第六十五話 友の心を引き継いで
薩摩が率いる新政府軍が江戸に入ったのは二月下旬
その後、勝海舟は江戸城に入り木戸孝允、大久保利通らと
江戸での戦争を回避すべく会合が幾度と持たれ
江戸城無血開城が下り徳川幕府は江戸城を受け渡した
これで江戸時代は終わりを告げたのだ
慶應四年、年号は明治と変わった
土方「徳川の時代は終わった、戦争も回避された。俺たちは先回りして会津に入る。まだ、東北地方は反発してるからな戦争する事で躍起になっている」
原田「ああ、薩摩の連中も今回の件で腕透かしにあったようなもんだからな、戦争したくてうずうずしてるだろ」
永倉「近々、会津に向けて進軍すると聞いてるぜ」
そこへ山崎が血相を変えて入ってきた
山崎「報告です!上野で彰義隊と官軍がぶつかり合っています!」
土方「なんでそうなるんだ!」
原田「どう言うことだ!」
山崎「薩摩が幕府所属の彰義隊排除に掛かったと聞いておりますっ。一部、夢魔も投入されたと」
藤堂「まずいって」
沖田「確か彰義隊って阿片の」
瑠璃「!?」
斎藤「土方さん我々は」
土方は腕を組み、目を閉じる
くそっ、薩摩は本当に余計な事をしてくれやがる
土方「すまん、ここで二手に分ける。斎藤、総司、新八!会津に先回りして官軍と会津藩の動きを探ってくれ!」
斎藤「はい」
土方「後は俺と、上野に向かう!夢魔はともかく、彰義隊は生身の人間だ!可能な限り、戦わずに退かせる!」
原田「了解」
彰義隊と官軍の闘いは後に上野戦争と呼ばれている
瑠璃「一さん、お気をつけて」
斎藤「ああ、瑠璃も無茶はするな」
瑠璃「はい」
沖田「瑠璃、あの人たちが暴走しないように見てて」
瑠璃「うん」
永倉「会津で待ってるぜ」
瑠璃「はい、後ほど」
斎藤ら三名は会津へ
土方ら五名は上野へ向かった
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上野では既に彰義隊が官軍を迎え撃っているところだった
どちらも引かず、互角の戦いだ
だが、計ったかのように官軍は夢魔を投入してきたのだ
原田「土方さん!このままじゃ彰義隊も阿片で作った薬を使ってくるぜ!どうする!」
土方「お前と瑠璃は彰義隊にここを退くよう説得してくれ、俺たちは夢魔を出来るだけ止める!」
原田「おう、瑠璃行くぞっ」
原田と瑠璃は彰義隊に向けて走った
急がないと、もうかなりの隊士が倒れている
そして、出撃の命令を待つ彰義隊第三部隊の前に出た
隊士「お前は何者だ!そこを退け!死にたいのかぁ!」
原田「おい、ここの大将を出せ」
新井「誰だ?大将を出せだと?・・・っ、原田!」
原田「新井っ、お前がここの大将か」
新井「なんだ、お前も官軍を打ちに来たのか?」
原田「いいや、俺はどっちの肩も持つ気はねえ。頼む、此処を退いてくれ!相手は夢魔って言う化物を使って此処に向かってる」
新井「なんだと!だったら尚更退く訳にはいかねえ、江戸は俺達が守るんだ!いくら原田お前の頼みでも聞けねえ。邪魔するなら・・・お前を斬る!!」
瑠璃「左之さん!」
原田「そうか、そこまで腹座ってんなら仕方ねえ。俺だって退く気はねえんだよ」
新井「くっ、原田!お前はいったい何なんだよ!」
原田「俺か?俺はな新選組、十番組組長、原田左之助だ!これより先は誰であろうと一歩も通さねえ!」
原田は持っていた槍を新井に突き出し、そう叫んだ
原田の身体から凄まじい気が放たれる
新井「お前が、新選組・・・上等だぁ」
二人の立会が始まった、皆息を呑んで見ていた
本来なら原田が有利になるに決まっている
だが、新井の剣も驚くほどに早い
瑠璃「こ、これ。まさか!」
新井は出撃の命令を待っている間に薬を飲んでいたのだ
原田「てめえ、あんな薬は使わねえって言ってたじゃねえか!」
新井「煩いんだよ!生身の人間が化物に勝てると思ってるのかよ!俺はな自分が化物になっても、此処を守らなきゃならねえんだ」
原田「人が人でなくなっちまうんだぞ!」
新井「俺は人でなくなっても武士として死ねれば本望だ。お前を倒して、彰義隊は官軍に突撃する!」
後ろで控えていた隊士たちは大将の気迫に煽られ動き出す
原田の槍は躊躇いを隠せない
相手は人間で曾ての仲間なのだ
瑠璃は彰義隊の動きを止めるべく動く
指先に気を集めて、十本の指から空砲を放つ
ピューン、ピューン、ピューンッ
瑠璃は確実に隊士たちの動きを止めていく
隊士「うっ、動かねえ!」
それを見ていた新井は
新井「お前らも化物なのか」
原田「俺たちも言われたら化物なのかもしれねえな、だが紛い物じゃねえ、正真正銘の化物だよ!」
新井「オラァァ」
新井の瞳が赤く光り、頭髪が見る見る白くなる
原田「おまえ、阿片じゃねえのか!何を飲んだっ!」
新井「ウォォォォ!」
新井は正気を失っている、原田の声は届いていない
こんなになっても、武士の心は無くしちゃあいねえってのか
そこまでしてお前は武士でありたいのか
だったら俺も答えてやらなきゃな、お前の信念に
原田「新井!お前の心は、俺が引継ぐ!」
原田の気によって大地が震える
玄武の槍が稲妻の如く、新井の心臓を貫いた
新井「グハッッ、ンガァァ!!はら、だぁ!」
ハラハラと砂のように崩れ落ちる
此処に一人の武士が散った
瑠璃「左之さん」
原田「瑠璃、悪いが彼奴を天に返してやってくれないか」
瑠璃「はい」
瑠璃の手によって御霊は一筋の光となって天に返った
見上げれば雲ひとつない澄み渡る五月の空
原田はそっと目を閉じた




