃいいんだ!!」
時間は無残にも進む
こうしている間にも悪魔はすぐ後ろに迫っている
土方に初めて大きな壁が立ちはだかった
斎藤「瑠璃は生きている」
原田「なぜ分かる」
斎藤「瑠璃と俺の命は二人で一つだと、神が」
沖田「そうだよ、瑠璃を探さないと!」
瑠璃は生きている!




