第六十三話 正義とは
ここは信州諏訪の国、まだ雪が深く残る山里に百合たちはいた
乾 「神田殿、これを」
神田「ほう、新選組が罪人に問われておるとは」
百合「どういう事でしょう」
乾 「池田屋事件を起こした罪を新政府軍から問われているようです」
百合「どうして今になって、新選組は解散したと聞きました」
神田「邪魔なんだろ、神の力に目覚めた彼らが目障りで仕方がないとな」
百合「サキュバ・・・」
乾 「実際、彼らであればこのような手配書はなんの足枷にもならないでしょう、しかし・・・」
神田「もし、元局長の近藤勇が捕えられたらどうなる」
百合「はっ!?」
乾 「手も足も出なくなるでしょう」
神田「近藤勇は新選組の最大の弱みだからな」
百合「そんな」
乾 「神田殿どうしますか、我々は近藤勇を探しますか」
神田「我らには関係ない、と言いたい所だがな」
百合「・・・」
羅刹天である神田はサキュバの思惑を見抜いていた
そして異国から渡ってきた阿片を旧幕府軍が大量に購入しているという事実も
独自の道で情報を掴んだ神田はまだ迷っていた
その頃、島田は近藤と共に江戸に向かっていた
島田は近藤と共に歩みたいと願い出たのだ、その熱い思いに近藤も答えた
行く末の見えない戦いを憂い、出来れば自分も土方らの力になりたい
だが、足手まといにはなりたくない 葛藤の旅でもあった
近藤の人柄からか行く先々で慕われ、時に村の若者に剣の稽古をつけてやることもあった
そんな中、山崎から文が届いた
島田「近藤さん、山崎からの知らせです」
近藤「おお、読んでくれ」
島田「元新選組に池田屋騒動の罪が問われていると」
近藤「なに!我々が罪人扱いだと?」
島田「はい、今や幕府は倒れたも同然ですから」
近藤「そうか。あの時は正義と持ち上げられたが、今は罪人か」
この日から、近藤は大久保剛と名乗るようになる
近藤は悩んでいた、江戸に入るべきか
日野に住む家族の顔を一目見ようと足を向けたが、今や罪人であり全国に手配書が及んだ
世の流れは武士の終わりを告げようとしている
このまま逃げ、隠れて世を過ごすのか
武士としてまだ何か出来る事はないのか 己の誠とは
目を閉じれば、土方や沖田と共に過ごした日々が蘇る
道場を開き武士になることを誓い、百姓侍がお上の為に駆け上がった日々を
近藤「武士か、私は武士らしい事をしてきたのだろうか」
島田「近藤さん」
近藤「トシたちの足を引っ張るわけにはいかんからな」
島田「・・・」
近藤はこの時、何かを確かめるようにそう呟いた
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その頃、瑠璃は龍馬が潜んでいる寺に来ていた
瑠璃「龍馬さん例のイギリスからの阿片についてなんですが」
龍馬「ああ、あれは恐ろしい薬じゃ。噂によると、旧幕府軍はその薬を軍に使いよるらしい」
瑠璃「えっ、どういう事ですか」
龍馬「あれを使えば恐怖も痛みも苦しみも感じんごとなる、それで新政府軍の化け物と戦おうとしちゅうがよ」
瑠璃「そんな!」
阿片を吸わせ恐怖や苦痛を制御し、夢魔と戦わせようとしている
そんなことをしても夢魔には勝てないのに
瑠璃「龍馬さん、ありがとうございます。私はこれで」
龍馬「ああ、おんしらも気を付けたほうがいい」
瑠璃は土方のもとへ急いだ
瑠璃「土方さん!」
土方「どうした」
瑠璃「イギリスが持ち込んだ阿片を旧幕府軍が買っています」
土方「買っている?」
瑠璃「はい、阿片を軍人に吸わせて戦争の恐怖を取り除き夢魔と戦わせようとしています!」
土方「ちっ、厄介ごとは次々と起きやがる」
土方は原田と藤堂に阿片の足取りを調べさせることにした
この江戸で軍隊と呼べるものは彰義隊しかない
彰義隊に昔の馴染みがいる原田なら何か分かるかもしれない
藤堂「左之さんとその彰義隊にいる馴染みって、どんな仲だったんだ」
原田「ん?俺が伊予から江戸に出て来た時に、いろいろと助けてもらったんだよ」
藤堂「ふうん、じゃあ近藤さんとこに来る前からの知り合いか」
原田「そういう事だ」
原田と藤堂はその馴染みから情報を得ようとしていた
原田「おお、新井悪いな忙しのによ」
新井「原田、元気そうじゃないか。こちらは?」
原田「藤堂って言うんだ、京で一緒に働いてたんだ」
藤堂「どうも」
原田は自分たちが新選組である事は伏せていた
新井「浪士組で京に行ったっきりだもんな」
原田「そんな事もあったな。おまえは出世したんだろ?なんだっけ、彰義隊か」
新井「おう、まぁ出世したかどうかはさて置きだ。将軍の代わりに江戸を守らなきゃならねえからな、それ成りだ」
藤堂「すげえよな、相当鍛えてるんでしょう」
新井「毎日訓練だよ。ここだけの話、薩摩は化物を使ってくるらしいんだ。だからよ半端なくしごかれてるよ」
原田「大変だな。化物ってまた物騒な話だな」
新井「ああ、お前だから言うけど・・・」
酒の席、懐かしい友、自分の方が出世している
そんな雰囲気が彼の口に拍車をかけた
間違いなく、阿片は彰義隊に使われていた
原田「おまえヤッてねえよな?」
新井「まさか、そんな人が人でなくなるもん誰が使うかよ。死ぬ時は武士らしく死にてえからな」
原田「そうか」
新井「そういやあ原田は何やってるんだ」
原田「俺か?俺は気がむくままにだよ」
新井「ははは、相変わらずだな。暴れたくなったら俺んとこに来いよ!槍が錆びちまうぞ」
原田「考えとくよ、じゃあな」
武士らしく死にてえ…か
あいつは、あいつなりにこの国の為に頑張ってるんだよな
人が人でなく、武士が武士でいられなくなるような
阿片だの夢魔だの絶対に許しちゃおけねえ
原田「平助、帰るぞ」
藤堂「ああ」
原田たちは新井を見送った後、店を後にした
新政府軍の到着まで、あと七日を切った




